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里から離れてとある街で宿屋をしていたら、初恋が思い掛けずやって来た。ら、なんか雰囲気に流されて食って食われた【いち】
――混血か・・・あやつも、面倒なものを残してくれる・・・
――混血混血って、それが何だと言うんだ!トゥマと僕らは、なにも変わらないじゃないか!
――トゥマエレ?が、どうしたの?僕には関係ないよね?
――この人に近づかないでっ!二度とその顔を見せるな!
――俺一人だけでも、お前を守ってやる!だから、ここに居ろよ?
――お前は里を出ろ。出て、もう二度と戻ってきてはいけない。
ふと、目が覚めた。
ゆっくりと瞬きを繰り返していくうちに、意識がはっきりと覚醒していく。
「ふあぁぁ・・・、懐かしい、夢を見たな・・・。百数十年くらい前、か?」
銀糸の髪の毛をバリバリと掻いて、大きな欠伸と共にどうでも良いように呟いた。
その呟きは天幕の中で虚しく溶けていく。
ふう、と短く息を吐いた後はそんな呟きすら言った事を忘れているかの様に口許に笑みを作り、天幕の中をぐるりと見る。
「やっぱ、天幕貰っといて正解だな。旅が断然快適になった。・・・あの賞金首もいい金になったし」
ぐっぐっ、と固まった身体を伸ばす様にストレッチをしながらチラと相棒の両手剣と、賞金首を捕まえた時に得た賞金が入ったザックを見る。
見て、数秒後にニヘラ・・・と相貌を崩した。
「いやー、ルーカ、可愛かったなぁ。結局ヤリ過ぎちゃったけど・・・、今頃ちゃんとルベルバックへ着いたかな」
視た時、ルーカから伸びた糸はルベルバック王国へは伸びておらず、来たと言っていた村の方角へと向いていた。その光の糸は、魂の伴侶とまではいかないが、普通のものよりは強い絆の様に視えたが、今後どう変わるかは当人次第だ。
「ふん、慌てて追ってきて、ルーカがもうエッロエロに開発されてるの、たっぷり悔しがればいい。好きな相手を周りの環境の所為にして傷つけたんだ。・・・精々ルーカに残る俺の爪痕に後悔しろ」
なんて独り言を吐きながら簡単な朝食を終わらせて天幕を折り畳む。
黒いキャソックは初夏にしては暑くなりそうな今日にはなかなか辛いものになりそうだ。と手を翳した先の太陽を薄目で見ると、両手剣を腰に佩き次へと向かう先を適当に決めながら歩き出した。
「よし、今日はあの街まで行ってみようか・・・」
久しぶりにルベルバックの同盟国であり、あの司祭が居た教会のある街を思い出す。
あの司祭は既に他界しているが、その意思を受け継ぐ者は、司祭に司教、大司教と出世している人達が大勢いた。
行けば何かと「ノラ司祭なんかやめてしっかり登録しろ!」と怒られるが、大体は「仕方のない奴だ」で終わらせてくれるいい人達ばかりだ。
「久しぶりに教会のベッドで寝れるかな・・・」
+++++++
「すまない、トゥマエレ司祭。ここ、1、2年程前から孤児を預かり始めてね・・・。もう少しで孤児院も完成するんだが・・・」
「つまり、ベッドが無い。と・・・」
「孤児達と寝る事になるが、それでもかまわ・・・いや、構うな。こっちが・・・」
歩く成年指定みたいな奴を多感な子供達と同衾させれるか。と教会を預かる司教が目の前のトゥマエレを前に隠しもせずに言う。
それを受けてトゥマエレも苦笑しながら「いくら何でもガキに手は出しませんて」と笑った。
「お前に惑わされるというんだ。少しはその容姿に自覚を持て」
「持ってるんですけどねぇ・・・?」
「ま、兎に角、教会のベッドは満員御礼だ、悪いな。この先の丁度街の中央の噴水近くに宿屋がある。そこに私の名前を出せば少しは安く泊まれるだろう・・・」
「・・・仕方ないですね。そうします」
「トゥマエレ司祭。君の活躍は聞いている。もうそろそろ正式に認定を受けたらどうだ?」
「はは・・・。申し訳ない。もう少し、風の向くままに歩かせてください」
「そうか・・・。立ち止まりたくなったら、何時でも来なさい。私達は何時でも君を歓迎する」
向けられる優しい声と眼差しにトゥマエレは気恥ずかしくなって、くるりと司教へ背を向けると片手を上げたことでそれを返事として宿屋へと歩き出した。
この司教、数十年後に教皇として立ち、のらりくらりと躱すトゥマエレをふん摑まえて司教、大司教そして、総大司教にまで持ち上げた立役者でもある。
その次の教皇も総大司教の経験を積んだトゥマエレを枢機卿へと押し上げるのだが、それはまた別の話。
ぶらぶらと街を歩くと、流石に数十年も経てば変わるものだとトゥマエレはあちらこちらを見ながら歩を進めていく。
あそこの店には世話になった。や、あの娘の婆さんは、それは気風のいい美人だったとかが思い出されて、時間の流れに置いて行かれている自分が少しばかり寂しくなってきた。
「やっぱり、あんまり良いもんじゃないな・・・時の流れがまざまざと解ってしまう」
自分一人置いて行かれる感覚。さっきの司教もゆっくりだが、年を重ねていた。
自分を知っている人に「お前は変わらないな」と言われる度に、少しだけ寂しさを覚える。
だから、その寂しさを感じない様に、根無し草の様にふらふらと動いているのはトゥマエレ自身も解っていた。
サマリティシア教の生命と技巧の男神『ヴィダテヒニャカ』。ギフトはこの男神の祝福。だからこそ、ギフト保持者は長命になる。珍しいギフトであればある程に。
そしてトゥマエレは、珍しいギフトを授かり、後発的に発覚したギフトで特に珍しいダブルとなった。
その事もあり、殊更長命となり、純粋なヒト族でもなく、長命種の純血でも無かったが、受け継いだ長命種の血もまた、トゥマエレが長命なのを手伝っていた。
百年経っても未だ老いを感じぬ身体を持ち、長い年月を独り、歩いていた。
「一泊したら、街を離れよう。・・・駄目だな、変な里心を出すから、こう、しみったれた心境になる・・・ここか」
今朝見た夢の所為もあるかもしれないな、なんて口の中で呟いて目の前の建物を見上げた。
前に来た時も宿屋だったかな?と扉に手をつき軽く押した。
