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第一章 出会い編
15、私は回避します
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さて、どうしたものでしょう。目の前にあるお母様の部屋の扉を開くべきか、開かざるべきか。私に選択肢など存在しないのは重々承知していますが、それを理解した上で私はこの扉を開きたくないのです。今日あった出来事を報告しなくてはならない。報告したとき、お母様の反応は私にとって最上級に面倒なものでしょう。
多少なりとも会話が成立したからといって、オーラのことを意外と普通の人間だと思ってしまっていた私が愚かでした。ええ、愚かでした。なぜ家に帰ってきて早々、会いたくない三人に立て続けに会わなくてはならないのでしょう。先程までのいい気分が台無しですわ。
「お母様、ただいま帰りました。入ってもよろしいですか?」
「構わないわ、入りなさい」
私が背後のオーラを見ると、軽く会釈して向かいの壁まで下がりました。できれば一緒に部屋に入ってほしかったのですが、面倒事はお断りという無言の意思表示でしょうか。立場を考えれば、付いてきてなんて叶えられるわけもない要望なのはわかっていますが。
扉を開けると、ソファーに体重を預け、書類を眺めているお母様がいました。いなくても良かったのですが、そう上手くはいきませんわね。私が扉を開くまでの一瞬で、何かしらの現象が発生してお母様が消滅しているととても愉快な気分で自室に帰れたと思うのですが。
私を一瞥もしないお母様の機嫌を損ねないよう、優雅に見えるような所作をもって向かいのソファーに腰かけました。なんの書類かは分かりませんが、お父様の対応が間に合わなかった案件かなにかでしょう。下手に興味を持って意見を求められても厄介ですし、気にしていないように振る舞いましょう。
「……遅かったのね。ダンスの先生から、まだ帰ってきていないという報告を受けたわ。何をしていたのかしら?」
「誠に申し訳ありません。ですが、お母様にも納得していただける事情と、それに付随する朗報がございますわ」
「朗報? 何があったと言うの?」
「お母様はロデウロの第二王子をご存知ですか?」
少しだけお母様の眉が動きました。十歳の娘が持ち帰ってくる朗報など大したものではないと考えていたのでしょうけれど、彼が私に持たせてくれたお土産は、そんな侮りを簡単に覆せるだけの価値を持っています。
今思えば、恐らくシユウ様はお母様がどういう性格かも知っていたのでしょう。まあそうでなければ、私に求婚、つまり遠回しに、家族を捨てろなどとは言いませんわね。私がそれに躊躇なく頷くことを理解していたからこその誘いだったということですか。
「ロデウロ第二王子……、シユウ・ヒストル・フルランダム様、だったと記憶しているわ。確か、本日より貴女の通っている学園に留学してくると通達が届いていた……、けれど?」
「ええ。そのシユウ様に、お声を掛けていただきました。少し話す時間はないかと。とても聡明な方で、つい時間を忘れて話し込んでしまったのです」
「……つまり、他国の王子と友好な関係を築いた、と解釈していいのかしら?」
「はい、とても。また話したいとまで言われてしまいましたわ」
「──凄いじゃない! 流石はアンナだわ!」
難しい顔をしていたお母様の表情はまさに喜色満面といった様子に変化し、手に持っていた書類は投げ捨てられました。まあ、他国の王族との繋がりが出来たという朗報に比べれば、大抵の問題はどうでもよくなるでしょうが。しかもお母様は特にそれが顕著です。
お母様は簡単に言って、フォーマットハーフ家を優先順位の一番上に置いているのです。だからこそ、私に持ち込まれた第一王子との縁談を一も二もなく快諾し、お父様の数倍以上の執務をこなしているのです。優秀さで言えば確かにそれが正しい形なのでしょうが、歪んではいます。
「挨拶はしておきなさいと言ってはいたけれど、まさか当日に繋がりを作るなんて! なんて偉い子なのかしら! それで、シユウ様とは何を話したのかしら?」
「申し訳ありません。シユウ様から、他言無用だと強く言いつけられているので、たとえお母様でもお教えすることはできません。誰かに話したことが伝われば、七か国の取り決めに則って罪に問うとのことです」
「……そう、それでは聞き出せないわね。まあ問題はないわ。話の内容ではなく、二度目が約束されるほどに親しくなったという事実が重要なのだから」
シーツァリアとロデウロの交易の現状について話したなどとは言えませんわね。お母様はその歪さに気付いていますから、詳細を強引に聞き出そうとしてくる可能性があります。まあそれはそれで願ったり叶ったりと言えなくもないですが、下手にシユウ様の知っている未来から乖離するのは望ましくないですわ。
未来は簡単に変わってしまうというのは、『未来視』の能力について記してある本の多くに記載してあります。確定した未来など存在しない。私の処刑も、まだ逃れられることが確定したわけではない。
