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ラジトバウム編
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しおりを挟む気づけば、カードショップに立ち寄り、看板を前にしていた。
ああ、なにやってんだ俺は!?
嫌なことがあるとカードショップに寄る、昔からの悪い癖だ。なんでこんな時に。
窓からあのギャル店員さんと目があってしまい、こちらを見つけるとおもしろいおもちゃを見つけた子供のようにこちらにツツと駆け寄ってきた。
「エイトちんじゃ~ん! ちょり~っす!」
挨拶を返す気にもなれず、俺はただ地面に目線を落とす。店員さんに、「まあ入って入って!」と後ろに回り込まれて背中を押され、店内に足を踏み入れる。
「ベスト4鬼すごくね!? ていうかウワサで聞いたよ~ローグっちと結闘するんだってね!?」
ウワサのアシが早いな。田舎かここは。
まあカードゲーマーはカードの新しい情報を常にチェックする生き物だから、そういうところなのかもな。
情報収集することが酸素みたいになっていて、しないと死ぬからな、俺たちは。
「……まあ……」
「弱気じゃん!? ま~たしかにローグっちは強いケド~エイトちんにもワンチャンあるっしょ!」
「ワンチャンないっすよ……相手はマールシュですよ?」
「だいじょうぶだいじょうぶ、KNS(かのうせい)あるよ~。勝負は最後まで、わからない! みたいな~」
彼女はキャハハと楽しそうに笑っている。俺はまともに返事をかえす気分にさえなれなかった。
「弱気なこと言っちゃってるけど、今日は作戦練りにきたんでしょ~? よっ。カードゲーマーだね。いいカード仕入れてますぜ、旦那」
「ハッ……」
このときはおもわず、苦笑がこぼれてしまった。
いいカード? 強いカードだとか、弱いカードだとか、そんな問題じゃない。
物理的なイミで強すぎるんだよ、あいつは。
純粋なカードゲーマーとしての、戦略や駆け引きの部分では、互角にやれるかもしれない。
だけどエンシェント式で大事になってくる体術や剣術であいつと俺じゃ天と地ほどの差がある。
「エイトちん、アタシが前にいったことおぼえてる?」
「え? ……えっと」
「どんな弱いカードにも意味はある……。エイトちんの試合見たよ。技術的なことはアタシ詳しくないんだけどさ、エイトちんがカードを大切にしてるのはなんとなくわかったよ」
カードを大切に……? 俺が?
「だけど試合をあきらめてたら、どんなカードだって本当の魔法の力を引き出せないよ。それは、カードだけじゃなくて、エイトちん自身にも言えることだと思うよ」
「…………」
「なんちてなんちて。ガハハ~ってね。なんかいまのアタシちょーかっこよくね? 名言じゃね?」
弱いカードにも、魔法の力が……?
この圧倒的な実力差を埋める、いやひっくり返すほどの力が、カードにも、そして俺自身もあるかもしれないっていうのか。
でも、そうだった。俺はローグを恐れて、負けることを恐れてカードの力を信じてやれていなかった。
このショウウィンドウに並べられたカードひとつひとつに、力がある。
それぞれ違う役割があって、豊かな個性を活かせば、弱いカードが強いカードを倒す事だってある。
カードゲームは強いカードだけを集めれば勝てるものじゃない。色んな個性を組み合わせて、それをプレイヤーがうまくまとめあげチームとして相手を打ち負かすんだ。
あいつと俺の差を埋めるほどの個性を集めることができれば……勝機はある。
だがどうすれば……
個性……あいつと俺の違い……
個性……カードの個性……か。
どうしてだろう。カードを信じることなんて、バカげたことだって思ってた。
だけど、俺がいま穏やかな生活ができているのは、こいつらが一緒に戦ってきてくれたおかげだ。
俺も信じたい。フォッシャが俺を信じてくれたように、こいつらのことを。
こいつらの力を。
「……俺、もうすこし粘ってみます」
「え? なんかいいカード見つけちゃった?」
俺は心を決め、足早に店を飛び出した。逃げるためじゃない、立ち向かうために。
「ええっ!? 買ってかないのォ!?」
「またすぐに戻ってくる! ありがとうギャルのお姉さん!」
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時間がない。あしたのマールシュとの一戦まで、できる限り作戦を練らないと。
俺がまず向かったのは、武具屋だった。
「やあ久しぶりだね。大会で活躍したそうじゃないか。僕も鼻が高いよ」
「どうも。今日はいい武器が入ってないかと思って」
「新しいのを試すのかい?」
「はい、まあ。あした大事な一戦があって」
「武具屋としては買ってくれるのは嬉しいけど、大事な一戦ならふだんから使い慣れたもののほうがよくないかい……?」
「……相手はローグなんです」
「……ああ~……ローグくんか。なるほど、彼女のウワサも聞いているよ」
「……あいつに対してこの剣では、木の棒で戦うようなものです。失礼な言い方ですが……打ち合ったらこれは、一撃で木っ端微塵にされてしまうと思います」
「そうだね……いやその通りだ。ちょっと剣を見せてもらってもいいかな」
俺は鞘ごと剣を取り外し、ロン毛店主に手渡す。
ロン毛店主は剣をまじまじと見て、
「フム、よくここまで使い込んだね。それになんだか君自身、たくましくなったようにも見える」
俺に「ちょっと待っていなさい」と言い、しばらく奥にひっこんだあと、店主は小さなアタッシュケースを運んできた。
机のうえでケースの中を開いて見せてくれる。なかには、1枚のカードが入っていた。
「これはどうかな」
「カード……?」
名前のところには、ソードオブカードと書かれている。
「ウェポンカード。つまりそれは、『カードのツルギ』」
「聞いた話ではローグくんもウェポンカードを使うそうだ。そのカードなら、そうそう簡単には壊れないだろう」
「買います。これ。今日は時間がないので、お釣りはまた今度きたときに」
俺は迷わず即決した。手持ちのありったけのオペンを置いて、ひったくるようにしてカードを持って去る。
「あ、まだ話が……! ひとつだけウェポンカードにはあるデ……」
店主が後ろからなにか声をかけてきたが、俺は気にも留めずに一心不乱に走った。
町を駆け回ってフォッシャたちを探すが、すぐに見当たるはずもなく。
最後に向かったのは、研究室だった。
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俺が扉をあけると、フォッシャとハイロがそこにいてくれた。
汗だくの俺をみて、驚いた表情をふたりとも浮かべている。
「さっきはその……」
俺が言いかけたところで、フォッシャが口をはさんできた。
「さっき? ハイロ、さっきなにかあったワヌか?」
ハイロはすこし首を傾げたが、合点(がてん)がいったという表情になり微笑んで、
「……いえ? 別になにもありませんでしたね。……あ、そうそう、ローグさんとエイトさんが、戦うんでしたっけ」
「そうワヌよね、エイト?」
わざとらしい小芝居を打って、俺のほうを見てくる二人。
ひとつしか答えは認めない、って顔だな。
俺も、言うべきことはわかってる。カードゲーマーとして、言うべきだったことが。
「ハイロ、フォッシャ。マールシュに勝つ方法を一緒に考えてくれ」
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