「いらっしゃ・・・」
視線を下げたまま中に入れば、店主だろうか、男の声が出迎えの言葉を途中で止めていた。
トゥマエレはどうせこの顔に言葉を失っているんだろう。好みだったら引っ掛けて食っても良いが、と視線を上げた。
「トゥマ、エレ・・・」
「っ!邪魔したな」
「待てっ!」
視線を上げた先には今朝、珍しく思い出した、里に居た1人の男だった。
混血だからと大人達に冷遇されていた里で、数少ない同年代の子供達は分け隔てなく接してくれていた。ある日までは。
思い出したくもない記憶が、今朝の夢と、この、今トゥマエレの腕を掴んでいる男に依って蘇る。
柄にもなく、慌てて今来た道へと戻ろうと踵を返すが、間近にいた店主に腕を掴まれ、ビクリと身体が硬直した。
「待ってくれ・・・。もう、この時間から他の宿を探そうにも難しいと思うし・・・折角、久しぶりに会ったんだ。・・・話がしたい」
必死な懇願に、腕を掴む手は汗をかいている。
トゥマエレは数回深呼吸を繰り返すと振り返り「離せ」と短く言うと顎で指図をする。
逃げるなんて性に合わない。そうだ、何を戸惑っている。遥か昔の事じゃないか。
ただ、意図せず偶然会っただけじゃないか。とトゥマエレは自分に言い聞かす。
「っ、懐かしいな。お前に会うまですっかり忘れていたよ。悪い、まさか里の人間にこんなところで出会うなんて思いもしなかったんだ。・・・泊まれるか?一泊で良い」
「い・・・いや、大丈夫だ、です。一泊、ですね?直ぐに用意できますから・・・トゥマエレ」
「仕事をしろ。お前は店主で俺は客だ。・・・話はそれからだ」
「っ、解った・・・、すまない。・・・食事は、どうされますか?夕食・朝食付きなら1000リル追加払いで用意できますが・・・」
「食事は両方とも部屋で摂りたい。できれば、部屋に風呂があると良いんだが・・・あ、司教から紹介されてきたんだ。幾分は安くなるんだろ?」
「司教様の・・・トゥマエレも教会関係者なのか?それ・・・」
「まぁな。で?部屋に風呂、付くか?」
「あ、ああ。さっきキャンセルが出たんだ。うちの中で一番の部屋だよ。角部屋で見晴らしもいい。隣はリネン室になっていて、他の部屋からも多少は離れているから気を使わなくて済む。だが、いくら割引するとはいっても、高いぞ?」
「じゃあ、そこで。金は気にするな。多少なりとも持っている」
「解った・・・。おい、特別室に案内してくれ・・・あぁ、よろしく。くれぐれも失礼の無い様にな」
通り掛かった従業員に店主の男は声を掛けて部屋の鍵を投げて渡す。
若い従業員は短く返事をして鍵を受け取るとトゥマエレへと向き直り、トゥマエレと目を合わせる前に小さく息を飲んだ。パクパクと口を動かして声を出そうとするが、出せない従業員にトゥマエレは疲れた様に息を吐く。
「早くしろ!いつまで呆けているんだ!」と怒声を浴びせられてビクゥ!と身体を跳ねさせる。
油の切れた歯車の様にギ、ギ、ギ・・・と動き出すと、従業員はトゥマエレをなるべく見ない様に歩き出した。
「し、失礼しまし、た。こちら、です・・・」
「あぁ、頼む」
なんとか動き出した筈の従業員はトゥマエレの声に再び硬直する。
うわわわわ・・・と言いながら両腕を摩る従業員の耳は赤く色づいていた。
それを見て、ふん。と鼻で笑いトゥマエレは従業員の手から鍵を奪うと階段へとスタスタと歩いていく。「何処だ?」と部屋の場所を聞けば、カウンター内で一部始終を見ていた店主が「二階、右の突き当りだ」と教えてくれた。
トゥマエレは視線だけを店主へ向けて「少しばかり寝る。夕食の時間になったら勝手に部屋に持ってきてくれ。お前がな」と言い残して階上へと上がっていった。
+++++++
コンコンコン。
ノックの音が仮眠の終了の合図になった。
今朝とは違い、ひとつも夢を見る事もなく目が覚めたトゥマエレは「どうぞ」と扉へと声を掛ける。
「悪い、鍵を・・・、扉を開けてくれないか?両手が塞がっているんだ」
扉越しのくぐもった声が聞こえてくる。
トゥマエレは気怠そうにベッドから降りて扉へと近づく。
「どうぞ・・・」
「失礼します。・・・ここに置いておく。じゃあ、俺はこれで・・・」
中央のテーブルに置くと、そそくさと出て行こうとする店主にトゥマエレは「なあ」と短く声を掛けた。
「なんで、さっさと出て行こうとする。他でもなく、お前が、話がしたいと俺を引き留めたんじゃないのか?」
「・・・まだ、仕事が残っている。・・・あと、一時間後、ここに来る。・・・良いか?」
「好きにしろ。風呂に入っているから、鍵は開けておく。好きに入って来い」
「解った・・・、では、失礼します」
閉まっていく扉の向こうに店主の姿が消えるまでトゥマエレはその後ろ姿を見詰めた。
パタンと音がしてから静かに息を吐き出し、知らず握っていた拳を開いた。
「緊張しているのは、お互い様ってか・・・?」
へっ、と皮肉気に自嘲するとトゥマエレは運ばれてきた食事に手を付ける。
「意外と美味いな」と呟きながら食事を平らげていった。
空になった食器を見下ろし、満足そうに息を吐くとトゥマエレは立ち上がり服を脱ぎ捨てていく。
黒いキャソック姿から露わになった白い肌に銀色の髪がサラサラと流れ落ちた。
壁際に立てられていた姿見が裸のトゥマエレを映し出す。
銀色の髪、淡い金色の瞳。手入れもしていないのに滑らかな真白い肌は日に焼けず、手に吸い付くように肌理細やか。
顔は女神と謳われるほどに女性の様な美貌をしているが、身体は傭兵をしていた過去もあり、旅を続けている今も鍛錬を欠かさない為に鍛え上げられた筋肉がついた男らしい姿だった。
それがアンバランスな筈なのに、何故か完成されたひとつの美術品の様だった。いや、美術品なんてものじゃない、これぞ神が創った最高傑作の様な存在だった。
それをただ仄暗い眼で一瞥するとトゥマエレはバスルームへと歩いていく。
この容姿を好ましく思ったことはない。が、里を出てからは上手く使って生きてきた。
シャワーヘッドからザーザーと流れ出る水を顔に打ち付けてトゥマエレは考えた。
(何故、あいつがここにいるんだ?)
