血統鑑定士の災難

やよい

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血統鑑定士のそれから【続き 不定期更新】

2 魔導具メンテナンスのお話し

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開いたままの扉の向こう、廊下からバタバタと駆けてくる足音に目的の人が漸く来たかと椅子の背もたれに体重を預けて伸びをする。
パキっと肩甲骨が音を立てると「んーーーっ」と声を上げた。

「すみませんっ!オーギーさん!・・・遅くなってしまって!」
「いいよぉ。珍しいねぇ、リリカント君が遅刻するなんて」

廊下を走ってくるのも珍しい。とオーギーと呼ばれた青年は狐の様な目をにこやかに細めて姿勢を戻した。
慌てて室内へと入るとロアンは開け放たれていた扉を閉めて施錠するとパタパタと手で熱くなった顔を仰いだ。
焦って走ってきたからだろうけれど、それだけでは無さそうでロアンの衣服は少しばかり乱れており、オーギーの鼻に僅かに届く匂いに遅刻の理由がありありと解り、くふくふと笑った。

「あ・・・、す、すみません」
「気ぃにしなさんなぁ。ほら、座って座ってぇ。あ、本はこっちに置いてねぇ」
「はいっ」

感付かれた事が解り、ロアンの頬が赤く染まる。それを見ながらオーギーはロアンが抱えていた本を手に取ると決められた手順であちこちと確認を取っていく。

「まったく、牽制なんて意味のない事するもんじゃないと思うんだけどねぇ」
「え、ええ・・・はい」
「リリカント君に言ってるわけじゃなぁいよぉ。心のせまぁい、王太子殿下が良くないよねぇ・・・解らないでもないけどさぁ」

手を動かしたまま、オーギーはロアンの珍しい遅刻と身体にほんのりと染み付いた匂いの原因の人に「困ったねぇ」と独り言の様に呟いた。
ロアンは先程まで執務室できつく抱き締められたままキスをされていた事がすっかりとオーギーに悟られている事に「ああぁぁぁ・・・」と声を上げて赤くなる顔を両手で隠した。

「この魔導具のメンテは密室で2人きりが原則だからねぇ。仕方ないっちゃ仕方ないけどさぁ、聖約を結んでいるんだからぁ、もう少しだけ余裕を持っても・・・んや、僕が信用できないのかなぁ?」
「え?そ、そんな事はっ」
「失礼しちゃうよねぇ。僕にだって、ちゃあんと聖約を結んだ人がいるっていうのにさぁ。知らないのかな?・・・あぁ、リリカント君に関してはポンコツになるって聞いてたし、忘れてるだけかなぁ」
「・・・オーギーさん、聖約を結ばれている方が居るのですか?」
「あれ?言ってなかったっけぇ?・・・あぁ、言ってないなぁ。つい最近だもんなぁ、忘れてたよぉ」
「届け出は・・・」
「うん、まだしていないよぉ。やぁ、失敗失敗。王太子殿下をポンコツだなんて言っちゃったぁ。内緒にしててよぉ。・・・はい、こっちの方は問題なし。次、腕出してぇ」

なんともマイペースなオーギーと、自分に関してポンコツに。というクリストフェルの評価に「何処からそんな話が・・・」とロアンは力なく笑い、腕をテーブルの上に置いた。

「『délivrer』・・・ほい、良いよぉ」

ロアンの手首にしっかりと嵌め込まれていた腕輪にオーギーは指先でちょいと触れ、唱える。と、カシャカシャ、と音を立てて腕輪に亀裂が入り最終的にカシャンと音がして腕輪が開いた。
それを手に取りロアンの腕から外すと、オーギーは眼鏡をかけ台座の上に腕輪を置いた。

起動した台座からは半透明の文字盤の様なものが現れ、オーギーはそれを台座に付属しているペンの様な物でちょいちょいと触れては、時々、何かを書き込んだりしている。

「んー・・・あんまり使ってないねぇ。前回魔石の補充をしてから減ってないやぁ。リリカント君はお茶でもしててぇ。追加で機能を入れるからぁ、すこぉし時間がかかるよぉ」
「追加機能、ですか?」
「そぉなのさぁ、鑑定士長とぉ、王太子殿下とぉ、聖下の連名でねぇ・・・設計図書くのに毎日徹夜だったよぉ・・・おかげで眠くてぇ」
「えぇぇえっ?!そんな、ご迷惑を・・・」
「ぜーんぜん。ちゃあんとお給金は弾んでくれるみたいだしぃ、この残業に護衛でついてくれた騎士様がぁ、僕の聖約の相手なんだぁ。いい事づくめで、幸せさぁ」

