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マリアンヌ編
11
マリアンヌはカラダを起こし、顔を洗うために洗面所に向かおうとしたが、同じ様に起き上がったノーマンに腕を後ろから取られる。
「リア、…リア」
切羽詰まったような声でマリアンヌを呼んだノーマンは、掴んだ腕にギュッと力を込めた。
「…はい」
顔を上げられず、俯いたままノーマンに向き合う。しばらくの沈黙の後、マリアンヌは口を開いた。
「ノーマン様、…やっぱり、私を離縁してくださいませんか」
「…っ、…イ、ヤだ」
ノーマンはマリアンヌの頬をそっと両手で挟み顔を上げさせる。ノーマンの顔が傷付いたように歪んでいるのを見て、マリアンヌは視線を合わせることができなかった。
「な、んで、なんで、リア、…さっき、俺を愛してるって…、キミが不安に思うことがないよう契約書も作る、」
「…愛して、います。でも…ノーマン様との、…前回のノーマン様との、いろんな確執を、たぶん、私は忘れられません。…私に、前回の記憶が戻ってしまった以上、それを忘れることができない以上、別々の人生を歩んだほうが幸せになれると、…そう、思いませんか、」
「思わない」
被せるように答えたノーマンは、マリアンヌを自分に向き合わせるとギュッ、と胸に抱き込んだ。
「俺がどれだけ酷いヤツだったのか、教えてくれ、リア。キミが持っている俺への確執を、少しずつでいいから話してくれ。ただ、先にひとつ、言ってもいいか、リア」
抱き込んだマリアンヌの髪の毛に顔を埋めるようにしたノーマンは、何度か深呼吸をすると口を開いた。
「…こんなことは、なんの保証もない。俺はリアが経験した未来の記憶もないし、いまの自分でリアに向き合うしかない。いまの、俺の気持ちだと思って聞いて欲しい」
マリアンヌが困惑しながらも頷くと、
「さっきの話で、俺がリアに、その、…閨を、拒絶されて、家に帰って来ない日が増えた、ってあっただろ。それはたぶん、キミに、乱暴を働かないように距離を置いたんだと思う、物理的に。…俺はね、リア。キミをずっとずっと好きだったんだよ。ようやく結婚できて、でも仕事のことがあって自分の思う通りにできない部分もあって、それがある日突然、リアに拒絶されて、…娘を授かっていたから、ってこともあるけど、リアは、俺があの害虫と情交してるのを聞いたから心理的に俺を嫌悪した、だから、…そういう、リアの気持ちを、俺は感じてしまって…原因がわからなくて、でもなぜかリアに距離を置かれて、…焦ったと、思うよ。原因を話してくれないわけだし、リアは。なんでなのか、わからない、でも子どもが生まれたら元に戻るんじゃないかって単純に考えて、…その間に害虫が妊娠した、俺の子どもだ、ってなって、…リアが、俺を拒絶した理由がわかったけど、あの害虫どもを炙り出すために、俺も言わなかったんだろう」
(…言わなかった?)
「なにを、ですか」
ノーマンは、マリアンヌの顔を上げさせると眉を下げ、小さな声で「…怒らないか?」と聞いた。なんのことなのかわからない以上返事ができず困っていると、もう一度、「…怒らないで、リア」と呟き額をコツンと合わせた。
「あの害虫の腹にいるのは、俺の子どもじゃない、ってこと」
「…え?」
マリアンヌはノーマンの言葉を反芻すると、「…ええ、違いますよね、違う方の子どもだと」とポツリと呟く。
「いま、じゃなくて。リアが経験した未来で、だよ。…リア、俺の子種は、キミにしか宿らないんだ。今回みたいに中に出しても、他の女を孕ませることはない。俺はね、リア。キミと迎えた初夜で、まじないをかけたんだ。…黙っててごめん。気持ち悪いって思われたら、って、…でも、我慢できなくて、やっちゃったんだ。リアにも、俺以外の男の子種は宿らない。他の男と情交なんて絶対にさせないけど」
額をグリグリされながら、マリアンヌは困惑していた。子種が、宿らない…?