今更ながら思ったことにトゥマエレは「はぁ?」と声を上げる。
「は?俺は馬鹿か!?なんで、そこを疑問に思わないでいた?」
あんな閉塞的な里から出てくるなんて変だと思え?とトゥマエレは自分がまともに働いていなかった自分の思考回路に叱咤する。
乱暴に湯で満たされたバスタブへと自分の身体を放り込むとトゥマエレはやっと一息ついた。バスタブに背を預けて足を伸ばす。そこそこ長身のトゥマエレが手足を伸ばしても余裕のあるバスタブだった。
「閉鎖的だった里が開けたのか?・・・まさか、な。考えられない。あそこは変わらない。変わる訳がない・・・」
ジャブジャブと中の湯で顔を洗うと「疑問は尽きないが、まずは話を聞かないと・・・な」とトゥマエレは天井を仰いだ。
店主の今の姿を思い出す。里を出た頃からは多少は年を重ねている様に見えたが、そう変わりがなかった。
「ギフト持ちでなくても、流石、耳長族の純血種か・・・俺とは大違いだ」
濡れた前髪をかき上げるついでに自分の耳に触れる。つるりとした丸い形を指先でなぞった。
夢の中の奴らも、さっき見た姿の店主も細く長く尖った耳を持っていた。
その尖った耳の先の方にキラと光る雫型の少し古ぼけた、いや、もう既に骨董品に近いデザインのピアスがあった事を思い出す。
「なんで、後生大事に付けてるんだよ・・・いや、ただ単につけている事を忘れてるだけか?」
こっちだってピアスを目にして、やっと思い出したぐらいだ。そこまで感傷に浸るつもりは無い。と身体をズラしてお湯の中へと頭の天辺まで入れ込んだ。
里は種族上の特性なのか、出生率が低く同年代の子供達が少なかった。そんな少ない皆で揃えたピアス。
店主と、里の長の子供と、あと、魂の伴侶だった2人。そしてトゥマエレの5人でいつまでも一緒に居ようと子供染みた誓い。
1人だけ短い耳のトゥマエレだけが耳朶に下げて、それが常に見える様にしていた。
自然と耳朶に指先で触れる。
何もついていない、ピアスホールだけが微かに指先に感じられた。
ザバァ・・・つ
「トゥマエレっ!大丈夫か!?おい!」
突然、湯の中から引き上げられ、思考の海からも戻されたトゥマエレの眼前に現れた店主、ディロランの顔に驚き、トゥマエレの手が何も考えず目の前の人物の頬を捉えた。
バッチーーン!という音がバスルーム内に響き渡る。
と同時にトゥマエレを抱き上げた手が離れるとディロランをバスタブの中へと引き込んだ。
「あ・・・、悪ぃ。つい・・・」
「ゴボッ!・・・ブハァッーーーハァッハァッ・・・お前はっ!なんでいつもいつも俺にだけ当りが強ぇんだよ!」
「気のせいだ、気のせい・・・大丈夫か?」
ぐい、とディロランの腕を掴んでトゥマエレは引き上げてやる。
全く悪びれることの無いトゥマエレにディロランは「あぁ」と短く答えた後、肩を震わせる。
「ははっ!さっき迄の気不味さなんか、どっかぶっ飛んだよ!全く・・・会えて、良かった」
ディロランは、里で冷たい大人達の目にビクビクしながら幼少期を過ごしていたトゥマエレを知っていた。
その所為で引っ込み思案になってしまったトゥマエレを、5歳年上の里の長の息子が引っ張り出し、面倒見の良い姉御肌の2歳上の女の子と、優しさだけが取り柄の様な同い年の男の子でよく遊んでいた。そこに1歳下のディロランがトゥマエレにちょっかいを掛けて、泣かせて、長の息子と姉御肌の女の子に説教&平手打ちでディロランが泣いて謝るまでがワンセットだった。
そのうち、トゥマエレも4人の子供達の様に明るく笑うようになると、ディロランがちょっかいを掛けてきても泣くことは無くなり、逆に噛みつくぐらいになっていた。常にディロランと喧嘩腰だったトゥマエレの2人は他の3人に見守られながら成長する。
青年期に掛かり、4人は大人達の目からトゥマエレを守る為に里から少し離れた場所に5人でコロニーを作り始めた時だった。
トゥマエレを中心とした事件が起きた。
優しさだけが取り柄だった男の子は、トゥマエレに強く恋慕していた。
トゥマエレに恋慕した男の子は、決して自分に振り向かないトゥマエレを閉じ込めて誰の目にも触れさせない様にしてしまう。
3人はなんとかトゥマエレを男の子から助け出そうとするが、狂った様に嫌がる男の子に手も足も出せなかった。
が、姉御肌の女の子だけなら良いと男の子はトゥマエレに会わせてくれた。
姉御肌の女の子は助け出そうとしていたトゥマエレを見て、男の子の想いを一身に受け、心が壊れかけたトゥマエレにお門違いな嫉妬をぶつけてしまった。
面倒見の良い姉御肌の女の子は、優しさが取り柄の男の子の運命で、その衝動がトゥマエレに対しての嫉妬としてぶつけられたのだった。
トゥマエレの様子を見に行けるのは、姉御肌の女の子だけだったのに、突然突き放すように離れていった女の子に憤ったのはディロランだった。
だが、相変わらず手が出せずに、とうとう里の者に相談しなくては駄目かもしれないと思った矢先、突然、トゥマエレは男の子から解放された。
男の子はまるでトゥマエレが見えていないかの様にトゥマエレを見なくなり、女の子の下へと向かった。
助け出されたトゥマエレは数日寝込み、目覚めた時にはこの一連の事を覚えていなかったが、この事件で後発的に発生したギフト《縁切り》を男の子へと使っていたのだが、それは誰も知らない事だった。
仲良くしていた男の子からの無体な仕打ちと、女の子からの罵詈雑言にトゥマエレは強く神に願った。
『こんな縁など、切れてしまえ!』
その時に発生したギフトにより、複雑に絡み合った男の子とトゥマエレの《縁》が断ち切られたのだった。
優しさが取り柄の男の子と姉御肌の女の子の2人が里へと戻ると、里の長の息子も呼び戻された。
仲の良かった2人がトゥマエレを冷たく見て離れて行く中、何も覚えていないトゥマエレは、なんの理由もなく嫌われたのだと混乱し落ち込む。
ディロランは1人でもそんなトゥマエレを守ろうと思ったが、数日後、トゥマエレは里の長の息子と何かを話した翌朝、里から姿を消していた。
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「居なくなったと解った日、俺はお前を探そうと里を出るつもりだった。が、結局、リュシェに止められて、親には暫く監禁されて、出来なかったけどな」