恐縮して身体を縮こませるロアンにオーギーはくふくふと笑いを零し、気にしないでいいと使っていない手をピラピラと動かした。

「騎士様、ですか?」
「うん。初めて会った瞬間、あ、この人だぁ。って解っちゃったよぉ。向こうも、ちゃあんと僕だって解ってくれてさぁ。嬉しかったなぁ。直ぐに聖約を結んだよぉ。やぁ、そうだぁ。届け出はこの仕事が終わったら、一緒に出しに行くんだったぁ」
「おめでとうございます。良かったですね、いる筈だってオーギーさん言ってましたもんね」
「いやぁ、なんだか面映ゆいねぇ。ちゃあんと、後で紹介するよぉ」
「はい。楽しみにしています」

テレテレと頭の上にある狐耳をオーギーはヒトと変わらない指先でカリカリとかいた。

「ところで、あの・・・新しい機能って」
「そうなのさぁ、腕輪を増やすか、指輪とかピアスでも良いんじゃないかなぁって聞いたんだけどぉ、指輪は自分たちで吟味したものを送りたいからぁ、却下。ピアスは穴を開けるなんて以ての外ぁって殿下が。でもぉ、腕輪をこれ以上増やしたくないってさぁ・・・我儘じゃない?」
「なんか、本当に申し訳ございません・・・」
「僕の騎士様はそこまで束縛も執着も強くないからなぁ。んー、でも、行かないでぇって涙目で言われたらぁ・・・抱き潰しちゃうかも」

細い狐目が開き、ペロリと舌が己の唇を舐る姿にロアンは「わぁ、こんな表情するんだ」と目をぱちぱちと瞬かせてしまう。
いつも飄々としてて、のんびりマイペースなオーギーのまた別な顔に驚いた。

「後で紹介するとは言ったけどぉ。熊の獣人の新人騎士、知ってる?」

突然の話の方向転換にロアンは「はい?」と答えてしまう。
いや、知ってる事は間違いないのだが・・・

「その騎士様が僕の魂の伴侶なんだぁ。可愛いんだよぉ?」

確か数か月前に執務棟の巡回騎士として紹介された新人騎士の中に熊獣人が居たことをロアンは思い出す。
小柄な狐獣人のオーギーと並ぶと倍近く大きく厳つい印象しかなかったが、あの彼に「可愛い」がどこに当て嵌まるのかが皆目見当もつかなかった。


「んふふぅ。まぁ、僕の騎士様の良いトコロは僕が知っていれば良いからねぇ」

何処が、束縛も執着も薄いのか・・・。しっかりと独占欲丸出しではないか。とロアンは思ったが口には出さずに微笑むだけで終わらせた。

「よし、上手くいったよぉ。これで・・・ほい、ほい・・・。ちゃんと機能してそうだよぉ」
「あ、あの・・・追加機能の説明は」
「やぁ、そういえばしてないねぇ。えぇと、魔石魔石・・・」

床に置いた作業鞄から魔石が入っている小箱を取り出すと蓋を開ける。
カチカチと元々付いていた魔石を取り外し、取り出した4個の魔石を取り付けていく。

「一つはぁ、元々の機能だねぇ。この本と連動して血統鑑定を行った時のみ発動する鑑定結果自動書記ぃ。で、追加がぁ、常時発動型の毒耐性の強いやつとぉ、守護結界だよぉ」
「え?」
「王太子妃ぃ?には必要不可欠なんだってさぁ。王太子と公爵と聖下の魂の伴侶に手を出すお馬鹿はいないと思うけどねぇ、念には念を。ってやつだよぉ」

