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「とりあえず、顔洗ってくる。すぐ、してもいい?碧。時間もったいない。明日、昼まではいてくれるんでしょ」
「高橋先生、」
「何時?12時だよね、昼までって、11時じゃないよね。11時になって帰るなんて言われたらやだ。12時だよね、いいんでしょ。ダメなの」
「高橋先生、」
「俺が顔洗ってくる間に、書いて。さっきの紙に。何時まで、って。あと、何回出してもいいって。碧、俺、やめてって言われたらやめる、訴えていいって言ったけど、それは消して。乱暴にはしないけど、今日しかないんだから、碧がやめてって言ってもやめない。明日、碧が帰るまでは絶対やめない。最後の最後まで、時間がくるまでやめない」
「高橋先生、」
「書いててよ」
俺は洗面所に向かい、顔を洗った。自分が望んでも、手に入らない。当たり前なんだろうけど、今までそんなことがなかった俺は胸が抉られるように痛んだ。たぶん今まで、こんなにも望んだものなんてなかった。自業自得だ。わかってる。だけどツラいことに変わりはないし、これから先、碧と奏太に関われないという現実に絶望した。バカだ。バカすぎて、でも、もう、どうしようもない。碧と奏太のこと知っちゃったのに。
洗っても洗っても涙が出てくる。
こんなんで碧を抱けるのか。碧が満足できるように。時間がないのに。くそったれ。
嗚咽を堪えて何度も水で顔を洗う俺の背中に、温かいものが触れた。
「高橋先生」
「碧、離れて。俺、いま、準備するから。やめて、お願いだから!」
こんな状態で、どうすればいいんだ。今日しかないのに。情けない。
グズグズ泣く俺を碧はギュッと抱き締めた。
「高橋先生」
「…やめて。離れてよ。お願い、碧」
「怖くないです」
「…え?」
「高橋先生に、さっき抱き締められたり、いま、こうして触れたりしても、怖くないです。高橋先生、こっち向いてください」
「…やだ。また、碧にずるいって言われる」
「言いませんから」
「でも、言ったじゃん。泣いてずるいって。俺、いま、ダメなんだよ、涙が止まらなくて。顔洗ってもダメなんだよ。碧に、これ以上、ずるいって言われたくないんだよ。俺は確かにずるいし、卑怯だし、犯罪者だし、」
「そこまで言ってません」
「ストーカーだし」
「それは本当のことですから」
「…だから。これ以上、やなの。碧を傷つけておきながら勝手だけど、碧に傷つくこと、言われたくない。もう赦して。いや、赦せないと思うけど、言わないで、お願い」
「私とするのはイヤですか」
「そんなこと言ってない!」
「じゃあ、しましょう」
「でも、こんなんで、俺、碧を満足させられるか、」
「あの時、私は満足しましたか?あんなふうにされて?気遣いもなく、暴言を吐かれて暴行されたのに」
「してない、ごめん、碧、ごめん、」
「満足させるなんて。そんなの、傲慢ですよ。私と高橋先生は心が通じあうわけではないんですから、それなりでいいじゃありませんか」
「それなり…」
「それなりでいいですから。上書きしてください、あのひどい思い出を」
「…わかった」
「さっきも言いましたけど、私、あの時しか経験がないので。それこそ高橋先生、満足できないでしょうけど、お互い様ですから、我慢してください。どうすればいいか、教えてもらえますか」
「…わかった」
俺は碧の手を引いて、ベッドに連れて行った。
「ほんとに、怖くなったら言って。やめたくないけど、怖がらせるのはイヤだから。今さらだけど、言って。痛いときも言って。碧、俺のこと、経験豊富だって言ったけど抱いた数が多いだけで、自分さえよければいいようなセックスしかしてないから、」
「クズ発言ですね」
「…ごめん」
あんなに、怖い、イヤ、って青ざめた顔で言ってた碧と同一人物とは思えないくらいに淡々と言われて、本当の碧は、こんな感じだったんだ、ただ、俺があんなことしたせいで、男に対して毅然とできなくなってしまったのだと思った。この碧だったら、峯岸も目をつけなかったかもしれない。本来の碧は、誰かが好き勝手にできる女じゃないんだ。
奏太を取り上げられるかもしれないと思っていたときの、あの凛とした態度。あれが、本来の姿なんだ。