バスタブへと落とされてびしょ濡れのディロランは苦笑を浮かべながら「守れなくて悪かった」とトゥマエレへ頭を下げた。
そんなディロランを見てトゥマエレは首を傾げる。
「まぁ、黙って出ていったのは悪いと思っているけど・・・。なぁ、俺、守って貰う程、そんなに弱かったか?・・・厄介者だとはいえ、親父の形見振り回してそれなりに生活出来てたと思うんだけど・・・?」
「お前はっ!」
「うん?・・・まあ、突然離れていったミュエルとジュリジットには、何だよ、訳ぐらい言えよ。ってムカついた事はあったけどさ・・・」
「・・・リュシェがトゥマを里から追い出したって聞いて、理由も聞かずに俺、殴ったんだ。居なくなって清々するなんて言ったジュリにも罵声をぶつけてな・・・」
「おいおい・・・。リュシェルは悪くないぞ?あのままいれば、俺は別の里へ出されてたらしいから」
「聞いた。トゥマを見掛けて何かと交換するつもりだったとか。リュシェには物凄い謝った。倍殴られて許してもらったけど・・・」
「ははは、リュシェルらしいな。・・・あいつ等は、よっぽど厄介払いしたかったんだろうな。リュシェルに出される先の里が酷い所だから、里を出た方が身の為だって説得されてさ。・・・取り敢えず、風邪ひきそうなんだけど?」
俺、いつまでこうしていれば良い?とトゥマエレがニヤと笑えば、「悪い!」とディロランは慌ててバスタブから出ようとすると、再び腕を掴みバスタブへと引き込んだ。
今度は2人で湯に浸かるような格好になる。
「お前はよ!」
「どうせそこまで濡れたんだ。1度も2度も同じだろ?このままだったら、ディロランも風邪引くだろ?あったまろうぜ」
「・・・服ぐらいは脱がせろ」
まったく、しょうがない奴だ。とディロランは1度バスタブから出ると、肌に張り付く服を何とか脱ぎきるとバスタブへと身体を沈めた。
「そういや、お前、里の泉でも頭の先まで浸かるの好きだったもんな。・・・心配して損した」
「あ?何で知ってる?一人きりの時にしか、してなかったのに」
「あ・・・や、別にたまたま偶然見ただけでっ」
「ほぉーん?ディロランは、俺の裸を見に、態々里から少し離れた泉までやってきてたわけだ」
「だっ!だからっ!違っ!」
「まぁなぁ、今思えばあの突っ掛かりも好きな子を虐めたいーとか何とかだったりして?」
「んなっ!」
「・・・まじかよ。ま、あの頃の俺、美少女だもんなぁ」
「見てくれだけな!中身はくそ餓鬼だったわ!」
「ははは!それはお互い様だろ・・・なぁ、ディロ、お前何で、此処で宿なんてやってる?」
「ん?・・・ああ、別に追い出されたとかじゃないからな?」
「なんだ、そうなのか」
ディロランはあれからの里の話をぽつぽつと話し始めた。
結局は少子化による他の里との合併だそうだ。
切っ掛けは、リュシェルの運命がその里に居たらしく、特になんの問題も無く合併が進み、リュシェルとその相手、ミュエルとジュリジットに子がたくさん生まれる中で、ディロランに望まない縁談が持ち込まれ、それに嫌気を差して勝手に出てきたのだと言った。
「出奔か。よく連れ戻されなかったな」
「まぁな。恐らく、リュシェが何とかしてくれたんだと思う」
「で?此処に流れ着いて宿屋の店主か」
「前の持ち主から譲り受けたんだよ。長耳族のお前なら長い事できるだろってな」
「へえ。でで?ディロは独り侘びしく居るわけ?それとも相手は?」
「・・・悪かったな、居ねぇよ。そんな奴は」
「何で?・・・まさか、まだ俺に未練が、」
「あるかぁ!」
「またまたぁ、久しぶりに見た俺の美貌にクラっときたろ?」
「・・・馬鹿か。お前の見た目になんか惑わされるわけねぇだろが。俺はお前の中身が好きだったんだから」
勿論、最初は美少女の様な見目に興味を持ち近付いた。が、その内噛み付いて来る様になると、勝ち気で負けず嫌いで、根っこは優しいトゥマエレという奴を好きになっていた。とディロランは懐かしそうに頬を緩めてトゥマエレを見詰めた。
「や、え?あの・・・」
「なんだよ」
「マジな返答されると思ってなくて、ですね・・・」
「は!真っ赤かよ!」
「う、煩い!」
「うおっ!また、ひっぱ・・・ん!」
「口開けろ、ディロ」
「なにすっ!?んんっ!んあっ」
ディロランの腕を引っ張り、後頭部に手を回し掴むと更に引き寄せて唇を重ね合わせた。
何かを言おうとするディロランの言葉を舌で遮り、口内を貪る様に舌を暴れさせるトゥマエレはディロランから洩れる声にふっと鼻で笑う。
それにカチンときたディロランはトゥマエレの顔を両手で固定して「迎え撃ったらぁ!」と自らの舌を絡めていく。
ジュル、チュルっ、チャプ・・・と水音をバスルームに響かせて互いの唾液を交換し飲み込む。それでも止めないでキスを続けると、トゥマエレは空いた手でディロランの身体を弄り始めた。
「うぉわっ!」
「色気のねぇ・・・。もうちょっと如何にかならんの?」
「あほかっ!俺に色気を求めるな!つか、止めろ、触るな!」
「キスだけでこんなにチンポ硬くさせてんのに?触る一択だろ」
湯の中で微かな抵抗があるが、グシグシと上下に擦ってやれば、ディロランのペニスは益々硬くなっていく。
「お前だって、人のチンポ触って硬くしてんじゃねぇかっ、くそ・・・っ」
「一緒に擦り合わせようぜ。気持ちイイからさ・・・そう、手の中にまとめて・・・」
「く、そっ・・・はっ・・・トゥマ、トゥマエレっ」
「んむぅ・・・チュ、はぁ・・・キス、いいな」
ザバザバとお湯を揺らし、2人のペニスをまとめて扱きあげながらディロランはトゥマエレにキスを求めて舌を絡める。
それにトゥマエレは応えるかのようにディロランの舌を吸い上げ、絡め、歯を立てた。
「ジュル・・・はっ、トゥマエレっ、くそ・・・なんで、こんな・・・、あっ・・・出るっ」
「ん・・・俺も・・・ああっ!」
2人同時に湯の中へと吐精してバスタブの中を汚していく。
2人は抱き合ったまま肩で呼吸を繰り返し、乱れた息を整えていく。
――混血混血って、それが何だと言うんだ!トゥマと僕らは、なにも変わらないじゃないか!