はい。と手渡された腕輪には、4種の魔鉱石が嵌められていた。随分と輝く魔鉱石に嫌な予感がする。

「この魔鉱石はねぇ・・・
まず、魔水晶に分類される、イエロー・アパタイトだよぉ。教皇聖下が選んだよぉ。
で、こっちが、インペリアルトパーズ・・・、この魔宝石は魔導具室には置いてなかったから、王太子殿下からのぉ、持ち込みだったよぉ。
これがぁ、ダークグリーントルマリン、グリーントルマリンの中でもぉ、ブラックに近いものだよぉ。これもぉ、鑑定士長自らがぁ持ち込んだよぉ。
で、最後ぉ、ブルーゾイサイト、保管してる中でもいっちばん、色が濃く深い色を3人が選んだよぉ。魔導具室の室長が泣いてたよぉ。
ちょいとぉ、色のバランスとか、腕輪とのデザインの調和とかぁ、考えたんだけどぉ。3人ともこれ使えって五月蠅くってぇ」
「大変、ご迷惑を・・・」
「んふふ、いいのいいの。室長だってなんやかんやと臨時収入入ったみたいだしぃ。別の魔鉱石で補填してくれたから、僕等にはなぁんの痛痒もないよぉ」

腕輪に光る魔鉱石を改めて見るロアンの頬がほんのりと赤く色づき、口許は緩んだ。
満月の様な淡い黄金。
黄金の太陽。
深い森の様なダークグリーン。

ロアンの脳裏に次々と浮かぶ、3人の魂の伴侶の顔。
真っ直ぐに見詰めてくる3人の瞳・・・

「自分の色を持たせたい、って言うのわぁ、男として解るよねぇ。僕も騎士様に早速ピアス着けたんだぁ。・・・『sluiten』、はい、これで完了ぉ」

ロアンが自分の腕にはめ込むと、外す時と同じ様にオーギーはちょいと指先で触れて腕輪の切れ目をなぞる。と、カシャカシャと音を立ててロアンの腕を覆い、繋目すら解らなくなる。

ロアンは、嵌った腕輪を擦り、ふふ。と笑みを零した。
何だかんだとこの腕輪とは8年程のお付き合いだ。
外されてしまうと、心許なくなってしまって点検中は少しだけソワソワしてしまっていたが、こうして自分の手首に戻ってくると落ち着く。
・・・が、彼等の色をした魔鉱石が目に付くと恥ずかしいやら、嬉しいやらで少しだけむず痒い。

んじゃあ、実際の動作確認をしないとねぇ。とオーギーが言うや否や小型のナイフをロアンに振りかざした。

「オーギーさん!?・・・っ、・・・え?」

オーギーに握られた小型のナイフはロアンに触れる前に音も無く弾かれた。

「いたたた・・・、ちょっと弾く力を強くしすぎたかなぁ、あ、そのピカピカしてるとこ触ったら解除だよぉ。・・・来たみたいだねぇ」
「大丈夫ですかっ!?って、いきなり何をするんですかっ、事前にも少し説明をしてくださいよっ。?、来た、とは?」

痛めた手を摩るオーギーにロアンは「オーギーさんはいつも説明が足りていません!」と怒りつつも、結界の解除をしながらオーギーの心配をする。
来た。というオーギーにロアンは首を傾げた瞬間、バン!という音と共に人影が室内へと入ってきた。

「何があった!?」

施錠していた室内へと入ってきたのはクリストフェルで、ロアンは突然の登場に目を白黒させた。
息が上がり、額からは汗を蟀谷から顎へと垂らしているクリストフェルは室内のオーギーとロアンを黄金の瞳で見て、無事を確認するが、壁へと弾かれ落ちた小型のナイフを見付けるや否やロアンを腕の中へと抱き込んだ。

「大丈夫か?!オーギーっ、ロアンに何をしたっ!」
「んはぁ、そっちの方の受信も概ね良好ぉっと」
「あ、あのっ、王太子殿下っ、何もありません!ていうか、施錠してましたよね?何故開くんです?」
「その小型のナイフはなんだっ・・・、ん?そういえば、初めて見た魔導具だったような」
「で・・・殿下、お願い、ですから・・・ハァ、一人でっ、突っ走らないで、くださいっ」
「あ、チェスぅ。今日は王太子執務室前の警備だったんだねぇ」
「オーギーさん・・・、ハァハァ・・・『説明を始める前だ!アホ!』ってミルさんから言伝が」
「んふっふぅ。そっかそっかぁ。説明を受ける前に作動してぇ、リリカント君の異常の知らせを受けてぇ、殿下は走ってきちゃったとぉ。あ、リリカント君、このチェスが僕の伴侶ぉ」
「チェスリーさん、でしたよね?よろしく・・・じゃなくてですね。あの、オーギーさん、話しが全く見えません。のと、殿下、私は大丈夫ですから、そろそろ離していただけると」

