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血統鑑定士の災難【本編】
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昔は御令嬢方にきゃーきゃー言われていたナイスミドルも今ではただのサボり魔のじじい(約10年の歳月というものは恐ろしい)が、とんでもなく厄介な人を連れてきた。
禁書の再捜索と回収・鑑定、禁書と判断された魔導書の処分に、禁書ではなかった書物を持ち主に戻す。という鑑定室を上げての仕事がやっとつい先日終わり、完了報告書を作成しようと鑑定室で1人、執務机に向かっていれば、事前連絡もなく、ノックもせずに突然現れた訪問者2人に私は重い溜息を吐いた。
鑑定室とはまた別に用意されている鑑定士長室には、士長と士長代理の執務机をエル字型に配置し、その間に応接用のソファとテーブルが据えられている。
鑑定依頼者は別室で対応するので、応接用と言っても単なる休憩スペースで、だいたい鑑定士長が寝そべって本を読んでいるか、うたた寝している場所だ。
そのソファに腰を下ろしゆったりと身体を預けている人物を書類から視線を上げて見れば、腰の当たりまで真っ直ぐに伸びた、まるで月の光を集めた様な白銀色の艶やかな髪をくるくると長い指先で巻き取り遊んでいた。
隣へと視線をずらせば、今ではすっかり草臥れたシニアが見えた。
おかしいな・・・、私の持つ記憶の中でこの2人が並んでいる姿をよく覚えているが、1人だけ時間に置き去りにされている気が・・・
教会の祭壇の向こう側で厳かに立つ女神像と瓜二つな美貌を惜しげもなく晒し、教会に入ったばかりの持祭(教会の雑用係)に熱の籠もった瞳で見詰められていたのは、確かまだ私が孤児院に居た頃である。
見習い期間中は時々鑑定士長と共に孤児院へ行くこともしばしばあり、アカデミーへ入学してからの少なくとも3年間は直にお会いしていないのだが、礼拝集会などで遠く姿を拝見している・・・
10年以上も寸分変わらない姿に改めて気づかされ、私は静かに恐れ慄いた。
そんな私の視線を受けて、にっこりと微笑むご尊顔の後ろに花が咲いた。
うん、年齢については触れてはいけない・・・考える事もアウトだ。よし、考えてない考えてない。
よし。
それについては、今はこの際どうでもいい。
この人、なんでここにいるんだ?そして、もしかして1人?(鑑定士長は王宮側の人間なので除く)
手にしていたペンを置き、改めて周りを見渡すが、私を含めて3人しかこの部屋にはいない。
「どうして、貴方が直々に来られるんですか・・・。トゥマエレ教皇様・・・」
「やーん、トゥマちゃん♡って呼んでって言ってるのにぃ」
「呼びません!」
孤児院に居た頃と全く変わらないやり取りにクラリと眩暈がする。
あまり知りたくはないが、確かめなくてはならない。と「・・・因みに、護衛の聖騎士は?」と恐る恐る尋ねると、にっこりと笑みを深めるだけ。
予想できる返事に、かなり不敬ではあるが、ジロと睨む。が、全く効果はない。
「はうぅっ♡可愛い!私の黒猫ちゃん!」と悶えられる始末。
感極まり駆け寄ってきたトゥマエレ教皇に猫の子のように椅子から持ち上げられ、ガバリと抱きしめられた。
ぎゅうぎゅうと硬い二の腕と弾力のある胸筋に抑え込まれれば、文官の私なぞ動けるはずもなく。
おまけにすーりすーりと頬ずりし、私の髪の毛に鼻を埋めてクンカクンカと匂いを吸うまでがワンセットだ。
これもまた、私が孤児院に居た頃から変わらない一連の動作である。
他の子供たちもされていたが、私は特にやられていた。
大体の子の反応は照れる、慌てふためく、照れているのを隠すように顔を真っ赤にして怒る、女?男?は?と困惑する。などだが、死んだような、悟ったような私の反応が随分と面白かったらしい。
私も最初は止めろと怒っていた部類だったのだが、一向に止める気配のないトゥマエレ教皇に諦めたのだった。
てゆうか本当にやめて欲しい。
サマリティシア教の教皇が一人歩いているなんて、本当に考えたくもない。
いくら元王族で、ここが警備の万全な王宮内の執務棟だとはいえ、そこを一人闊歩するなど教会側のトップのする事ではない。
「大丈夫よぉ。護衛なんて私に要らないもの~。リリたん、心配してくれてるの?嬉しいっ」
「リリたん呼ばないでください。別に心配はしていませんし、そういう事じゃありません!」
「えぇ~残念。って、ま、私よりも弱い子に護衛されても、ねぇ?」
この女神のごとき美貌のトゥマエレ教皇は真っ白なローブで体のラインが見えていないからか、その容貌と外向きの身に纏う雰囲気で、かなり細身で聖書より重いものなど持ったことが無いだろうと勘違いしている者は数多くいるが、実は均整の取れた無駄のない筋肉の持ち主で、剣を振れば王宮騎士団の団長と互角という腕前を持つのだった。
殆どの人が知らないだろうが、教皇しか持つことが出来ない荘厳な装丁を施されている聖書は大きいし分厚いし、かなり重い。
それをひょいと軽く片手で持ち上げるこの人は、必要とあらば、その手に持つ聖書で人を殴り飛ばせるだろう。
が、有事など殆ど無いこのご時世、飾りでもいいから護衛を付けて欲しいとは教会、王家の両サイドからの願いである。
いくら言っても、聞きゃしないが・・・
「そう!聞いて!リリたん。最近着任したばかりの聖騎士がホント困ったチャンで――」