「未来で、害虫が俺の子どもだって言ったとき、すぐに嘘だ、ってわかったはずだよ。だけど、こいつらを滅するために少しだけ我慢しようと思ったんだと思う…俺には害虫を抱いた記憶なんてないんだし、どうやったんだ、ってなるだろ。クスリのことを吐かせて、その場ですべて断罪すればよかったのに、…たぶん、後に退けなくなったんだろう、リアに害虫の妊娠を知られて。気持ち悪いって思われるのもイヤで本当のことを言えなくて、…その間に、どれだけリアが傷ついているか、慮ることができなかったんだろう。…夫失格だ。本当の娘を取り返してリアに許してもらえるって考えてたんだろうな、俺。でも、子どもも懐かなくて、キミは俺を拒絶し続けたんだろう…?キミを感じたいのにできなくて、でも無理矢理したら今以上に拗れてしまうと思って、…キミに、近づかないようにしたんだと思う」
ノーマンの言葉に、マリアンヌは頭がクラクラしてきた。
「…未来でも、そうだったと、確信があるのですか?孕ませないまじないをかけたと…?」
「うん。あるよ。絶対にやったはず。なんにも拗れてないいま、…実際に、やったわけだし。自信を持って断言できる」
どや顔をされても困るのだが、マリアンヌは「…そうなんですか?」としか答えられなかった。
「うん、そうだと思う。さあ、リア、教えて、未来の俺の最低な所業を」
肩をガッシと掴まれてワクワクしたような顔をされて、マリアンヌは呆けるしかなかった。そんな期待に満ちた目で見られても…、今から暴言を吐かれるとは思わないのだろうか。
「あ、の、」
「うん?」
「え、っと、」
「うん。ゆっくりでいいよ、リア」
ニコニコするノーマンに、何か言わなくてはとなぜか焦るマリアンヌは、
「え、えっと、叩かれました、頬を」
と言ってしまい、途端に能面のようになるノーマンにビクッとカラダを震わせた。
「いつ」
「あ、の、」
「リア、ゆっくりでいいから。俺がリアの頬を叩いたのはいつ?」
酷い圧を感じてゆっくりどころの話ではなく、マリアンヌは、しどろもどろになりながらなんとか説明をした。
「…妊娠したって告げたら次の日の朝には仕事を辞めさせられてた。文句を言ったら、叩かれた。その夜は会いにも来なかった…」
ハア、とため息をついたノーマンは、「ごめんな、リア」と言ってマリアンヌの頬にそっと手を添えた。
「い、まの、ノーマン様ではありませんから、」
「それでも。そんなことするなんて、…リアに手をあげるなんて。あってはならないことだよ。ごめん」
優しく撫でられるその手の温もりに、マリアンヌの心がほんのりと温かくなる。
ノーマンは首を傾げると、「…リアを退職させたのは、」と呟いた。
「…たぶん、心配で仕方なかったんだろう。本来なら、話し合うべきだよな、心配だから、仕事を辞めて欲しいとか、すぐじゃなくてもゆくゆくは、とか…。ただ、…ごめん、俺がガキだから、たぶん、リアに妊娠してるから、って拒まれて、…その日たぶん、リア、俺とまともに話してくれなかったんだろ?害虫を抱いた俺のこと、不信感でいっぱいだったよな…でもそれがわからない俺は、たぶん、悲しくて、悲しいを飛び越えてツラくなっちゃって、苦しくて、どうにかリアを自分に向かせようとして、一足飛びに、…勝手に、辞めさせちゃったんだろうな。叩いた日の夜、キミのところに行かなかったのは、…そういう、やましい気持ちがあって…叩いたこともリアが怒ってて、嫌いだなんて言われたら立ち直れなくて、逃げたんだと思う。…情けないな。ごめん」
ノーマンは深く頭を下げると、
「…心配であることに変わりはないけど、俺は辞めさせたりしないから。リアが、魔術師団に入団するために学園のときから努力してきたことわかってるし…辞めたくなったらそれでいいけど、辞めたくなければこのまま、…体調にだけは十分に注意して、働いてもらいたい」
とまたニコリとした。
「…ありがとうございます」
「あとは?」
「あ、えっと、」
「はいそこまで」
急に声が聞こえてきて、ノーマンとマリアンヌはビクッとカラダを跳ねさせた。
「…長官」