――トゥマエレ?が、どうしたの?僕には関係ないよね?
――この人に近づかないでっ!二度とその顔を見せるな!
――俺一人だけでも、お前を守ってやる!だから、ここに居ろよ?
――お前は里を出ろ。出て、もう二度と戻ってきてはいけない。
ふと、目が覚めた。
ゆっくりと瞬きを繰り返していくうちに、意識がはっきりと覚醒していく。
「ふあぁぁ・・・、懐かしい、夢を見たな・・・。百数十年くらい前、か?」
銀糸の髪の毛をバリバリと掻いて、大きな欠伸と共にどうでも良いように呟いた。
その呟きは天幕の中で虚しく溶けていく。
ふう、と短く息を吐いた後はそんな呟きすら言った事を忘れているかの様に口許に笑みを作り、天幕の中をぐるりと見る。
「やっぱ、天幕貰っといて正解だな。旅が断然快適になった。・・・あの賞金首もいい金になったし」
ぐっぐっ、と固まった身体を伸ばす様にストレッチをしながらチラと相棒の両手剣と、賞金首を捕まえた時に得た賞金が入ったザックを見る。
見て、数秒後にニヘラ・・・と相貌を崩した。
「いやー、ルーカ、可愛かったなぁ。結局ヤリ過ぎちゃったけど・・・、今頃ちゃんとルベルバックへ着いたかな」
視た時、ルーカから伸びた糸はルベルバック王国へは伸びておらず、来たと言っていた村の方角へと向いていた。その光の糸は、魂の伴侶とまではいかないが、普通のものよりは強い絆の様に視えたが、今後どう変わるかは当人次第だ。
「ふん、慌てて追ってきて、ルーカがもうエッロエロに開発されてるの、たっぷり悔しがればいい。好きな相手を周りの環境の所為にして傷つけたんだ。・・・精々ルーカに残る俺の爪痕に後悔しろ」
なんて独り言を吐きながら簡単な朝食を終わらせて天幕を折り畳む。
黒いキャソックは初夏にしては暑くなりそうな今日にはなかなか辛いものになりそうだ。と手を翳した先の太陽を薄目で見ると、両手剣を腰に佩き次へと向かう先を適当に決めながら歩き出した。
「よし、今日はあの街まで行ってみようか・・・」
久しぶりにルベルバックの同盟国であり、あの司祭が居た教会のある街を思い出す。
あの司祭は既に他界しているが、その意思を受け継ぐ者は、司祭に司教、大司教と出世している人達が大勢いた。
行けば何かと「ノラ司祭なんかやめてしっかり登録しろ!」と怒られるが、大体は「仕方のない奴だ」で終わらせてくれるいい人達ばかりだ。
「久しぶりに教会のベッドで寝れるかな・・・」
+++++++
「すまない、トゥマエレ司祭。ここ、1、2年程前から孤児を預かり始めてね・・・。もう少しで孤児院も完成するんだが・・・」
「つまり、ベッドが無い。と・・・」
「孤児達と寝る事になるが、それでもかまわ・・・いや、構うな。こっちが・・・」
歩く成年指定みたいな奴を多感な子供達と同衾させれるか。と教会を預かる司教が目の前のトゥマエレを前に隠しもせずに言う。
それを受けてトゥマエレも苦笑しながら「いくら何でもガキに手は出しませんて」と笑った。
「お前に惑わされるというんだ。少しはその容姿に自覚を持て」
「持ってるんですけどねぇ・・・?」
「ま、兎に角、教会のベッドは満員御礼だ、悪いな。この先の丁度街の中央の噴水近くに宿屋がある。そこに私の名前を出せば少しは安く泊まれるだろう・・・」
「・・・仕方ないですね。そうします」
「トゥマエレ司祭。君の活躍は聞いている。もうそろそろ正式に認定を受けたらどうだ?」
「はは・・・。申し訳ない。もう少し、風の向くままに歩かせてください」
「そうか・・・。立ち止まりたくなったら、何時でも来なさい。私達は何時でも君を歓迎する」
向けられる優しい声と眼差しにトゥマエレは気恥ずかしくなって、くるりと司教へ背を向けると片手を上げたことでそれを返事として宿屋へと歩き出した。
この司教、数十年後に教皇として立ち、のらりくらりと躱すトゥマエレをふん摑まえて司教、大司教そして、総大司教にまで持ち上げた立役者でもある。
その次の教皇も総大司教の経験を積んだトゥマエレを枢機卿へと押し上げるのだが、それはまた別の話。
ぶらぶらと街を歩くと、流石に数十年も経てば変わるものだとトゥマエレはあちらこちらを見ながら歩を進めていく。
あそこの店には世話になった。や、あの娘の婆さんは、それは気風のいい美人だったとかが思い出されて、時間の流れに置いて行かれている自分が少しばかり寂しくなってきた。
「やっぱり、あんまり良いもんじゃないな・・・時の流れがまざまざと解ってしまう」
自分一人置いて行かれる感覚。さっきの司教もゆっくりだが、年を重ねていた。
自分を知っている人に「お前は変わらないな」と言われる度に、少しだけ寂しさを覚える。
だから、その寂しさを感じない様に、根無し草の様にふらふらと動いているのはトゥマエレ自身も解っていた。
サマリティシア教の生命と技巧の男神『ヴィダテヒニャカ』。ギフトはこの男神の祝福。だからこそ、ギフト保持者は長命になる。珍しいギフトであればある程に。
そしてトゥマエレは、珍しいギフトを授かり、後発的に発覚したギフトで特に珍しいダブルとなった。
その事もあり、殊更長命となり、純粋なヒト族でもなく、長命種の純血でも無かったが、受け継いだ長命種の血もまた、トゥマエレが長命なのを手伝っていた。
百年経っても未だ老いを感じぬ身体を持ち、長い年月を独り、歩いていた。
「一泊したら、街を離れよう。・・・駄目だな、変な里心を出すから、こう、しみったれた心境になる・・・ここか」
今朝見た夢の所為もあるかもしれないな、なんて口の中で呟いて目の前の建物を見上げた。
前に来た時も宿屋だったかな?と扉に手をつき軽く押した。
「いらっしゃ・・・」
視線を下げたまま中に入れば、店主だろうか、男の声が出迎えの言葉を途中で止めていた。
トゥマエレはどうせこの顔に言葉を失っているんだろう。好みだったら引っ掛けて食っても良いが、と視線を上げた。