ギッと強くオーギーを睨むクリストフェルにオーギーは全く意に介さず、後からやってきた騎士服の熊獣人へと嬉しそうに駆け寄る。オーギーは元々小柄だが更に小さく見えた。
オーギーにチェスと呼ばれた騎士は上がる息を少し整えて、執務室から慌てて飛び出してきたクリストフェルを追う様に支持を出され、ついでにとばかりに新たな魔導具の説明をしにやってきたオーギーの同僚の言伝を律儀に一言一句間違えず伝えた。
ロアンは未だクリストフェルの腕の中にいて、何もないのだからと腕の中から出ようとするが、クリストフェルは一層強く抱き込んだ。

「全く、お前は王太子としての自覚があるのか?フェル」
「クリス・・・、俺が席を外したばかりにこれか・・・」

チェスリーの大きな体の後ろから声がかかり、チェスリーは慌てて飛びのくと、オーギーは「残念」と目を細めて眉を下げた。
マイペース過ぎるオーギーにロアンは苦笑をする。
避けたチェスリーの後ろから現れたのは、エドゥバルドとニリアンだった。
エドゥバルドの手には小さな板状の様な物が握られていた。

「ロアンに危険が及んでいるとなれば駆けつけるものでしょう?」
「あぁ、それはそうなんだが・・・。・・・新しい魔導具がどれ程の物でどういう物かはきちんと理解しているか?お前はそれに踊らされているという自覚はあるか?」

エドゥバルドの質問にクリストフェルは視線をずらした。
それを見てニリアンは深いため息を吐いて「この際ですから、説明を一気にしてもらいましょう」とオーギーを見た。

「ちょっと狭いけど、皆さんどおぞぉ・・・じゃあ・・・」

オーギーの説明を簡潔にすると、

ロアンのこの腕輪は、常時発動型の毒検知と危険予知結界機能がついており、毒を検知した瞬間、ロアンの毒耐性が瞬間的に上がる機能が発動するのだという。
結界については、オーギーが先程実際に試した様に、ロアンに危害を加えようとした瞬間、結界がロアンの周りに張られて弾くというものだった。ロアンに何らかの負の感情を持って触れようとする者も弾く機能もあるらしい。
そして、特筆すべきは毒検知とそれに付随する毒耐性向上、危険予知に結界の発動といった機能が展開された瞬間、エドゥバルドの手に握られていた小さな板状の物にロアンに何が起きているかがけたたましい音と共に表示されるのだとか。

「事前に説明を受けてはいたが、驚いたよ。鳴った途端、鑑定室に居た全員が一瞬にしてこいつに視線を取られた」

エドゥバルドがテーブルの上にロアンの腕輪の対になる受信器を置いた。
ロアンは相変わらずクリストフェルの腕の中だが、そこからそっと覗き見る。

『ロアン・リリカントに緊急事態発生
危険予知、結界展開・・・現在解除』

という文字が読めた。

文字の下には簡易の地図が表示されていて、ロアンの居る場所にマーカーがあり、それが点滅していた。

「音に、注視の機能を含んだんだよぉ。鳴れば無視できないようにしてるのさぁ。で、これを、こうしてぇ・・・」

オーギーは受信機をちょいちょいと指先で弄る。と、文字と地図が消えて盤面に、にこやかなまま、小型ナイフを手に振りかぶるオーギーの映像が映し出された。
何の意図も見せずに微笑みながらナイフを振りかぶっているオーギーの画像を見て全員が「怖い」と感じた。

「腕輪を中心にぐるりと360度、映し出されるよぉ。これを見て、判断した後、対策を練って、騎士とか色々連れてリリカント君の救出をするんだよぉ。本当はぁ」

すいすいと指先を左右にずらせば、確かに周囲を見渡せるような映像が映し出された。
オーギーの言葉にクリストフェルが小さく「ぐ・・・」と唸りを上げた。

「ロアンが遮ってしまう側の映像の読み取りは難しいな・・・。やはり別の物の方が望ましいか」
「そうなんですよねぇ、鑑定士長の言う通りなんだぁ。僕のおすすめはぁ、ピアスなんだけどなぁ」
「ダメだ。ロアンの身体を傷つけるなんて」
「私は、それで皆様からの安心が得られるのなら、構いません」
「ロアンっ」
「王太子殿下、いい加減に離してください」
「・・・すまない」