「19時になったのに来ないから呼びにきた。ごはんだよ。マリアンヌちゃんもおいで」
ナディールに手招きされて慌ててベッドから降りる。
「長官、リアを着替えさせてから行きます」
「うんそうだね。じゃあ先に行くから」
そう言ってナディールは姿を消した。ノーマンは「リア、パジャマはまた後で」と言って、
「俺、外で待ってるから。着替えておいで」
と微笑み部屋から出ていった。
「リア、…リア」
切羽詰まったような声でマリアンヌを呼んだノーマンは、掴んだ腕にギュッと力を込めた。
「…はい」
顔を上げられず、俯いたままノーマンに向き合う。しばらくの沈黙の後、マリアンヌは口を開いた。
「ノーマン様、…やっぱり、私を離縁してくださいませんか」
「…っ、…イ、ヤだ」
ノーマンはマリアンヌの頬をそっと両手で挟み顔を上げさせる。ノーマンの顔が傷付いたように歪んでいるのを見て、マリアンヌは視線を合わせることができなかった。
「な、んで、なんで、リア、…さっき、俺を愛してるって…、キミが不安に思うことがないよう契約書も作る、」
「…愛して、います。でも…ノーマン様との、…前回のノーマン様との、いろんな確執を、たぶん、私は忘れられません。…私に、前回の記憶が戻ってしまった以上、それを忘れることができない以上、別々の人生を歩んだほうが幸せになれると、…そう、思いませんか、」
「思わない」
被せるように答えたノーマンは、マリアンヌを自分に向き合わせるとギュッ、と胸に抱き込んだ。
「俺がどれだけ酷いヤツだったのか、教えてくれ、リア。キミが持っている俺への確執を、少しずつでいいから話してくれ。ただ、先にひとつ、言ってもいいか、リア」
抱き込んだマリアンヌの髪の毛に顔を埋めるようにしたノーマンは、何度か深呼吸をすると口を開いた。
「…こんなことは、なんの保証もない。俺はリアが経験した未来の記憶もないし、いまの自分でリアに向き合うしかない。いまの、俺の気持ちだと思って聞いて欲しい」
マリアンヌが困惑しながらも頷くと、
「さっきの話で、俺がリアに、その、…閨を、拒絶されて、家に帰って来ない日が増えた、ってあっただろ。それはたぶん、キミに、乱暴を働かないように距離を置いたんだと思う、物理的に。…俺はね、リア。キミをずっとずっと好きだったんだよ。ようやく結婚できて、でも仕事のことがあって自分の思う通りにできない部分もあって、それがある日突然、リアに拒絶されて、…娘を授かっていたから、ってこともあるけど、リアは、俺があの害虫と情交してるのを聞いたから心理的に俺を嫌悪した、だから、…そういう、リアの気持ちを、俺は感じてしまって…原因がわからなくて、でもなぜかリアに距離を置かれて、…焦ったと、思うよ。原因を話してくれないわけだし、リアは。なんでなのか、わからない、でも子どもが生まれたら元に戻るんじゃないかって単純に考えて、…その間に害虫が妊娠した、俺の子どもだ、ってなって、…リアが、俺を拒絶した理由がわかったけど、あの害虫どもを炙り出すために、俺も言わなかったんだろう」
(…言わなかった?)
「なにを、ですか」
ノーマンは、マリアンヌの顔を上げさせると眉を下げ、小さな声で「…怒らないか?」と聞いた。なんのことなのかわからない以上返事ができず困っていると、もう一度、「…怒らないで、リア」と呟き額をコツンと合わせた。
「あの害虫の腹にいるのは、俺の子どもじゃない、ってこと」
「…え?」
マリアンヌはノーマンの言葉を反芻すると、「…ええ、違いますよね、違う方の子どもだと」とポツリと呟く。
「いま、じゃなくて。リアが経験した未来で、だよ。…リア、俺の子種は、キミにしか宿らないんだ。今回みたいに中に出しても、他の女を孕ませることはない。俺はね、リア。キミと迎えた初夜で、まじないをかけたんだ。…黙っててごめん。気持ち悪いって思われたら、って、…でも、我慢できなくて、やっちゃったんだ。リアにも、俺以外の男の子種は宿らない。他の男と情交なんて絶対にさせないけど」
額をグリグリされながら、マリアンヌは困惑していた。子種が、宿らない…?
