逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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あの時のことを

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私を見つめるハロルド殿下は、私から言葉が出るのを静かに待っていた。一方的に「無理だ」「受け入れられない」と言ってみたところで、ハロルド殿下と私の婚約は王家からの申し込みであり、我が家はそれを了承した。その事実を前に、いくら知らされていなかったとは言え、逃げられるわけがない。

ひとつ、大きく息を吐く。カラダに残る何かを押し出すように。

「私が今からお話することは、かなり、荒唐無稽な話で…ご理解いただけるかどうか、わかりません」

「それでも、話してくれ」

ハロルド殿下は、果実水を新しく注いで渡してくれる。一度喉を潤して、覚悟を決める。とにかく吐き出せと言うのだから伝えてみよう。それで「おかしな女だ」と婚約を解消されてもむしろ願ったりだと思えばいい。新しい人生をどう生きるか、まだ何も決めていないけれど、結婚できなければできないなりの生き方をするしかない。精神的な屈辱を味わわされてきたあの時を考えれば、自ら死ぬことを選んだあの絶望を思えば、大抵のことは耐えられるはずだ。

「私は、」

そうして、ハロルド殿下に話した。前回のことを。自殺を謀り、気付いたら昨日に戻っていたことを。

「…セシリアの話の中の俺は、いったいなんなんだ?なんでそんなことを…」

ハロルド殿下は眉をギュウッとしかめると、その後の言葉が続かないようだった。初夜のことや、子爵令嬢との夜毎の情交についてもありのままを話した。どれだけ、ツラかったかこの方に訴えたところでどうしようもないのだが、それでもその時の感情を吐き出さずにはいられなかった。

「セシリア。今の話に、アリーという子爵令嬢が出てきたな。それはたぶん、さっき会ったアデルのことだろう」

「やっぱり、そうなのですか」

「やっぱりとは?」

「いえ、あの、…雰囲気や、品格はまったく違いますが、アデル様は、そのアリーと呼ばれていた子爵令嬢にそっくりだったので。でもアデル様は、イーストウェル侯爵家のご息女なのですよね?名前も、違いますし…」

「アデルは、イーストウェル家の実の娘ではない。叔父上が養女として8歳の時に迎え入れたんだ。母親がパーマー子爵の愛人で、子爵とともに悪どいことに手を染めていたそうでね。犯罪が明るみに出て子爵家は取り潰しになり、子爵夫妻と愛人の女は犯罪奴隷として他国に売られた。アデル…その時は確かに、アリーと呼ばれていた」

ハロルド殿下は「俺もいただくね」と言って、果実水をゴクリと飲んだ。
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