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第一章 嫌われ者の少年と帽子の少女
第十一話 雪の中の決意
しおりを挟む「さぶい....」
あまりの寒さにいつもより早く起きた。日が上ったばかりでまだ部屋は暗い。
ここ一ヶ月、徐々に寒くなってきており季節が変わりつつあることを実感していたさなかの今日だ。ここまで急に寒くなるなんて聞いてない。
冷え切って動かない体を無理やり動かしてベッドから降りる。ベッドから出た肌には冷え切った空気がとげのように感じ、突き刺さるような寒さが襲う。
曇って白くなった窓を袖で拭って外を見る。
「わぁ....。」
途端に僕は外の景色に驚いて声が出てしまった。
外は一面雪景色だった。出たばかりの日が雪の積もった地面を照らし、雪はきらきらとその光を反射させていた。今まで雪が降ることは何度もあったが、ここまで積もったのは初めてだ。
驚きと興奮で体温が一気に上がるのを感じた。少し眠たかった目が一気に冴えてくる。
外を眺めるのもそこそこにして急いで着替えて部屋を出る。
おじさんとおばさんはもう起きていて、おじさんはテーブルで温かいお茶を飲んでいた。
「おじさん、外、雪が積もってます!」
「おう、そうだがまずは『おはよう』だろう。」
とおじさんは苦笑いしながら言う。
「そうでした、おはおうございます。」
「おはよう、」
「それはそうとおじさん外、見ましたか?雪です、雪が積もってるんですよ。」
「あぁ、それはさっき聞いたし見た。この辺に雪が積もるなんて何年振りか。少なくともダニーが来る前だな、最後に積もった年は。」
そんなに積もったことがなかったのか。それなら僕が積もっているところを見たことないのも頷ける。
「この雪じゃ庭の手入れも無理ね。せっかく新しい苗を植えようと思ってたのにここまで積もるとは思わなかった。」
とおばさんがキッチン越しに嘆く。
「これは、今日一日雪かきかな。庭の雪をなんとかしないと何もできないしな。この雪なら狩りも行けん。」
「ダニエルは今日どうするの?用事がないなら雪かき手伝ってほしいけど。」
おばさんが朝食を運んできながら言う。
「うーん、特に予定は....」
と言いかけてやめる。せっかく雪が積もったんだ。いろんな場所にいってみないなんて損だ。それに雪かきはちょっとめんどくさそうだ。
「あ、今日はエメットと遊ぶ約束をしてます。去年は雪積もらなかったので遊ぶのが楽しみで、だから手伝えそうにないです。」
咄嗟に嘘をついた。
「そう、じゃあ仕方ないわね。でも気をつけていくのよ、村に行く道にも雪が積もってるんだから。」
「わかりました。」
「それと、分かっていると思うが森に入るのも駄目だぞ。なにせいつもと環境も違うから迷って出られなうなったり、獣に襲われたら大変だ。」
「もちろん、入らないですよ。」
おじさんに釘をさされ僕は頷く。ただでさえ今の時期の森は獣の動きが活発になっているのに、雪が積もっている森に入るなんて死にに行くようなものだ。言われなくても絶対にしない。
「それにしても、寒いのは嫌ね、外に出たくなくなっちゃうわ。」
おばさんが僕の隣に座り、ため息をつく。
「そうですか?僕は暑いよりは寒い方がましですけど。」
「ダニーは若いからそう言うのよ、私たちはどっちもしんどいわ。」
隣でおじさんがうんうんと頷く。
「おばさんもおじさんもまだ若いじゃないですか、もっと頑張ってくださいよ。」
「若いって。そういうがダニー、お前は俺たちをおじさんって呼ぶじゃないか。ほんとは歳だと思ってるんじゃないのか。」
「そ、それは言葉のなんとかと言うか....別にそう思ってるからじゃないですけど....」
おじさんに痛いところを突かれて言葉に詰まる。しまった、余計なことを言ってしまった。
「なんだ、『ですけど....』って。その後はなんて言おうとしたんだ?」
「なにもないです!ごちそうさまでした、出かける準備してきます!」
残りの朝食をかきこんで、自分の部屋へと急いで向かう。こういう時は逃げるが一番だ。
「おい、待てダニー!」
後ろでおじさんの呼ぶ声が聞こえたが、その声を聞いても止まらなかった。
ーーーーーーー