「トゥマ、エレ・・・」
「っ!邪魔したな」
「待てっ!」
視線を上げた先には今朝、珍しく思い出した、里に居た1人の男だった。
混血だからと大人達に冷遇されていた里で、数少ない同年代の子供達は分け隔てなく接してくれていた。ある日までは。
思い出したくもない記憶が、今朝の夢と、この、今トゥマエレの腕を掴んでいる男に依って蘇る。
柄にもなく、慌てて今来た道へと戻ろうと踵を返すが、間近にいた店主に腕を掴まれ、ビクリと身体が硬直した。
「待ってくれ・・・。もう、この時間から他の宿を探そうにも難しいと思うし・・・折角、久しぶりに会ったんだ。・・・話がしたい」
必死な懇願に、腕を掴む手は汗をかいている。
トゥマエレは数回深呼吸を繰り返すと振り返り「離せ」と短く言うと顎で指図をする。
逃げるなんて性に合わない。そうだ、何を戸惑っている。遥か昔の事じゃないか。
ただ、意図せず偶然会っただけじゃないか。とトゥマエレは自分に言い聞かす。
「っ、懐かしいな。お前に会うまですっかり忘れていたよ。悪い、まさか里の人間にこんなところで出会うなんて思いもしなかったんだ。・・・泊まれるか?一泊で良い」
「い・・・いや、大丈夫だ、です。一泊、ですね?直ぐに用意できますから・・・トゥマエレ」
「仕事をしろ。お前は店主で俺は客だ。・・・話はそれからだ」
「っ、解った・・・、すまない。・・・食事は、どうされますか?夕食・朝食付きなら1000リル追加払いで用意できますが・・・」
「食事は両方とも部屋で摂りたい。できれば、部屋に風呂があると良いんだが・・・あ、司教から紹介されてきたんだ。幾分は安くなるんだろ?」
「司教様の・・・トゥマエレも教会関係者なのか?それ・・・」
「まぁな。で?部屋に風呂、付くか?」
「あ、ああ。さっきキャンセルが出たんだ。うちの中で一番の部屋だよ。角部屋で見晴らしもいい。隣はリネン室になっていて、他の部屋からも多少は離れているから気を使わなくて済む。だが、いくら割引するとはいっても、高いぞ?」
「じゃあ、そこで。金は気にするな。多少なりとも持っている」
「解った・・・。おい、特別室に案内してくれ・・・あぁ、よろしく。くれぐれも失礼の無い様にな」
通り掛かった従業員に店主の男は声を掛けて部屋の鍵を投げて渡す。
若い従業員は短く返事をして鍵を受け取るとトゥマエレへと向き直り、トゥマエレと目を合わせる前に小さく息を飲んだ。パクパクと口を動かして声を出そうとするが、出せない従業員にトゥマエレは疲れた様に息を吐く。
「早くしろ!いつまで呆けているんだ!」と怒声を浴びせられてビクゥ!と身体を跳ねさせる。
油の切れた歯車の様にギ、ギ、ギ・・・と動き出すと、従業員はトゥマエレをなるべく見ない様に歩き出した。
「し、失礼しまし、た。こちら、です・・・」
「あぁ、頼む」
なんとか動き出した筈の従業員はトゥマエレの声に再び硬直する。
うわわわわ・・・と言いながら両腕を摩る従業員の耳は赤く色づいていた。
それを見て、ふん。と鼻で笑いトゥマエレは従業員の手から鍵を奪うと階段へとスタスタと歩いていく。「何処だ?」と部屋の場所を聞けば、カウンター内で一部始終を見ていた店主が「二階、右の突き当りだ」と教えてくれた。
トゥマエレは視線だけを店主へ向けて「少しばかり寝る。夕食の時間になったら勝手に部屋に持ってきてくれ。お前がな」と言い残して階上へと上がっていった。
+++++++
コンコンコン。
ノックの音が仮眠の終了の合図になった。
今朝とは違い、ひとつも夢を見る事もなく目が覚めたトゥマエレは「どうぞ」と扉へと声を掛ける。
「悪い、鍵を・・・、扉を開けてくれないか?両手が塞がっているんだ」
扉越しのくぐもった声が聞こえてくる。
トゥマエレは気怠そうにベッドから降りて扉へと近づく。
「どうぞ・・・」
「失礼します。・・・ここに置いておく。じゃあ、俺はこれで・・・」
中央のテーブルに置くと、そそくさと出て行こうとする店主にトゥマエレは「なあ」と短く声を掛けた。
「なんで、さっさと出て行こうとする。他でもなく、お前が、話がしたいと俺を引き留めたんじゃないのか?」
「・・・まだ、仕事が残っている。・・・あと、一時間後、ここに来る。・・・良いか?」
「好きにしろ。風呂に入っているから、鍵は開けておく。好きに入って来い」
「解った・・・、では、失礼します」
閉まっていく扉の向こうに店主の姿が消えるまでトゥマエレはその後ろ姿を見詰めた。
パタンと音がしてから静かに息を吐き出し、知らず握っていた拳を開いた。
「緊張しているのは、お互い様ってか・・・?」
へっ、と皮肉気に自嘲するとトゥマエレは運ばれてきた食事に手を付ける。
「意外と美味いな」と呟きながら食事を平らげていった。
空になった食器を見下ろし、満足そうに息を吐くとトゥマエレは立ち上がり服を脱ぎ捨てていく。
黒いキャソック姿から露わになった白い肌に銀色の髪がサラサラと流れ落ちた。
壁際に立てられていた姿見が裸のトゥマエレを映し出す。
銀色の髪、淡い金色の瞳。手入れもしていないのに滑らかな真白い肌は日に焼けず、手に吸い付くように肌理細やか。
顔は女神と謳われるほどに女性の様な美貌をしているが、身体は傭兵をしていた過去もあり、旅を続けている今も鍛錬を欠かさない為に鍛え上げられた筋肉がついた男らしい姿だった。
それがアンバランスな筈なのに、何故か完成されたひとつの美術品の様だった。いや、美術品なんてものじゃない、これぞ神が創った最高傑作の様な存在だった。
それをただ仄暗い眼で一瞥するとトゥマエレはバスルームへと歩いていく。
この容姿を好ましく思ったことはない。が、里を出てからは上手く使って生きてきた。
シャワーヘッドからザーザーと流れ出る水を顔に打ち付けてトゥマエレは考えた。
(何故、あいつがここにいるんだ?)
