悪魔の俺が天使に一目惚れしてハードモードなんだが!?

萌葱 千佳

文字の大きさ
12 / 28

第12話

しおりを挟む
 誰もいない自室をぐるぐると歩き回る。呼吸を整えようと深呼吸をするのは、もう何度目だろうか。一度封筒に仕舞い直した手紙を再び広げた。

『誰よりも愛おしいレヴァンへ
 君と恋人同士になって、もうこの想いを胸の内に留める必要はないと気付いた。
 君を心の底から愛している。君とすれ違う度、手紙をもらう度、その想いはますます大きくなっていく。
 君の声も、あたたかい体温も、優しく私に触れる大きな手も、少し跳ね上がり気味のその文字も、全てが愛おしくてたまらない。何度愛していると伝えても足りないから、こうして手紙にも書かせてほしい。
 早く君に会える日が来ることを指折り数えている。どうかこの愛が君の元へと届きますように。
 君の恋人 エリオットより』

 文字を目で追う毎に顔がどんどん熱くなっていく。恋人になったエリオット、とんでもねぇな――こんなにも真正面から文字で綴られた愛情を浴びるのは初めてだった。
 これだけの愛をもらって普段通りの返事をすることなんてできない。俺だって、もらっただけの愛に応えたい。そう覚悟を決めると、レターセットを取り出し机に向かった。


 待ち望んでいた土曜日、いつもの暁宵城の応接室にやってきたエリオットはどこか様子が違っていた。背中に回された腕の力も控えめで、視線もきょろきょろと落ち着かない。
「エリオット……俺なんかしたか?」
 恋人同士という関係性になって、もしかしたら気付かないうちに何かやらかしていただろうか。するとエリオットは顔を隠すようにしながらぽつりぽつりと言葉を洩らした。

「……レヴァンからの手紙が随分と情熱的だったから、それで恥ずかしくて、顔が見られなくて」
「はぁ!?」
 思わず素っ頓狂な声が口から溢れる。

「情熱的とか、あの手紙書いたエリオットには言われたくねぇよ!」
「別に私は、普通に、ただ思ったことを」
「あんな何回も愛してる愛してるって書かれた手紙が普通なわけねぇだろ! それを読んで……俺も……思ってること……全部書こうって……」
 エリオットの照れが伝染したかのように、こちらも段々と声が小さくなる。そっと手が触れると、2人の指が絡んだ。

「……そうか、私もレヴァンに同じことをしていたのか。申し訳ない」
「別に、嬉しかったから、いい」
 顔を見合わせると、どちらからともなく笑いが広がる。腕を伸ばしてお互いの身体を強く抱き締めた。
「……レヴァンに、会いたかった」
「俺もだ」
 唇を重ねながら、手紙で受け取った愛を体温でも再確認した。


 天使と悪魔が共存できる世界を作る――そのためにはまず自分たちが天界と魔界において力を付けないことが第一だと、エリオットと話をして方針が固まった。出会った頃には下級天使、下級悪魔だった俺たちは、それぞれ中級に上がっている。何か大きなアクションを起こすのは上級になってから――直近の目標としてはそれぞれ天使、悪魔としてのランクアップだった。

「これとか良さそうじゃね?」
 中級に上がると天界/魔界に帰らず、数日間人間界で過ごす出張任務が受けられるようになる。通常の任務より難易度は上がるが、その分もらえるポイントも増えるため、早くランクアップしたい俺たちは出張任務を多くこなす方針となった。ソファに座ってお互いのタブレット端末を見せ合いながら、良さげな任務をピックアップする。
「たしかそれと似ているターゲットを私のほうでも見たな……あった、これだ」
 任務の詳細情報を開き、ターゲットとなる人間を確認する。お互いが選んだ任務のターゲットはどちらも大学生男子、しかもプロフィールを見ると大学名、サークル名まで一致している。

「サークルも一緒なのか、こいつらに関わりあんのかな」
 天使のミッションは不真面目すぎる人間を清く導くこと、悪魔のミッションは真面目すぎる人間を楽に息ができるようにすること――正反対のアプローチではあるが、行き過ぎた人間を中央値に近付けるという点ではやっていることは同じだ。隣に座るエリオットの顔を見ると、何やら考え込むような表情を浮かべている。