ダニーが出ていった部屋は一瞬で先ほどの騒がしさが嘘のように静かになった。
「まったく、からかっているのか、馬鹿にしているのか。」
そう言ってため息をつく。でも言葉とは裏腹に少し嬉しいような気持ちもあった。
「ダニーがそういうこというのは珍しいわね。」
とソニアが食べ終わった食器を下げながら言った。
ダニエルはあんまり子どもらしいことをしなかった。
例えば、いたずらや親の言うことを聞かなかったり。ほとんどそういったことをせず、俺やソニアの言うことを聞いていた。賢く大人っぽい。よく言えばそうだが、その大人っぽさが俺やソニアとダニエルの間に見えない壁を作っているように感じていた。
少し前にダニエルが約束を破って村に行ったことがあった。直接ダニエルの口から聞いた時、怒ってはいたが内心嬉しく感じたものだ。なんだ子どもらしいところもあるじゃないかと。
しかし、その後の言葉で俺はみぞうちを殴られたような気分になった。
呆然としている俺をよそにダニエルはどんどん話し続ける。このままじゃだめだ、それ以上言ってはいけない。俺は怒鳴って止めようとした。でもダニエルは言うことを聞かずに話し続けた。
ダニエルが言ってはいけない最後の一言を言おうとした時、俺はなにもできなかった。止めようとしたが体が動かなかったのだ。
気づいたら何もできなかった俺の代わりにソニアがダニエルの頬を叩いていた。ソニアは泣きそうな顔で一言呟いた後崩れ落ちた。固まってしまいそうになりながらも俺は崩れ落ちた彼女を支えた。
ダニエルを直視できなかった。今までもダニエルに実の子どもじゃないってそう思わせないようにしようと引き取ると決めた時に決意したのに、実際は全然できていなかった。
ダニエルは走って外に出ていった。ソニアは座り込んで泣いていた。俺はダニエルの父親としてなにをすべきなのか。さっきなにもできなかったからこそ、冷静でいられた。ソニアにダニエルを探しに行くことを伝え、俺は家を飛び出した。
ダニエルは小川のそばの森の少し入ったところの木のそばに寝ていたことを覚えている。あの時は夢中になって探した。獣に襲われたりしないかと、川でおぼれていないかと。だから見つけた時安心したものだ。
木にもたれかかって寝ているダニエルを見て安心した。ゆすって起こし、おんぶをして家に帰ることにした。久々におんぶしたダニエルは昔よりも大きくて重たかった。
それからだ。ダニエルが子どもらしい動きをするようになったのは。
「さっきだって起きてきて第一声が『外、雪積もってます!』だぜ?子どもかって思ったけど、子どもだったよそういえば。」
ソニアはクスクスと笑う。
「ほんと、子どもらしくなったよね。いい意味で。」
「俺としては話す時もう少し砕けた感じで話してくれると嬉しいんだけどなあ。」
「そうね。まあでもこれからじゃない?私たちはいつも通りに接してあげたらいいのよ。」
ソニアの言葉に俺は頷く。そうだ、ちょっとの間でもこれだけ変わったんだ。俺たちはダニエルの成長を見守ってやればいい。
そんなことを考えながら少し冷めたお茶を飲んで雪かきに備えるのだった。
ーーーーーーー
いつもより厚手のコートと手袋、ブーツを履いて外に出る。ほんとはもっと動きやすい格好で出かけたかったが、風邪を引いたら大変だからとおばさんにあれこれを着せられた。
暑くなれば脱げばいいしおばさんの言う通りに従ったが、今のところ厚手の服装で良かったと思う。それくらい寒いのだ。
庭出てとりあえず小川へと向かうことにする。雪が積もっていていつも歩いている道なのに歩きづらい。足が取られて少し進むだけでも時間がかかってしまう。
小川に着いた時、日はもう頭上近くまで上っていた。
これだけ雪が積もってるとなるともしかして川も凍っていたりするのかなと思っていたが、小川はいつも通り流れていた。
手袋を外して小川のそばまで近づいて流れる水を触ってみる。水はいつもより冷たく、指先から内側にその冷気が伝わってきて思わず手を引っ込めた。
手袋をして両手のひらを合わせて擦り温める。
さて、これからどうしよう。色々見て回ろうと思っておばさんたちの雪かきを断って外に出てきたが、特にどこに行くか決めてたわけではないので困った。
普段ならエメットもいるしすることが無くなるなんてことはない。でも彼女とはしばらく遊べないのだ。
