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第6話
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どうしよう、どうしよう。息が詰まりそうで胸に手を当てる。徐々に白み始めた夜空を見て心臓がますます早くなっていく。ふと視線を落とすと、指先がペンの跡で黒ずんでいた。
なんとか、いや正直全く自信はないが、それでもなんとか手紙は書き上げることができた。暁宵城の応接室にラザラスの魔力が埋め込まれた箱を持っていき、その中に封筒を入れる。ここまでは予定通りだ。震える手でエリオットからもらったツバメのピンズを襟元に付けると、じっと日没を待つ。
夕暮れに照らされながら人間界から戻ってきた大勢の天使の中からエリオットを見つけるのは容易く、視線が重なるとそっと頷いてくれた。
あれからエリオットは城に手紙を取りに行っただろうか。あの手紙を読んでどう思っただろう。返事はいつ頃になるだろう。2日、3日……いや、週末の休みまで待ったほうが良いかもしれない。
そもそもやっぱり悪魔との文通なんて嫌気が差して、あれが最初で最後の手紙になってしまったら――期待と不安で胸がいっぱいになり、人間界での任務なんて全く手につかない。我先にと夜明け前に明星門をくぐると、いつものように天使たちの行列とすれ違った。
エリオットの顔を見るのが怖い、でも会いたい、逃げたい――相反する想いを抱えながら重い足取りで大通りを進んでいくと、目に馴染んだ長身の銀髪が視界に入る。なんで俺はこんなにもエリオットを容易く見つけてしまうんだと自分自身に呆れていると、エリオットの胸元で何かが朝日に照らされてキラリと光った。
――もしかして。
こちらを見つけて穏やかな微笑みを浮かべたエリオットが、ツバメのピンズを付けて歩いてくる。嘘だろ、と思わず歩みを止めそうになった。こんなに早く返事を書いてもらえるなんて。エリオットとすれ違い、振り向いてもその姿が見えなくなった頃、大急ぎで城へと向かった。
あった。鍵を回し箱を開けると、そこには白い封筒が入っている。中にはなんと書いてあるのか、待ちきれずその場で封を開いた。
『レヴァンへ
まず、文通というアイディアを見つけてくれてありがとう。
実は私も、君とただすれ違うことしかできない日々をもどかしく感じていた。いつも私に優しい眼差しを向けてくれる君は一体どんな悪魔なのかとずっと気になっていたよ。でも天使と悪魔という立場の違いから、関わりを持てないのは仕方ないと諦めていた。
そんな中で君は隔たれた壁を乗り越えて、しかも私にとって限りなくリスクが低い方法を見つけてくれた。そんな勇気と知恵と優しさを私に対して向けてくれること、とても嬉しく思っている。本当にありがとう。
読んでいて面白い手紙が書けるかはわからないけど、私もレヴァンと文通がしたい。君のことをたくさん教えてほしい。私も自分らしさを君に伝えられるような手紙にできればと思っている。
身体に気を付けて健康に過ごしてほしい。君に溢れんばかりの幸せがあらんことを。
エリオットより』
何度も手紙を読み返し、気持ちをぶつける場所を探すかのように部屋の中をぐるぐると歩き回る。なんて嬉しい言葉の数々だろう。たくさん思い悩んで、苦しくて、緊張して――そんな全てが報われたようだった。
何よりエリオットが自分と同じ気持ちだったのが嬉しくてたまらない。この繋がりを絶ちたくないと思っていたのは自分だけじゃなかった。エリオットも同じだった。頬が緩むのを止められそうにない。
これまで1人で空回りしているだけなのかもしれないという不安が付きまとっていたが、手紙に書かれた言葉が不安を吹き飛ばしていく。この不毛な初恋はもう諦めるべきなのかと何度も頭を過ぎっていたのに、エリオットの言葉だけでこんなにも気持ちが変わるのかと自分の単純さに笑ってしまう。