「未来で、害虫が俺の子どもだって言ったとき、すぐに嘘だ、ってわかったはずだよ。だけど、こいつらを滅するために少しだけ我慢しようと思ったんだと思う…俺には害虫を抱いた記憶なんてないんだし、どうやったんだ、ってなるだろ。クスリのことを吐かせて、その場ですべて断罪すればよかったのに、…たぶん、後に退けなくなったんだろう、リアに害虫の妊娠を知られて。気持ち悪いって思われるのもイヤで本当のことを言えなくて、…その間に、どれだけリアが傷ついているか、慮ることができなかったんだろう。…夫失格だ。本当の娘を取り返してリアに許してもらえるって考えてたんだろうな、俺。でも、子どもも懐かなくて、キミは俺を拒絶し続けたんだろう…?キミを感じたいのにできなくて、でも無理矢理したら今以上に拗れてしまうと思って、…キミに、近づかないようにしたんだと思う」
ノーマンの言葉に、マリアンヌは頭がクラクラしてきた。
「…未来でも、そうだったと、確信があるのですか?孕ませないまじないをかけたと…?」
「うん。あるよ。絶対にやったはず。なんにも拗れてないいま、…実際に、やったわけだし。自信を持って断言できる」
どや顔をされても困るのだが、マリアンヌは「…そうなんですか?」としか答えられなかった。
「うん、そうだと思う。さあ、リア、教えて、未来の俺の最低な所業を」
肩をガッシと掴まれてワクワクしたような顔をされて、マリアンヌは呆けるしかなかった。そんな期待に満ちた目で見られても…、今から暴言を吐かれるとは思わないのだろうか。
「あ、の、」
「うん?」
「え、っと、」
「うん。ゆっくりでいいよ、リア」
ニコニコするノーマンに、何か言わなくてはとなぜか焦るマリアンヌは、
「え、えっと、叩かれました、頬を」
と言ってしまい、途端に能面のようになるノーマンにビクッとカラダを震わせた。
「いつ」
「あ、の、」
「リア、ゆっくりでいいから。俺がリアの頬を叩いたのはいつ?」
酷い圧を感じてゆっくりどころの話ではなく、マリアンヌは、しどろもどろになりながらなんとか説明をした。
「…妊娠したって告げたら次の日の朝には仕事を辞めさせられてた。文句を言ったら、叩かれた。その夜は会いにも来なかった…」
ハア、とため息をついたノーマンは、「ごめんな、リア」と言ってマリアンヌの頬にそっと手を添えた。
「い、まの、ノーマン様ではありませんから、」
「それでも。そんなことするなんて、…リアに手をあげるなんて。あってはならないことだよ。ごめん」
優しく撫でられるその手の温もりに、マリアンヌの心がほんのりと温かくなる。
ノーマンは首を傾げると、「…リアを退職させたのは、」と呟いた。
「…たぶん、心配で仕方なかったんだろう。本来なら、話し合うべきだよな、心配だから、仕事を辞めて欲しいとか、すぐじゃなくてもゆくゆくは、とか…。ただ、…ごめん、俺がガキだから、たぶん、リアに妊娠してるから、って拒まれて、…その日たぶん、リア、俺とまともに話してくれなかったんだろ?害虫を抱いた俺のこと、不信感でいっぱいだったよな…でもそれがわからない俺は、たぶん、悲しくて、悲しいを飛び越えてツラくなっちゃって、苦しくて、どうにかリアを自分に向かせようとして、一足飛びに、…勝手に、辞めさせちゃったんだろうな。叩いた日の夜、キミのところに行かなかったのは、…そういう、やましい気持ちがあって…叩いたこともリアが怒ってて、嫌いだなんて言われたら立ち直れなくて、逃げたんだと思う。…情けないな。ごめん」
ノーマンは深く頭を下げると、
「…心配であることに変わりはないけど、俺は辞めさせたりしないから。リアが、魔術師団に入団するために学園のときから努力してきたことわかってるし…辞めたくなったらそれでいいけど、辞めたくなければこのまま、…体調にだけは十分に注意して、働いてもらいたい」
とまたニコリとした。
「…ありがとうございます」
「あとは?」
「あ、えっと、」
「はいそこまで」
急に声が聞こえてきて、ノーマンとマリアンヌはビクッとカラダを跳ねさせた。
「…長官」
「19時になったのに来ないから呼びにきた。ごはんだよ。マリアンヌちゃんもおいで」
ナディールに手招きされて慌ててベッドから降りる。
「長官、リアを着替えさせてから行きます」
「うんそうだね。じゃあ先に行くから」
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「俺、外で待ってるから。着替えておいで」
と微笑み部屋から出ていった。
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