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ラジトバウム編
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しおりを挟む賞金は稼げるとはいえ、リスクもある。
エンシェントルールにも慣れてきて俺自身が傷を負うことは少なくなってきた。それでも使うたびにカードへのダメージは蓄積していく。
ハイロいわく、カードに致命的なダメージがあると、『カードが破(やぶ)れる』という現象が起きるらしい。カードがオドの力を失うのだそうだ。
破れると立体映像を出す力は無くなり、エンシェントではもちろん、ヴァーサスの公式戦でも使えなくなるのだという。
せっかく手に入れたカードなのに、もし破られれば価値がなくなってしまう。
それにカードが輝きを失ったようで、なんだか悲しい。
思い出すのはボルテンスとの一戦だ。最後、審官の攻撃が相手の『裏世界の掃除屋』というカードに当たった。すぐに勝負はついたがあの時、『裏世界の掃除屋』は消滅していった。
あれが『破れる』という現象なのだろう。
自分がそうならないようにと、俺は決意を新たにする。
もっと強くならないとダメだ。誰にも負けないくらい……
今日の自分の試合はすべて終わったので、マールシュの試合を観戦しにいくことにした。
敵情視察(てきじょうしさつ)といったところだ。マールシュは前回大会の優勝者だったらしく、町中のいたるところにマールシュの姿を写した垂れ幕がかかっていたり、会場前でマールシュの写真をヴァーサスのカードのようにデザインしたものが売られていたりと、ものすごい人気ぶりだった。
観客席にハイロの姿を見つけ、俺は駆け寄る。真剣な目で試合に集中しており、すぐには俺のことにも気がつかなかったようだ。
ハイロがこちらを向いたとともに、会場に大きな歓声が沸き起こった。舞台のほうをみると、マールシュの対戦相手が地に手をつきうなだれていた。
俺が着いた時点でちょうど勝負も終わってしまったらしい。会場は熱気と多くの人で満ちており、俺の試合のときとはまるで雰囲気がちがっていた。
「どうだった、マールシュは?」
「圧勝でした。3分で終わりましたよ……たぶん、実力の半分も出していないでしょう」
淡々とした調子で言うハイロ。ふだんは温厚だが、カードのことになると本当に人が変わったようだ。
「ハイロなら勝てそうか?」
俺の問いに、ハイロはマールシュのほうを向いたまま黙りこくってなにか考え事をはじめてしまった。
「そんなにすごいワヌか、彼女?」
「……天才ヴァルフとして名が通っています。冒険士としての仕事があるためあまり公式試合には出てこないのですが、プロのトップレベルにも通用すると言われています」
トップレベル……! そう聞いて、俺はわずかに自分が緊張したのがわかった。
「なんでも、16歳のときから王都(おうと)の護衛部隊(ごえいぶたい)の副隊長をやっていたとか。……ちょっと現実ばなれしていますよね」
そう言われてもすごいのかどうか俺にはわからず、苦笑いをするしかなかった。
だが逆を返せば、マールシュが簡単に勝てる精霊杯はトップレベルの大会ではない、ということか。
さすがにローグほどではないだろうが、ハイロもここにいるということは短時間で試合を片付けてきたということだ。この二人をのぞいて、他の出場者のレベルはそこまで高くはないのだろう。
この世界の金銭感覚に慣れているわけではないが、賞金の額を考えるにエンシェントは一大行事(いちだいぎょうじ)だ。俺の故郷じゃ、まだ競技としてのカードゲームはややマイナーなジャンルだったのにな。
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