こんな私でも、クーデレ幼馴染に「ドキドキしてる」って言わせたい!

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二章 鼓動の音に問いかけて

鼓動の音に問いかけて.3

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 ドキドキするかって?
 ばか。
 しないはず、ないじゃん。

 夜重の顔。綺麗だ。でも、これって別に昔からそうだ。いやでも待って、昔は、こうやって手を繋いでも平気だったじゃん。

 変わったのは、なに?
 分かんない。
 けど、なんか変なのは、夜重だよ。
 なにもかも、夜重が悪い。

 こんな綺麗な顔で、こんな真剣な声と瞳でそんなことを聞いたら…誰だって、ドキドキするって言うに決まってるじゃん。

「…夜重、この前に言ってたこと、本気なの?」
「言ってたことって?」
「だから…その、私で試しなさい、的なやつ」
「さあ、どうだと思う?」

 この意地悪。

「…夜重があんなこと、冗談で言うわけないじゃん」
「分かっているじゃない」

 ぐっ、と体を引き寄せられる。

「わっ」

 とてもスマートな動きで私の腰に夜重の手が添えられる。こんな気障で紳士的な振る舞いをしているのに、その瞳の光はギラギラとしていて獰猛だ。

「や、や、夜重、待って」
「ええ、待ってあげるから答えなさい。ドキドキしているの、どうなの」
「この姿勢で待つって言われても…!」

 腰と腰は密着し、片手は夜重の手によって絡め取られている。これじゃあ、まともに頭なんて回らないよ…。

 こんな真似を夜重がするなんて、妄想の中でもありえないのに…と私が低い視線から夜重の顔を見上げたところ、耳まで真っ赤になった彼女と目が合った。

「――うわぁ、夜重、死ぬほど顔赤いよ…?」
「赤くないわ」
「いやいや…無理してんじゃん、照れてんじゃん」
「いいから!答えなさい!」

 ここで私は、よくある法則によって冷静になった。『自分より慌てている人を見ると、冷静になれる』というやつである。

「だいたいさぁ、夜重はなんでこんなことしてんの?自分で試せー、なんて」
「…」

 一瞬の沈黙。

 私相手に言葉を選ぶってことは…都合の悪いことがあるんだ。

 ということは…。

「夜重さぁ」じろり、と下から彼女を睨み上げる。「もしかして、本気で私の保護者のつもりなんじゃないよね…?」

 夜重は図星だったのか、ちょっと目を丸くした。それからややあって、深いため息を吐くと、「ええ、そうよ。私は貴方の保護者なの。だから、祈里の馬鹿な試みに付き合ってあげてるのよ」と告げた。

 私はそれでムッときて、空を駆け上がるような声を発した。

「あー!やっぱり!おかしいと思ったんだよ、夜重があんなこと言うなんて」
「…よ、予測しなさいといつも言うでしょう」
「うっさい!そもそも、私、夜重にそんなこと頼んでないよ!莉音で試すからいいじゃん!莉音もそのつもりなんだし!」
「だからそれは…人様に失礼だと言っているのよ。それにねぇ、SNSを通して知り合った人間に全幅の信頼を置くなんて、子どものすることよ」
「ぐっ…」
「万が一のことがあったら、貴方のお母さんに祈里を任されている私まで罪悪感を覚えることになるのよ?」
「た、頼んでないし」
「じゃあ、逆の立場でも同じように放っておくのかしら?」

 逆の立場?

 それを言われて、ようやく私は今の自分の状況を客観的に考えた。

 一、幼馴染がSNSを使って知り合った男(女だったけど)とリアルで会う。
 二、同性だったけど、色々あってお試しで付き合ってみないかと言われた。
 三、ありかもしんないけど、ありじゃないかもしんない。
 四、とりあえず、試してみるね。

 んー…?

 それを夜重がする?

 いや、駄目でしょ。止めるわ。

「…まあ、放っては、おかないかな…」
「ほら見なさい。馬鹿ね、相変わらず。頭の中に自分しか住んでいないから、そういう短慮な思考になるのよ」

 冷笑と共に罵られ、私は反射的に噛みつき返す。

「うるさい!だからってなんで夜重で試すのさ!」
「あのね、さっきも言ったけれど、こんなこと他の人に頼めないでしょう」
「ぐ、ぐぬぬ…」

 始まった。段々と理詰めされてきた。こうなると、詰将棋みたいにして私の逃げ場は消えていく。ちょうど今みたいに動けなくなっていくんだ。

 夜重は私が反論の言葉を見つけきらないことを悟ると、ふっ、と勝ち誇ったような顔をした。

「よかったわね?理解ある幼馴染が美少女で。私で試してもドキドキしないなら、誰に対してもならないわよ」

 ぶちっ。

 こ、こいつ…!

 平々凡々としている私に向かって、美少女マウント取りやがった。

 事実が事実だけに腹立たしい。私が雑種なら、あっちは血統書付きのシェパードか何かだ。

(ゆ、許せん…蒼井夜重!)

 夜重が私を心配してくれているのは分かっている。だけど、保護者だからって理由だけで私をかき乱した挙げ句、最後に放つ言い分がアレってのは気に入らない。

(くそぅ。自分が美人でかわいいからって、なんでも思い通りにいくと思ってるな、夜重のやつ…!)

『どっちのほうが顔が赤いでしょう選手権』をしたら、いい勝負になりそうな私と夜重。でも、結局はいつも夜重の手のひらの上。

 ほらね、って顔で私を笑う。しかも、美少女と凡人の隔たりを感じさせるような、とびきり綺麗な笑顔で。

(ぐぬぬ…!そうはいくもんか)

 私は持ち前の負けん気を発揮して夜重の手を強く握り返すと、呆気に取られた表情を浮かべた幼馴染に言ってやった。

「お生憎様、ドキドキなんてしてるわけがないじゃん」

 寸秒、夜重は眉をひそめたが、すぐに低く抑揚のない声で答えた。

「つまり、女性は恋愛対象にはなりそうにないということね」

 ふっ、そうくると思った。

 いつも予測予測うるさいから、今回は言われる前から予測を立ててやった。

「そういう意味じゃないし。――だって、私たち幼馴染なんだよ?」

 その私の言葉に、顔を赤らめたままの夜重が目を細める。

「へぇ…じゃあそれは…私が『女だから』ではなく、『幼馴染』――いえ、『私』だからドキドキしていないと…そう言いたいのね」

 いや、そこまでは言っていない…と思ったが、よくよく考えると、たしかにそういうことになりそうだ。

「まあ、そうなるね」

 そうそう簡単に、夜重の思い通りになんてさせない。

「顔、真っ赤なくせに」と夜重が私をじっとりとした目で睨む。
「夜重だって、人のこと言えないよ」

 そうして私たちは、赤い顔で体をくっつけたまま互いに睨み合った。

 意地の張り合いは昔から得意だ。でも、夜重だって得意だ。だって、私とやってたんだから。
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