やっとクリストフェルの腕の中から解放されたロアンは、クリストフェルとエドゥバルドの両方を見て、静かに言葉を紡いだ。

「殿下と聖約を結んだ事を公表した後、私の我儘でこうして一宮廷文官としてまだ働かせて貰っている事は本当に申し訳ないと思っています。でも、私はこうしている方が私らしくあるとも思っていますから・・・どうしても譲れないものでもあります。
こうして仕事をしている中で護衛騎士を付けない事も我儘だって言うのは解っています。そして、それを許容してくれている皆さんに本当に感謝をしているんです。・・・だから、もし、不測の事態が起きて、この身に着ける魔導具で万全を期して対応ができるのなら、私はピアスの一つや二つは問題ないと思っています。それを嫌がって、もし、グランツ様や、ヴァル、リャハ様に何かある方が私は嫌です。なので、オーギーさん、ピアスをお願いします」
「任されたぁよぉ。ピアスには、腕輪に今回付けた映像の撮影と映像の発信機能にぃ、何処に居るか解る機能を付けておくよぉ。腕輪からそれらを外すからぁ、結界の持続時間を延ばす事が出来そうだよぉ」
「因みに、何時間くらいなんですか?」
「今は1日くらいかなぁ。最大で3日くらいには出来るんじゃないかなぁ。魔鉱石も最高の物を使ってるしぃ」
「3日あれば、何とか対策と救出には余裕がもてますね・・・近衛騎士と騎士団の方へ魔導具の企画書の変更届を忘れずに提出してください」
「うん、休暇前に出せるようにするよぉ」

結界持続時間の確認をするニリアンに答えるオーギーの言葉に、ロアンの脳裏にインペリアルトパーズが過る。

「と、いう事で、私のピアスはお二人が付けてくれますか?」
「解った。トゥマにも伝えておこう」

ロアンがクリストフェルとエドゥバルドを見て微笑むと、エドゥバルドは仕方ないなと首を振り、クリストフェルは何か言いたそうに、もごもごと口を動かす。

「・・・グランツ様が嫌なら、二個ともヴァルにお願いしても良いんですよ?」
「それはっ、――――――っ」
「フェル、諦めろ。ロアンは譲らんぞ?それと、今回のお前の行動も原因だと解っているな?」

真新しい魔導具を持ってきた宮廷魔導具師の説明もよく聞かず、ただロアンが危険だという知らせを受けて単独で走り出したクリストフェルを窘めるエドゥバルドにニリアンは内心で拍手喝采をエドゥバルドへと贈っていた。

(もっと言ってください!ほんと、この人、近頃浮かれまくっててポンコツになっていたので!)

「・・・、・・・解った」

色々と言いたいのを飲み込んでクリストフェルは首肯する。
いくら警備が万全と言われていても不特定多数の者が行き交う執務棟での単独行動はまずかった。と自分の行動を省みれば、ぐぅの根も出せずに押し黙るしかなかった。


――――――


後日、ロアンの耳には腕輪と同じ魔鉱石を使ったピアスが右に1個、左に2個付けられて彩った。
同時に、ロアンの魂の伴侶3名の右耳にはロアンの夜の様な色をしたピアスが付けられた。




「あの・・・追加で結界を私の意志で張る事はできませんか?」
「どうしてぇ?」
「・・・お耳を拝借しても?」
「ふんふん・・・やぁ、身が持たないのねぇ。大変だぁねぇ3人も相手するのはぁ」
「オーギーさんっ!・・・えぇ、まぁ、はい・・・」
「腕輪の方に自分で結界を張るのは付けておくけどぉ、それは奥の手にしときなよぉ。変わりに、追加のピアスに体力回復つけとくよぉ。疲れ知らずになるよぉ」
「・・・よろしくお願いします」

(対にして、ある程度近寄ったら微弱発動にして、リリカント君の意識が眠気以外で絶たれたら強制発動にしておこうかな)

このオーギー製のピアスによって、ロアンとの子作りが随分と捗ったのは言うまでもなく、ピアスの鑑定書を見ていち早く機能を知ったエドゥバルドは私財からオーギーとチェスリーの瞳の色をした魔鉱石をいくつかプレゼントしたという。
ついでに自分のピアスにも体力回復機能を付けて貰っていたというのは内緒の話。
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