俺が作ってしまった気弱な碧を、俺が壊せばいい。二度と会えないんだから、他の男に襲われるような恐怖心をなくしたい。償いにもならないけど、そうすることが俺にできる唯一のことなんだと思った。
「高橋先生、」
「何時?12時だよね、昼までって、11時じゃないよね。11時になって帰るなんて言われたらやだ。12時だよね、いいんでしょ。ダメなの」
「高橋先生、」
「俺が顔洗ってくる間に、書いて。さっきの紙に。何時まで、って。あと、何回出してもいいって。碧、俺、やめてって言われたらやめる、訴えていいって言ったけど、それは消して。乱暴にはしないけど、今日しかないんだから、碧がやめてって言ってもやめない。明日、碧が帰るまでは絶対やめない。最後の最後まで、時間がくるまでやめない」
「高橋先生、」
「書いててよ」
俺は洗面所に向かい、顔を洗った。自分が望んでも、手に入らない。当たり前なんだろうけど、今までそんなことがなかった俺は胸が抉られるように痛んだ。たぶん今まで、こんなにも望んだものなんてなかった。自業自得だ。わかってる。だけどツラいことに変わりはないし、これから先、碧と奏太に関われないという現実に絶望した。バカだ。バカすぎて、でも、もう、どうしようもない。碧と奏太のこと知っちゃったのに。
洗っても洗っても涙が出てくる。
こんなんで碧を抱けるのか。碧が満足できるように。時間がないのに。くそったれ。
嗚咽を堪えて何度も水で顔を洗う俺の背中に、温かいものが触れた。
「高橋先生」
「碧、離れて。俺、いま、準備するから。やめて、お願いだから!」
こんな状態で、どうすればいいんだ。今日しかないのに。情けない。
グズグズ泣く俺を碧はギュッと抱き締めた。
「高橋先生」
「…やめて。離れてよ。お願い、碧」
「怖くないです」
「…え?」
「高橋先生に、さっき抱き締められたり、いま、こうして触れたりしても、怖くないです。高橋先生、こっち向いてください」
「…やだ。また、碧にずるいって言われる」
「言いませんから」
「でも、言ったじゃん。泣いてずるいって。俺、いま、ダメなんだよ、涙が止まらなくて。顔洗ってもダメなんだよ。碧に、これ以上、ずるいって言われたくないんだよ。俺は確かにずるいし、卑怯だし、犯罪者だし、」
「そこまで言ってません」
「ストーカーだし」
「それは本当のことですから」
「…だから。これ以上、やなの。碧を傷つけておきながら勝手だけど、碧に傷つくこと、言われたくない。もう赦して。いや、赦せないと思うけど、言わないで、お願い」
「私とするのはイヤですか」
「そんなこと言ってない!」
「じゃあ、しましょう」
「でも、こんなんで、俺、碧を満足させられるか、」
「あの時、私は満足しましたか?あんなふうにされて?気遣いもなく、暴言を吐かれて暴行されたのに」
「してない、ごめん、碧、ごめん、」
「満足させるなんて。そんなの、傲慢ですよ。私と高橋先生は心が通じあうわけではないんですから、それなりでいいじゃありませんか」
「それなり…」
「それなりでいいですから。上書きしてください、あのひどい思い出を」
「…わかった」
「さっきも言いましたけど、私、あの時しか経験がないので。それこそ高橋先生、満足できないでしょうけど、お互い様ですから、我慢してください。どうすればいいか、教えてもらえますか」
「…わかった」
俺は碧の手を引いて、ベッドに連れて行った。
「ほんとに、怖くなったら言って。やめたくないけど、怖がらせるのはイヤだから。今さらだけど、言って。痛いときも言って。碧、俺のこと、経験豊富だって言ったけど抱いた数が多いだけで、自分さえよければいいようなセックスしかしてないから、」
「クズ発言ですね」
「…ごめん」
あんなに、怖い、イヤ、って青ざめた顔で言ってた碧と同一人物とは思えないくらいに淡々と言われて、本当の碧は、こんな感じだったんだ、ただ、俺があんなことしたせいで、男に対して毅然とできなくなってしまったのだと思った。この碧だったら、峯岸も目をつけなかったかもしれない。本来の碧は、誰かが好き勝手にできる女じゃないんだ。
奏太を取り上げられるかもしれないと思っていたときの、あの凛とした態度。あれが、本来の姿なんだ。
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