今更ながら思ったことにトゥマエレは「はぁ?」と声を上げる。
「は?俺は馬鹿か!?なんで、そこを疑問に思わないでいた?」
あんな閉塞的な里から出てくるなんて変だと思え?とトゥマエレは自分がまともに働いていなかった自分の思考回路に叱咤する。
乱暴に湯で満たされたバスタブへと自分の身体を放り込むとトゥマエレはやっと一息ついた。バスタブに背を預けて足を伸ばす。そこそこ長身のトゥマエレが手足を伸ばしても余裕のあるバスタブだった。
「閉鎖的だった里が開けたのか?・・・まさか、な。考えられない。あそこは変わらない。変わる訳がない・・・」
ジャブジャブと中の湯で顔を洗うと「疑問は尽きないが、まずは話を聞かないと・・・な」とトゥマエレは天井を仰いだ。
店主の今の姿を思い出す。里を出た頃からは多少は年を重ねている様に見えたが、そう変わりがなかった。
「ギフト持ちでなくても、流石、耳長族の純血種か・・・俺とは大違いだ」
濡れた前髪をかき上げるついでに自分の耳に触れる。つるりとした丸い形を指先でなぞった。
夢の中の奴らも、さっき見た姿の店主も細く長く尖った耳を持っていた。
その尖った耳の先の方にキラと光る雫型の少し古ぼけた、いや、もう既に骨董品に近いデザインのピアスがあった事を思い出す。
「なんで、後生大事に付けてるんだよ・・・いや、ただ単につけている事を忘れてるだけか?」
こっちだってピアスを目にして、やっと思い出したぐらいだ。そこまで感傷に浸るつもりは無い。と身体をズラしてお湯の中へと頭の天辺まで入れ込んだ。
里は種族上の特性なのか、出生率が低く同年代の子供達が少なかった。そんな少ない皆で揃えたピアス。
店主と、里の長の子供と、あと、魂の伴侶だった2人。そしてトゥマエレの5人でいつまでも一緒に居ようと子供染みた誓い。
1人だけ短い耳のトゥマエレだけが耳朶に下げて、それが常に見える様にしていた。
自然と耳朶に指先で触れる。
何もついていない、ピアスホールだけが微かに指先に感じられた。
ザバァ・・・つ
「トゥマエレっ!大丈夫か!?おい!」
突然、湯の中から引き上げられ、思考の海からも戻されたトゥマエレの眼前に現れた店主、ディロランの顔に驚き、トゥマエレの手が何も考えず目の前の人物の頬を捉えた。
バッチーーン!という音がバスルーム内に響き渡る。
と同時にトゥマエレを抱き上げた手が離れるとディロランをバスタブの中へと引き込んだ。
「あ・・・、悪ぃ。つい・・・」
「ゴボッ!・・・ブハァッーーーハァッハァッ・・・お前はっ!なんでいつもいつも俺にだけ当りが強ぇんだよ!」
「気のせいだ、気のせい・・・大丈夫か?」
ぐい、とディロランの腕を掴んでトゥマエレは引き上げてやる。
全く悪びれることの無いトゥマエレにディロランは「あぁ」と短く答えた後、肩を震わせる。
「ははっ!さっき迄の気不味さなんか、どっかぶっ飛んだよ!全く・・・会えて、良かった」
ディロランは、里で冷たい大人達の目にビクビクしながら幼少期を過ごしていたトゥマエレを知っていた。
その所為で引っ込み思案になってしまったトゥマエレを、5歳年上の里の長の息子が引っ張り出し、面倒見の良い姉御肌の2歳上の女の子と、優しさだけが取り柄の様な同い年の男の子でよく遊んでいた。そこに1歳下のディロランがトゥマエレにちょっかいを掛けて、泣かせて、長の息子と姉御肌の女の子に説教&平手打ちでディロランが泣いて謝るまでがワンセットだった。
そのうち、トゥマエレも4人の子供達の様に明るく笑うようになると、ディロランがちょっかいを掛けてきても泣くことは無くなり、逆に噛みつくぐらいになっていた。常にディロランと喧嘩腰だったトゥマエレの2人は他の3人に見守られながら成長する。
青年期に掛かり、4人は大人達の目からトゥマエレを守る為に里から少し離れた場所に5人でコロニーを作り始めた時だった。
トゥマエレを中心とした事件が起きた。
優しさだけが取り柄だった男の子は、トゥマエレに強く恋慕していた。
トゥマエレに恋慕した男の子は、決して自分に振り向かないトゥマエレを閉じ込めて誰の目にも触れさせない様にしてしまう。
3人はなんとかトゥマエレを男の子から助け出そうとするが、狂った様に嫌がる男の子に手も足も出せなかった。
が、姉御肌の女の子だけなら良いと男の子はトゥマエレに会わせてくれた。
姉御肌の女の子は助け出そうとしていたトゥマエレを見て、男の子の想いを一身に受け、心が壊れかけたトゥマエレにお門違いな嫉妬をぶつけてしまった。
面倒見の良い姉御肌の女の子は、優しさが取り柄の男の子の運命で、その衝動がトゥマエレに対しての嫉妬としてぶつけられたのだった。
トゥマエレの様子を見に行けるのは、姉御肌の女の子だけだったのに、突然突き放すように離れていった女の子に憤ったのはディロランだった。
だが、相変わらず手が出せずに、とうとう里の者に相談しなくては駄目かもしれないと思った矢先、突然、トゥマエレは男の子から解放された。
男の子はまるでトゥマエレが見えていないかの様にトゥマエレを見なくなり、女の子の下へと向かった。
助け出されたトゥマエレは数日寝込み、目覚めた時にはこの一連の事を覚えていなかったが、この事件で後発的に発生したギフト《縁切り》を男の子へと使っていたのだが、それは誰も知らない事だった。
仲良くしていた男の子からの無体な仕打ちと、女の子からの罵詈雑言にトゥマエレは強く神に願った。
『こんな縁など、切れてしまえ!』
その時に発生したギフトにより、複雑に絡み合った男の子とトゥマエレの《縁》が断ち切られたのだった。
優しさが取り柄の男の子と姉御肌の女の子の2人が里へと戻ると、里の長の息子も呼び戻された。
仲の良かった2人がトゥマエレを冷たく見て離れて行く中、何も覚えていないトゥマエレは、なんの理由もなく嫌われたのだと混乱し落ち込む。
ディロランは1人でもそんなトゥマエレを守ろうと思ったが、数日後、トゥマエレは里の長の息子と何かを話した翌朝、里から姿を消していた。
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「居なくなったと解った日、俺はお前を探そうと里を出るつもりだった。が、結局、リュシェに止められて、親には暫く監禁されて、出来なかったけどな」