もちろん喧嘩した訳じゃない。あれはちょうど寒くなってきた頃だったから一ヶ月くらい前か。いつものようにエメットと遊ぼうと彼女の家まで向かった。
家の扉をノックするとしばらくして奥の方からバタバタと音がしてエメットが出てきた。両手にはなにか荷物を抱えている。
「エメット、今日は遊べる?って忙しそうだね。」
「うん、実は....」
エメットの話はこうだった。実は数日前から彼女のおかさんの体調が悪化したらしい。なんでも数年前から体が弱く持病を抱えていたらしいが、とうとうくるところまできたらしく今は起き上がれないほどらしい。
「だからボクがおかあさんのそばにいないとなんだ....ごめんね。」
エメットは自分もつらいはずなのに僕を気遣った。
「そんなに気にしないで。おかあさんのそばにいて支えてあげて。」
「うん…」
「また遊ぼうね。」
そういって僕たちは別れた。それ以来僕は彼女と会っていない。
「元気かなあ。」
彼女がいればこの雪をもっと楽しめただろう。去年も少し雪が降ったが積もらなかった。
でも仕方ない。彼女は彼女で今大変なんだ。
ほんとにすることがない。もう少しここら辺を歩いたら家に帰っておじさんたちの雪かきを手伝うことにしようかな。
小川に沿って歩き、橋を渡って歩く。
歩いているとまた雪が降り始めた。空を見る。空には雲が覆っていた。
本格的に降り出す前に僕は少し行った原っぱで引き返すことに決めた。
原っぱはいつもなら背の低い草が生えていてそこで寝そべって空を眺めたりできるのだが、今は一面雪で見る影もない。
さて戻るか。そう思った時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「おい、どっかで見たことがあると思ったら親なしじゃん。」
振り向くと、いつもの出会いたくない三人の奴らが立っていた。
「今日は一人か。いつもツノ帽子と一緒にいるからセットだと思ってたぜ。」
「嫌われ者のセットだな。」
そう言って三人は僕を見下すように笑う。
関わりたくないから足早に去ろうとする。こういう奴らは相手にせず離れるのが一番だ。
「おいおい、待てよ。せっかく話してやってるのにさ。」
別に話してくれなんて頼んじゃいないと心の中で毒づく。無視してそのまま進もうとすると
「そういえばさっきのツノ帽子もこんな感じだったな。お前ら嫌われ者は揃って話を聞く耳が付いていないのか。そりゃ仕方ないよな。」
去ろうとした足を止める。どういうことだ、ツノ帽子もって。奴らはエメットに会ったのか。いや彼女は今、母親の病気のために付きっきりのはずだ。
疑問が頭の中を駆け巡る。そんな僕をよそに奴らはぺらぺらと話し続ける。
「大体、なんでツノ帽子はあんなところにいたんだろうな。」
「そうそう、森の入り口で立ち止まってさ。なにか言ってたな。『おかあさんのためだー』とか。」
「ちょうどよかったから後ろから雪玉を当ててやったら逃げるように森に入って行って。馬鹿だよな、この時期に森の中に入るなんて死にに行くようなもんだ。」
「しかも、この雪の中でだぜ。道もいつもと違うし足跡も消えるしで迷ってすぐ死ぬだろ。」
森の入り口に立ってた?なんのために。それで雪玉を当てて森の中に追いやった、なんで。この時期の森は危ないって知っているはずなのに。....わざとそうしたのか。自分でも感じたことのない怒りがふつふつと湧いてきているのがわかった。体温が上がる。
「それにしても馬鹿だよな。森に入るなんて。親に教わらなかったのかね。常識だぜ。」
「ほら、あいつの親病気じゃん。だからだろうな。」
「まあもう森に入ったからには助からないだろうな。いい気味だ。」
その言葉で僕の何かが弾けたような音がした。後ろを振り返って素早く近寄って一番手前のリーダー格の奴のコートの襟もとを両手で掴む。
「な、なんだよ。やる気か。」
あまりに急だったのと普段何もしない僕が食ってかかったので奴らは面食らったようだった。
「おい、ビリーを放せよ。」
掴まれていない後の二人が僕に怒鳴る。ビリーというのか、今掴んでいる奴の名前は。でもどうでもいい。
「彼女は、エメットはどこにいるんですか。」
頭に血が上って今までにないほど怒っているはずなのに、言葉遣いはいつも通りだった。