「よくやったわね。また何か、シユウ様と進展があったら報告してちょうだい」
「はい。それでは失礼します」
本来のお母様の用事を曖昧に回避することに成功しましたわ。そのまま永遠に浮かれててくださいませ。
多少なりとも会話が成立したからといって、オーラのことを意外と普通の人間だと思ってしまっていた私が愚かでした。ええ、愚かでした。なぜ家に帰ってきて早々、会いたくない三人に立て続けに会わなくてはならないのでしょう。先程までのいい気分が台無しですわ。
「お母様、ただいま帰りました。入ってもよろしいですか?」
「構わないわ、入りなさい」
私が背後のオーラを見ると、軽く会釈して向かいの壁まで下がりました。できれば一緒に部屋に入ってほしかったのですが、面倒事はお断りという無言の意思表示でしょうか。立場を考えれば、付いてきてなんて叶えられるわけもない要望なのはわかっていますが。
扉を開けると、ソファーに体重を預け、書類を眺めているお母様がいました。いなくても良かったのですが、そう上手くはいきませんわね。私が扉を開くまでの一瞬で、何かしらの現象が発生してお母様が消滅しているととても愉快な気分で自室に帰れたと思うのですが。
私を一瞥もしないお母様の機嫌を損ねないよう、優雅に見えるような所作をもって向かいのソファーに腰かけました。なんの書類かは分かりませんが、お父様の対応が間に合わなかった案件かなにかでしょう。下手に興味を持って意見を求められても厄介ですし、気にしていないように振る舞いましょう。
「……遅かったのね。ダンスの先生から、まだ帰ってきていないという報告を受けたわ。何をしていたのかしら?」
「誠に申し訳ありません。ですが、お母様にも納得していただける事情と、それに付随する朗報がございますわ」
「朗報? 何があったと言うの?」
「お母様はロデウロの第二王子をご存知ですか?」
少しだけお母様の眉が動きました。十歳の娘が持ち帰ってくる朗報など大したものではないと考えていたのでしょうけれど、彼が私に持たせてくれたお土産は、そんな侮りを簡単に覆せるだけの価値を持っています。
今思えば、恐らくシユウ様はお母様がどういう性格かも知っていたのでしょう。まあそうでなければ、私に求婚、つまり遠回しに、家族を捨てろなどとは言いませんわね。私がそれに躊躇なく頷くことを理解していたからこその誘いだったということですか。
「ロデウロ第二王子……、シユウ・ヒストル・フルランダム様、だったと記憶しているわ。確か、本日より貴女の通っている学園に留学してくると通達が届いていた……、けれど?」
「ええ。そのシユウ様に、お声を掛けていただきました。少し話す時間はないかと。とても聡明な方で、つい時間を忘れて話し込んでしまったのです」
「……つまり、他国の王子と友好な関係を築いた、と解釈していいのかしら?」
「はい、とても。また話したいとまで言われてしまいましたわ」
「──凄いじゃない! 流石はアンナだわ!」
難しい顔をしていたお母様の表情はまさに喜色満面といった様子に変化し、手に持っていた書類は投げ捨てられました。まあ、他国の王族との繋がりが出来たという朗報に比べれば、大抵の問題はどうでもよくなるでしょうが。しかもお母様は特にそれが顕著です。
お母様は簡単に言って、フォーマットハーフ家を優先順位の一番上に置いているのです。だからこそ、私に持ち込まれた第一王子との縁談を一も二もなく快諾し、お父様の数倍以上の執務をこなしているのです。優秀さで言えば確かにそれが正しい形なのでしょうが、歪んではいます。
「挨拶はしておきなさいと言ってはいたけれど、まさか当日に繋がりを作るなんて! なんて偉い子なのかしら! それで、シユウ様とは何を話したのかしら?」
「申し訳ありません。シユウ様から、他言無用だと強く言いつけられているので、たとえお母様でもお教えすることはできません。誰かに話したことが伝われば、七か国の取り決めに則って罪に問うとのことです」
「……そう、それでは聞き出せないわね。まあ問題はないわ。話の内容ではなく、二度目が約束されるほどに親しくなったという事実が重要なのだから」
シーツァリアとロデウロの交易の現状について話したなどとは言えませんわね。お母様はその歪さに気付いていますから、詳細を強引に聞き出そうとしてくる可能性があります。まあそれはそれで願ったり叶ったりと言えなくもないですが、下手にシユウ様の知っている未来から乖離するのは望ましくないですわ。
未来は簡単に変わってしまうというのは、『未来視』の能力について記してある本の多くに記載してあります。確定した未来など存在しない。私の処刑も、まだ逃れられることが確定したわけではない。
「よくやったわね。また何か、シユウ様と進展があったら報告してちょうだい」
「はい。それでは失礼します」
本来のお母様の用事を曖昧に回避することに成功しましたわ。そのまま永遠に浮かれててくださいませ。
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