血統鑑定士の災難

やよい

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血統鑑定士の災難【本編】

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引っ張り出されたのはいいけど、頑張って空気と化していた私の手は未だ掴まれたまま。

しどろもどろと答えつつ涙目のハロルド殿に大きなため息を吐いた王太子殿下がこちらをチラと見て口端を上げた。

「まぁ、色々と言いたいことはあるが、それは追々として・・・。ハロルド、婚約期間中の不貞行為は許せるものでは無いな。また、王族の血筋を無断で増やすことも許されることではない」
「そっ、それはっ・・・」

そうなのだ。ポンポンと王族に連なる血筋を増やすのはご法度。もちろん、他の貴族もだが。

王侯貴族は国民からの税で暮らしているといっても過言ではない。

むやみやたらと貴族が増えれば、国民の負担は増すばかり。

だからこそ、貴族の数は王家が管理するのだ。もちろん、王族も然り。

跡継ぎである長男または長女、スペアの二男(二女)はまだ貴族で居られる(スペアは期限付きだが)。
が、三男(三女)からは成人すると同時に貴族席から強制的に外されるのだ。だが、何も知らないで平民街に下ればそれはただのいい鴨でしかない。

そうさせないためにアカデミーがある。

貴族と平民の生活の差や常識を知り、己が今後どう生きるかを決めるための学び場なのだ。

その為の王族や貴族お抱えの商会などへのインターンシップ制度なんかもある。

卒業後、または在学中に一念発起して商会を立ち上げるものも居たりするが、莫大な資金が掛かるので、だいたいは実家の力に頼ってはいるようだが、その後はまぁ悲喜交々であるといっておこう。

王族は特に血筋の管理が厳しい。
世継ぎ問題が出るからだ。

王家には今、王太子のみで、その次の王位継承権は王弟殿下、そして王弟殿下の長男、次男と続く。
陛下、王弟殿下の下に王女が二人いたが、二人とも隣国へ王妃として嫁いでいるから継承権は無い。因みに継承権を失った王族の子供は、もちろん継承権は持っていない。
ので、王族の三男が平民になって子供が出来ても、その子を王族としては扱わないのは当たり前なのだ。
多少のコネぐらいは使えるかもしれないが・・・王弟殿下は愚者を嫌う。
よほどの神童でない限りは無理かな・・・

「デジール男爵令嬢の腹にハロルドの子か・・・それは確かか?」
「はいっ!」
「そうですぅ~」

それにしてもマリアンナ嬢の目が獲物を狙う肉食獣にしか見えないのは気のせいか?できれば気のせいであって欲しい。

この隣のキラッキラのオーラを放ちっぱなしの美丈夫、未だに婚約者を据えない王太子殿下は絶対にマリアンナ嬢の視線の意図に気付いているだろうに華麗に無視を決め込んでいる。

「では、自信を持って自分の子だと言えるのならば、ここに居るリリカント司書官殿に視て貰っても問題はないな?」
「問題はありませんが・・・、リリカント?」
「どゆうこと?」

首を傾げるハロルド殿とマリアンナ嬢。

そして、周りのざわつきがさざ波のように広がっていく。

―――あれが噂の・・・
―――本当なのかしら?ちょっと眉唾物よね。
―――能力証明はされているらしいわよ。
―――ついでにハロルド殿も視て貰ったら良いのではないかしら?
―――いや、王宮鑑定室の士長殿に二年前に視て貰って確かな判定が下されていたはずだ。
―――司書官がなぜ?
―――鑑定室は依頼が無ければ閑古鳥が鳴いている部署って聞いたことがある。
―――でも、卒業して直ぐに職就きは異例ですわよね?
―――それほどのギフトなんだろうさ。王族も手放したくはないのだろう。

私が何者か、知っている人は知っている。知らない人もそれなりに。

そんな騒めきを他所に私を引っ張り出した張本人の王太子殿下の後ろに密かについていた従者がこそりと申し訳なさそうに耳打ちする。

「大丈夫ですか?・・・すみません、止められず」

私はそれにぎこちない引き攣った笑みを返すと、未だ掴んで離さない王太子殿下の手を逃げないからという意思を持たせてポンポンと軽く叩いた。

やっと外された手に安堵の息を漏らして、一歩前に出た。
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