「……2人が同じコミュニティに属する人間だと仮定して、お互いがお互いの原因になってる可能性はないか?」
 天使と悪魔の任務はそれぞれ独立したものだ。それに関連性を見出したエリオットの言葉を受けて、こちらも考え込む。
「こいつが不真面目になった原因がそいつで、んでそいつが真面目になった原因がこいつ……ってことか?」
 指先でそれぞれのタブレットに触れながら仮説を確認する。
「そうだ。同時期に同コミュニティの人間に対する任務が出ているということは、原因とまではいかなくても多少なりとは関係があると考えていいだろう」
「なるほど、それは可能性としてあるな」
 タブレットを見つめていたエリオットの瞳がこちらを捉える。

「この任務、私とレヴァンで協力して進行してみないか?」
 思ってもみなかった言葉がエリオットから飛び出した。
「天使は昼から任務が始まるから、先に私が人間界に向かって2人分の情報を得る。夜にレヴァンが人間界に来たら合流して、整理した情報から作戦を立てる。この流れでどうだろう?」
「いいけど……合流して作戦相談するのはどこでやるんだ? 見つかったらやばいぞ」
 するとエリオットは咳払いを1つして、視線を逸しながらぽつりと呟いた。


「あー……それなんだが……うちの宿泊施設に来ないか?」
 人間界への出張任務のために、天使と悪魔はそれぞれ人間界に宿泊施設を持っている。当然自分は悪魔の宿泊施設に泊まるつもりだったが、まさかの提案がエリオットから飛び出した。
「それって大丈夫なのかよ?」
「実はもう、偵察には行ってきた。天使の宿泊施設は古い建物で、指紋認証や顔認証もないし、カメラの設置もない。隣が使われていない角部屋を予約すれば、会話や足音も周りには聞こえないだろう。窓から出入りすればレヴァンも問題なく入れるはずだ」
 遠慮がちにそっとエリオットの手が重なる。
「……その、たとえお互いの任務に関連性がなくても、誘うつもりではいた。同じ期間人間界にいるんだったら、せっかくだし会いたいだろ」

 エリオットの紡ぐ言葉に胸が熱くなる。俺と会うために、こんなにも知恵を巡らせてくれるエリオットの存在が嬉しくてたまらない。重なった手をそっと取るとお互いの指を絡ませた。
「なぁ、情報共有や作戦立てる時以外も俺は居ていいのか?」
「むしろ居てほしい。ベッドは1つしかないから、寝る時は少し窮屈かもしれないけど……」
 照れたように言葉を紡ぐエリオットの身体をぎゅっと抱き締める。週に一度こうして短い時間で会うしかない俺たちにとって、お互いの活動時間は違うとはいえ同じ部屋で数日間寝泊まりできるのはあまりにも魅力的な提案だ。

「……やばい、楽しみすぎて任務どころじゃない」
「私もだ。でもお互いが協力すれば、問題解決の糸口が見つかるのも早いと思う。そうしたら、余った時間は2人でゆっくり過ごそう」
 エリオットの瞳を見つめ、そっと唇を重ねる。この喜びが伝わるようにと願いながらの口付けは、いつもよりも甘美なものとなった。
「では、さっそく週明けから人間界だ。これから宿泊施設の予約をするから、場所と部屋番号の情報を明日中にこの箱に入れておく」
「わかった。月曜、日が落ちたらすぐ人間界に向かう」

 顔を見合わせるとエリオットの顔にいたずらっぽい笑みが広がる。
「……ちゃんと任務もするんだぞ?」
「わかってるよ! 元々それでポイント稼ぐのが目的だし。でも、ちょっとくらい浮かれてもいいだろ」
「あぁ、私もレヴァンと同じ時間を過ごせるのが楽しみでたまらない」

 愛しているよ――まっすぐにこちらの目を見たエリオットの口が動く。
「お、俺も……愛してる……」
 もごもごと口を開くとエリオットが満足そうな笑みを浮かべた。


「では次に会うのは、人間界で」
「あぁ」
 エリオットと共に人間界で過ごす、抱えきれないほどの期待を胸に、俺たちは暁宵城を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...