「はぁ?、なんでお前に教えないといけないんだよ。」
僕のいつも通りの話し方に調子を取り戻したのか、ビリーは襟もとを掴まれながらもへらへらと僕に話しかける。いつものように馬鹿にしているような態度だったが、強がっているようにも見えた。
襟もとを掴んでいる力を強める。他の二人は隣で固まっている。
「もっかい、聞きます。エメットはどこにいるんですか。」
なんとか抗おうと体をよじっているが僕はそれ以上の力で掴む。
「うぅ、さっき言っただろ。森に入っていったって。」
「どこからですか。」
「村の南西の入り口を出てちょっと行ったところの柵が途切れてるところだよ。わかったならもう離せよ!」
村の南西の入り口のところか。もう話す意味が無くなったので掴んでいた襟もとを突き飛ばすようにして離す。奴はその勢いで後ろに倒れ尻もちをついた。
「痛てーな。よくもやってくれたな。」
突き飛ばされても、奴らは僕に向かって何か話していたがもう用はない。僕は背を向けて走り出した。
「おい、待てよ。ぜってーに許さないからな。」
奴らの声はなおも後ろから聞こえていたが、その声は徐々に小さくなって聞こえなくなった。
ーーーーーーー
勢いに任せて走り出したが、僕の頭はいつも以上に働いていた。そのまま僕が森に入って行っても彼女を助けられず、そのまま死ぬのがオチだろう。だったらおじさんに相談するしかない。おじさんは村一番の狩人だ。強いし頼りになる。
そうと決まれば、いったん家に帰るしかない。いつも以上のスピードで走り帰路を急いだ。
家について勢いよくドアを開ける。
「おじさん、大変なんです。エメットが....」
そこまで言いかけて僕は家の中に誰もいないことに気付く。
家の中は静まり返っており、部屋中を見回ったがやはりおじさんもおばさんもいなかった。
そういえば、庭の雪かきをすると言っていたはず。急いで庭に出るが二人の姿はなく、中途半端に雪が端に寄せられていた。
どこに行ったんだ。家の中に戻る。
しばらくしてテーブルの上にさっき二人を探した時には気づかなかった小さなメモのようなものが置いてあることに気が付いた。
その紙を手に取る。紙には「ダニー、私たちは急な用事ができたから少し家を空けます。すぐ帰ってきます。」と書かれていた。こんな時に。
どうする?おじさんたちが帰ってくるのを待つか。いやいつ帰ってくるかわからない。もたもたしていると雪で足跡が消えてしまう。じゃあおじさんたちを探しに行ってこのことを伝えるべきか。そもそもどこに行ったのか分からないのに?
色々考えた後、僕は一つの答えを出した。
自分で助けに行くしかない。勿論無謀だということはわかっている。
僕にはおじさんのような戦う強さはないし、おばさんのように魔法は使えない。でも、だからってなにもしないのは嫌だ。
僕が動いて助かる可能性があるならば、そうしたい。唯一の友達を助けたい。
そうと決めたならすぐ向かおう。ただ何も持たずに森に入るわけにはいかない。
僕はおじさんの狩りの道具を引っ張り出してなにか役に立つ道具はないか探す。弓も剣も僕が持つには大きく、持ち運ぶにも適さない。
しばらく眺めた後、おじさんが獲物の解体で使っている小さなナイフを持っていくことにした。なにも持たないよりはましだろう。
それと、行く前におばさんが置いていったメモの裏に僕が今から森にエメットを助けに行くということを書いてテーブルに置いておく。
こうしておけば、おじさんが帰って来た時に助けに来てくれるだろう。
よし、行くか。覚悟を決めて家を出ようとした時、玄関の手前の棚の上におばさんの杖が置いてあるのが見えた。
あれからずっと魔法の練習をしているがおばさんのように魔法が使えたためしがない。でも....。
どうしようか悩んだ末に杖も持っていくことにした。魔法が使えないことはわかっていたが、これを持っていくとおばさんがそばにいてくれるようで安心できる気がしたからだ。
「行ってきます。」
出る前に誰もいない家に向かって声をかける。いつものように家を出る僕を背に玄関のドアは変わらない音を立てて閉まった。
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