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ソフィアが卒業式の会場を出て行った。その美しく気高い後ろ姿を見送ったオーウェンは、己の腕に指を絡ませ嬉しそうに微笑み頬を染めるクリスティーナに目を向けた。
「離せ」
「…え?」
ポツリと呟かれた言葉の意味が理解できずに「…オーウェン様?」と覗き込むようにするクリスティーナを、オーウェンは突き飛ばした。
「離せと言ったんだ」
「キャ…ッ」
突き飛ばされ倒れたクリスティーナを、ソフィアの兄チェイサーが抱き起こす。その様を憎々しげに見やるオーウェンに、クリスティーナの取り巻きの一人が「殿下、なんてことを…っ」と叫んだが、氷のような冷たい視線を向けられてヒュッ、と息を飲み固まった。
「兄上」
傍らに立つベンジャミンに、
「もういいな」
と告げるオーウェン。コクリと頷いたベンジャミンは、
「これで幕が閉じたでしょう。もう、ソフィア嬢も、…オリザも、害される心配はないはずです」
「この4人を捕らえよ!」
オーウェンの言葉に呼応するように、ソフィアが出ていったのとは逆の扉が開き、騎士たちが入ってきた。騒然となる会場でオーウェンとベンジャミン、パーシヴァル、そしてオランジェの4人だけが泰然と立っていた。
捕らえられたクリスティーナをはじめとする4人は、オーウェンたちの前にひざまずかされる。
「…オーウェン様…っ、どうして…っ」
「ロック伯爵夫妻は来ているか?」
またオーウェンの言葉と共に扉が開き、顔を青くした男女が震える足で会場に入ってきた。オーウェンの前に崩れるようにひざまずく。
「第1王子殿下にご挨拶を…っ」
「不要だ。ロック伯爵。私は再三貴方宛に書状を送ったな。貴殿の娘が不敬を働いている、なんとかせよと。しかしこの3年間、何も変わらなかった。いったいどういう了見なのか、しかと聞かせてもらいたい」
有無を言わさぬ威圧に、ロック伯爵の喉がゴクリと音を立てる。
「お、恐れながら、殿下は我が娘を側に置くことを欲されたと、」
「僕はなんにも欲していないよ。入学式の当日、陛下の名で書状が届いたはずだよね。それを貴殿は娘に伝えなかったのか?」
答えろ、と冷たく睨み付けられて、ロック伯爵は何がどこで掛け違ったのか理解できずただカラダを震わせ俯いた。
「離せ」
「…え?」
ポツリと呟かれた言葉の意味が理解できずに「…オーウェン様?」と覗き込むようにするクリスティーナを、オーウェンは突き飛ばした。
「離せと言ったんだ」
「キャ…ッ」
突き飛ばされ倒れたクリスティーナを、ソフィアの兄チェイサーが抱き起こす。その様を憎々しげに見やるオーウェンに、クリスティーナの取り巻きの一人が「殿下、なんてことを…っ」と叫んだが、氷のような冷たい視線を向けられてヒュッ、と息を飲み固まった。
「兄上」
傍らに立つベンジャミンに、
「もういいな」
と告げるオーウェン。コクリと頷いたベンジャミンは、
「これで幕が閉じたでしょう。もう、ソフィア嬢も、…オリザも、害される心配はないはずです」
「この4人を捕らえよ!」
オーウェンの言葉に呼応するように、ソフィアが出ていったのとは逆の扉が開き、騎士たちが入ってきた。騒然となる会場でオーウェンとベンジャミン、パーシヴァル、そしてオランジェの4人だけが泰然と立っていた。
捕らえられたクリスティーナをはじめとする4人は、オーウェンたちの前にひざまずかされる。
「…オーウェン様…っ、どうして…っ」
「ロック伯爵夫妻は来ているか?」
またオーウェンの言葉と共に扉が開き、顔を青くした男女が震える足で会場に入ってきた。オーウェンの前に崩れるようにひざまずく。
「第1王子殿下にご挨拶を…っ」
「不要だ。ロック伯爵。私は再三貴方宛に書状を送ったな。貴殿の娘が不敬を働いている、なんとかせよと。しかしこの3年間、何も変わらなかった。いったいどういう了見なのか、しかと聞かせてもらいたい」
有無を言わさぬ威圧に、ロック伯爵の喉がゴクリと音を立てる。
「お、恐れながら、殿下は我が娘を側に置くことを欲されたと、」
「僕はなんにも欲していないよ。入学式の当日、陛下の名で書状が届いたはずだよね。それを貴殿は娘に伝えなかったのか?」
答えろ、と冷たく睨み付けられて、ロック伯爵は何がどこで掛け違ったのか理解できずただカラダを震わせ俯いた。
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