バスタブへと落とされてびしょ濡れのディロランは苦笑を浮かべながら「守れなくて悪かった」とトゥマエレへ頭を下げた。
そんなディロランを見てトゥマエレは首を傾げる。
「まぁ、黙って出ていったのは悪いと思っているけど・・・。なぁ、俺、守って貰う程、そんなに弱かったか?・・・厄介者だとはいえ、親父の形見振り回してそれなりに生活出来てたと思うんだけど・・・?」
「お前はっ!」
「うん?・・・まあ、突然離れていったミュエルとジュリジットには、何だよ、訳ぐらい言えよ。ってムカついた事はあったけどさ・・・」
「・・・リュシェがトゥマを里から追い出したって聞いて、理由も聞かずに俺、殴ったんだ。居なくなって清々するなんて言ったジュリにも罵声をぶつけてな・・・」
「おいおい・・・。リュシェルは悪くないぞ?あのままいれば、俺は別の里へ出されてたらしいから」
「聞いた。トゥマを見掛けて何かと交換するつもりだったとか。リュシェには物凄い謝った。倍殴られて許してもらったけど・・・」
「ははは、リュシェルらしいな。・・・あいつ等は、よっぽど厄介払いしたかったんだろうな。リュシェルに出される先の里が酷い所だから、里を出た方が身の為だって説得されてさ。・・・取り敢えず、風邪ひきそうなんだけど?」
俺、いつまでこうしていれば良い?とトゥマエレがニヤと笑えば、「悪い!」とディロランは慌ててバスタブから出ようとすると、再び腕を掴みバスタブへと引き込んだ。
今度は2人で湯に浸かるような格好になる。
「お前はよ!」
「どうせそこまで濡れたんだ。1度も2度も同じだろ?このままだったら、ディロランも風邪引くだろ?あったまろうぜ」
「・・・服ぐらいは脱がせろ」
まったく、しょうがない奴だ。とディロランは1度バスタブから出ると、肌に張り付く服を何とか脱ぎきるとバスタブへと身体を沈めた。
「そういや、お前、里の泉でも頭の先まで浸かるの好きだったもんな。・・・心配して損した」
「あ?何で知ってる?一人きりの時にしか、してなかったのに」
「あ・・・や、別にたまたま偶然見ただけでっ」
「ほぉーん?ディロランは、俺の裸を見に、態々里から少し離れた泉までやってきてたわけだ」
「だっ!だからっ!違っ!」
「まぁなぁ、今思えばあの突っ掛かりも好きな子を虐めたいーとか何とかだったりして?」
「んなっ!」
「・・・まじかよ。ま、あの頃の俺、美少女だもんなぁ」
「見てくれだけな!中身はくそ餓鬼だったわ!」
「ははは!それはお互い様だろ・・・なぁ、ディロ、お前何で、此処で宿なんてやってる?」
「ん?・・・ああ、別に追い出されたとかじゃないからな?」
「なんだ、そうなのか」
ディロランはあれからの里の話をぽつぽつと話し始めた。
結局は少子化による他の里との合併だそうだ。
切っ掛けは、リュシェルの運命がその里に居たらしく、特になんの問題も無く合併が進み、リュシェルとその相手、ミュエルとジュリジットに子がたくさん生まれる中で、ディロランに望まない縁談が持ち込まれ、それに嫌気を差して勝手に出てきたのだと言った。
「出奔か。よく連れ戻されなかったな」
「まぁな。恐らく、リュシェが何とかしてくれたんだと思う」
「で?此処に流れ着いて宿屋の店主か」
「前の持ち主から譲り受けたんだよ。長耳族のお前なら長い事できるだろってな」
「へえ。でで?ディロは独り侘びしく居るわけ?それとも相手は?」
「・・・悪かったな、居ねぇよ。そんな奴は」
「何で?・・・まさか、まだ俺に未練が、」
「あるかぁ!」
「またまたぁ、久しぶりに見た俺の美貌にクラっときたろ?」
「・・・馬鹿か。お前の見た目になんか惑わされるわけねぇだろが。俺はお前の中身が好きだったんだから」
勿論、最初は美少女の様な見目に興味を持ち近付いた。が、その内噛み付いて来る様になると、勝ち気で負けず嫌いで、根っこは優しいトゥマエレという奴を好きになっていた。とディロランは懐かしそうに頬を緩めてトゥマエレを見詰めた。
「や、え?あの・・・」
「なんだよ」
「マジな返答されると思ってなくて、ですね・・・」
「は!真っ赤かよ!」
「う、煩い!」
「うおっ!また、ひっぱ・・・ん!」
「口開けろ、ディロ」
「なにすっ!?んんっ!んあっ」
ディロランの腕を引っ張り、後頭部に手を回し掴むと更に引き寄せて唇を重ね合わせた。
何かを言おうとするディロランの言葉を舌で遮り、口内を貪る様に舌を暴れさせるトゥマエレはディロランから洩れる声にふっと鼻で笑う。
それにカチンときたディロランはトゥマエレの顔を両手で固定して「迎え撃ったらぁ!」と自らの舌を絡めていく。
ジュル、チュルっ、チャプ・・・と水音をバスルームに響かせて互いの唾液を交換し飲み込む。それでも止めないでキスを続けると、トゥマエレは空いた手でディロランの身体を弄り始めた。
「うぉわっ!」
「色気のねぇ・・・。もうちょっと如何にかならんの?」
「あほかっ!俺に色気を求めるな!つか、止めろ、触るな!」
「キスだけでこんなにチンポ硬くさせてんのに?触る一択だろ」
湯の中で微かな抵抗があるが、グシグシと上下に擦ってやれば、ディロランのペニスは益々硬くなっていく。
「お前だって、人のチンポ触って硬くしてんじゃねぇかっ、くそ・・・っ」
「一緒に擦り合わせようぜ。気持ちイイからさ・・・そう、手の中にまとめて・・・」
「く、そっ・・・はっ・・・トゥマ、トゥマエレっ」
「んむぅ・・・チュ、はぁ・・・キス、いいな」
ザバザバとお湯を揺らし、2人のペニスをまとめて扱きあげながらディロランはトゥマエレにキスを求めて舌を絡める。
それにトゥマエレは応えるかのようにディロランの舌を吸い上げ、絡め、歯を立てた。
「ジュル・・・はっ、トゥマエレっ、くそ・・・なんで、こんな・・・、あっ・・・出るっ」
「ん・・・俺も・・・ああっ!」
2人同時に湯の中へと吐精してバスタブの中を汚していく。
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