ガツンと、恋!

萌葱 千佳

文字の大きさ
10 / 16

第10話

しおりを挟む
 ケイは、誰よりも早く教室に来ている――以前同期たちからそんなことを聞いたことを思い出した俺は、朝の魔界を全速力で駆けていた。
 結局昨日は全然眠れなかった。緊張、わくわく、ドキドキ、そんな感情が入り混じって1つになっている。今日の研修が終わるのを待てない。朝一番に、誰よりも早くケイに会って、伝えたい。そう思いながら研修センターの門をくぐる。

 いつもは賑やかな声に包まれているこの建物も、今は静かに朝の清々しさをまとっていた。肺の空気を入れ替えるかのように大きく深呼吸をすると、自分たちの教室に向かって歩き出す。さすがに早すぎるな、ケイが来るまで何をしていようか。そんなことを思いながらドアを開けると、そこに居たのは誰よりも愛おしい天使だった。


「レオ……!? いつも講義ギリギリに来るだろ。どうしてこんな朝早くに……」
 読書をしていたのか、本を手にしたケイが1人窓辺で佇んでいる。朝日に照らされて銀色の髪も、白い翼も、キラキラと輝いていた。

 やっぱり、ケイが好きだ。ケイじゃなくちゃ。そう思い、まっすぐケイの目の前に向かうと、その澄んだ青空のような瞳を真正面から見つめた。

「ケイ」
「……なんだ」

 どくんどくんと自分の心臓が音を立てているのがわかる。言うんだ、言える、大丈夫だ、言葉にしろ。そう思いながら喉が震えるのも気にせず息を吸った。


「……好きだ。ケイが大好き。ケイだけが、俺の特別」

 1つ1つ、噛みしめるようにゆっくり言葉にする。水色の瞳は大きく開かれ、俺をじっと見つめている。その瞳に自分が映り込むくらい、グッとケイに近付いた。


「ケイは、俺のことどう思ってる?」

 瞳が揺れて、そして逸らされる。その視線を追い掛けるように身体を移動させると、また視線が逸れた。

「やめてくれ」
「おい、そっぽ向いてないで何とか言え!」
 もう逃がさないとケイの頬に手を添えると、いつものひんやりとした体温とは異なり、熱く火照っている。耳まで赤くしたケイが言葉を紡ぐのを待ち構えた。

「手紙で……書いてもいいか……」
「嫌だ。今ここで、ケイの口から聞きたい」

 俯いていたケイが、観念したかのように顔を上げる。少しだけ潤んだその瞳はまっすぐに俺を捉えていた。


「……レオを、誰よりも愛している」

 真っ赤な顔をしてぽつりと呟くケイの言葉で、血が沸騰するかのように身体が熱くなる。こいつ、もしかして、俺のこと相当好きなんじゃないか? ――そう直感が告げると動揺して言葉が出ず、パクパクと口を動かすしかない。緊張の糸が解けたかのようにケイがふっと笑みを漏らす。

「だから、手紙で書いたほうがいいんじゃないかと言ったのに」
「うるさい! ……うるさい!」
「レオ、好きだ」
 ぎゅっと背中にケイの腕が回される。これまで何度もケイと抱き締め合ってきたけど、それとは全く違ったぬくもりに包み込まれたようだった。こちらもそっと腕を回してその愛おしい体温を嚙み締める。

「お前って、そういうタイプだったんだな」
 ケイから素直に与えられる愛情が、すとんと胸の内に落ちていく。言葉も、力強く抱き締める腕も、絶え間なく俺への愛を伝えているようだった。
「そういうタイプって、なんだ?」
「……何でもない」
 こちらもケイの背中に回した腕に力を込める。ケイだからこそ、俺の求めていたパーツがぴたりと当てはまる。そんな幸福感を抱きながら耳元でぽつりと呟いた。

「俺たち、今日から恋人でいいんだよな?」
「あぁ」
「……じゃあペア兼恋人ってことで、よろしく」
 もじもじと言葉を紡ぐと、ケイが楽しそうに笑い出す。

「なんだよ!」
「いや、何でも。……レオ、こちらこそ、よろしく」


 抱き締められたまま、どちらからともなく唇が重なる。初めての恋人としての口付けは、これまでのどんなキスとも違っていた。そっと瞼を閉じ、その甘さに酔いしれる。ケイを視線が重なるとその瞳がとびきり優しくて、心臓がどくんと音を立てる。あぁ、好きだ。ケイが好きだ。

 ペアとして研修での実績を積み重ねてきた俺たちが、今日からは恋人としての第一歩を踏み出す――そう実感しながら、誰も居ない教室の中で静かに体温と喜びを分かち合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...