本当に人の話を聞かない人だ。と、トゥマエレ教皇の腕の中でため息を吐いた分だけ酸素を肺に入れる為に空気を吸えば、奥深い夜の森を思わせる様な香りが鼻腔を満たした。
禁書の再捜索と回収・鑑定、禁書と判断された魔導書の処分に、禁書ではなかった書物を持ち主に戻す。という鑑定室を上げての仕事がやっとつい先日終わり、完了報告書を作成しようと鑑定室で1人、執務机に向かっていれば、事前連絡もなく、ノックもせずに突然現れた訪問者2人に私は重い溜息を吐いた。
鑑定室とはまた別に用意されている鑑定士長室には、士長と士長代理の執務机をエル字型に配置し、その間に応接用のソファとテーブルが据えられている。
鑑定依頼者は別室で対応するので、応接用と言っても単なる休憩スペースで、だいたい鑑定士長が寝そべって本を読んでいるか、うたた寝している場所だ。
そのソファに腰を下ろしゆったりと身体を預けている人物を書類から視線を上げて見れば、腰の当たりまで真っ直ぐに伸びた、まるで月の光を集めた様な白銀色の艶やかな髪をくるくると長い指先で巻き取り遊んでいた。
隣へと視線をずらせば、今ではすっかり草臥れたシニアが見えた。
おかしいな・・・、私の持つ記憶の中でこの2人が並んでいる姿をよく覚えているが、1人だけ時間に置き去りにされている気が・・・
教会の祭壇の向こう側で厳かに立つ女神像と瓜二つな美貌を惜しげもなく晒し、教会に入ったばかりの持祭(教会の雑用係)に熱の籠もった瞳で見詰められていたのは、確かまだ私が孤児院に居た頃である。
見習い期間中は時々鑑定士長と共に孤児院へ行くこともしばしばあり、アカデミーへ入学してからの少なくとも3年間は直にお会いしていないのだが、礼拝集会などで遠く姿を拝見している・・・
10年以上も寸分変わらない姿に改めて気づかされ、私は静かに恐れ慄いた。
そんな私の視線を受けて、にっこりと微笑むご尊顔の後ろに花が咲いた。
うん、年齢については触れてはいけない・・・考える事もアウトだ。よし、考えてない考えてない。
よし。
それについては、今はこの際どうでもいい。
この人、なんでここにいるんだ?そして、もしかして1人?(鑑定士長は王宮側の人間なので除く)
手にしていたペンを置き、改めて周りを見渡すが、私を含めて3人しかこの部屋にはいない。
「どうして、貴方が直々に来られるんですか・・・。トゥマエレ教皇様・・・」
「やーん、トゥマちゃん♡って呼んでって言ってるのにぃ」
「呼びません!」
孤児院に居た頃と全く変わらないやり取りにクラリと眩暈がする。
あまり知りたくはないが、確かめなくてはならない。と「・・・因みに、護衛の聖騎士は?」と恐る恐る尋ねると、にっこりと笑みを深めるだけ。
予想できる返事に、かなり不敬ではあるが、ジロと睨む。が、全く効果はない。
「はうぅっ♡可愛い!私の黒猫ちゃん!」と悶えられる始末。
感極まり駆け寄ってきたトゥマエレ教皇に猫の子のように椅子から持ち上げられ、ガバリと抱きしめられた。
ぎゅうぎゅうと硬い二の腕と弾力のある胸筋に抑え込まれれば、文官の私なぞ動けるはずもなく。
おまけにすーりすーりと頬ずりし、私の髪の毛に鼻を埋めてクンカクンカと匂いを吸うまでがワンセットだ。
これもまた、私が孤児院に居た頃から変わらない一連の動作である。
他の子供たちもされていたが、私は特にやられていた。
大体の子の反応は照れる、慌てふためく、照れているのを隠すように顔を真っ赤にして怒る、女?男?は?と困惑する。などだが、死んだような、悟ったような私の反応が随分と面白かったらしい。
私も最初は止めろと怒っていた部類だったのだが、一向に止める気配のないトゥマエレ教皇に諦めたのだった。
てゆうか本当にやめて欲しい。
サマリティシア教の教皇が一人歩いているなんて、本当に考えたくもない。
いくら元王族で、ここが警備の万全な王宮内の執務棟だとはいえ、そこを一人闊歩するなど教会側のトップのする事ではない。
「大丈夫よぉ。護衛なんて私に要らないもの~。リリたん、心配してくれてるの?嬉しいっ」
「リリたん呼ばないでください。別に心配はしていませんし、そういう事じゃありません!」
「えぇ~残念。って、ま、私よりも弱い子に護衛されても、ねぇ?」
この女神のごとき美貌のトゥマエレ教皇は真っ白なローブで体のラインが見えていないからか、その容貌と外向きの身に纏う雰囲気で、かなり細身で聖書より重いものなど持ったことが無いだろうと勘違いしている者は数多くいるが、実は均整の取れた無駄のない筋肉の持ち主で、剣を振れば王宮騎士団の団長と互角という腕前を持つのだった。
殆どの人が知らないだろうが、教皇しか持つことが出来ない荘厳な装丁を施されている聖書は大きいし分厚いし、かなり重い。
それをひょいと軽く片手で持ち上げるこの人は、必要とあらば、その手に持つ聖書で人を殴り飛ばせるだろう。
が、有事など殆ど無いこのご時世、飾りでもいいから護衛を付けて欲しいとは教会、王家の両サイドからの願いである。
いくら言っても、聞きゃしないが・・・
「そう!聞いて!リリたん。最近着任したばかりの聖騎士がホント困ったチャンで――」
本当に人の話を聞かない人だ。と、トゥマエレ教皇の腕の中でため息を吐いた分だけ酸素を肺に入れる為に空気を吸えば、奥深い夜の森を思わせる様な香りが鼻腔を満たした。
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