返事を書こう。次はエリオットにどんなことを伝えようか。エリオットに何を聞こう。そんな期待に胸を膨らませながら、夜明けの日差しの中を寮に向かって歩いていった。
なんとか、いや正直全く自信はないが、それでもなんとか手紙は書き上げることができた。暁宵城の応接室にラザラスの魔力が埋め込まれた箱を持っていき、その中に封筒を入れる。ここまでは予定通りだ。震える手でエリオットからもらったツバメのピンズを襟元に付けると、じっと日没を待つ。
夕暮れに照らされながら人間界から戻ってきた大勢の天使の中からエリオットを見つけるのは容易く、視線が重なるとそっと頷いてくれた。
あれからエリオットは城に手紙を取りに行っただろうか。あの手紙を読んでどう思っただろう。返事はいつ頃になるだろう。2日、3日……いや、週末の休みまで待ったほうが良いかもしれない。
そもそもやっぱり悪魔との文通なんて嫌気が差して、あれが最初で最後の手紙になってしまったら――期待と不安で胸がいっぱいになり、人間界での任務なんて全く手につかない。我先にと夜明け前に明星門をくぐると、いつものように天使たちの行列とすれ違った。
エリオットの顔を見るのが怖い、でも会いたい、逃げたい――相反する想いを抱えながら重い足取りで大通りを進んでいくと、目に馴染んだ長身の銀髪が視界に入る。なんで俺はこんなにもエリオットを容易く見つけてしまうんだと自分自身に呆れていると、エリオットの胸元で何かが朝日に照らされてキラリと光った。
――もしかして。
こちらを見つけて穏やかな微笑みを浮かべたエリオットが、ツバメのピンズを付けて歩いてくる。嘘だろ、と思わず歩みを止めそうになった。こんなに早く返事を書いてもらえるなんて。エリオットとすれ違い、振り向いてもその姿が見えなくなった頃、大急ぎで城へと向かった。
あった。鍵を回し箱を開けると、そこには白い封筒が入っている。中にはなんと書いてあるのか、待ちきれずその場で封を開いた。
『レヴァンへ
まず、文通というアイディアを見つけてくれてありがとう。
実は私も、君とただすれ違うことしかできない日々をもどかしく感じていた。いつも私に優しい眼差しを向けてくれる君は一体どんな悪魔なのかとずっと気になっていたよ。でも天使と悪魔という立場の違いから、関わりを持てないのは仕方ないと諦めていた。
そんな中で君は隔たれた壁を乗り越えて、しかも私にとって限りなくリスクが低い方法を見つけてくれた。そんな勇気と知恵と優しさを私に対して向けてくれること、とても嬉しく思っている。本当にありがとう。
読んでいて面白い手紙が書けるかはわからないけど、私もレヴァンと文通がしたい。君のことをたくさん教えてほしい。私も自分らしさを君に伝えられるような手紙にできればと思っている。
身体に気を付けて健康に過ごしてほしい。君に溢れんばかりの幸せがあらんことを。
エリオットより』
何度も手紙を読み返し、気持ちをぶつける場所を探すかのように部屋の中をぐるぐると歩き回る。なんて嬉しい言葉の数々だろう。たくさん思い悩んで、苦しくて、緊張して――そんな全てが報われたようだった。
何よりエリオットが自分と同じ気持ちだったのが嬉しくてたまらない。この繋がりを絶ちたくないと思っていたのは自分だけじゃなかった。エリオットも同じだった。頬が緩むのを止められそうにない。
これまで1人で空回りしているだけなのかもしれないという不安が付きまとっていたが、手紙に書かれた言葉が不安を吹き飛ばしていく。この不毛な初恋はもう諦めるべきなのかと何度も頭を過ぎっていたのに、エリオットの言葉だけでこんなにも気持ちが変わるのかと自分の単純さに笑ってしまう。
返事を書こう。次はエリオットにどんなことを伝えようか。エリオットに何を聞こう。そんな期待に胸を膨らませながら、夜明けの日差しの中を寮に向かって歩いていった。
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