51 / 169
ラジトバウム編
34
しおりを挟む気づけば、カードショップに立ち寄り、看板を前にしていた。
ああ、なにやってんだ俺は!?
嫌なことがあるとカードショップに寄る、昔からの悪い癖だ。なんでこんな時に。
窓からあのギャル店員さんと目があってしまい、こちらを見つけるとおもしろいおもちゃを見つけた子供のようにこちらにツツと駆け寄ってきた。
「エイトちんじゃ~ん! ちょり~っす!」
挨拶を返す気にもなれず、俺はただ地面に目線を落とす。店員さんに、「まあ入って入って!」と後ろに回り込まれて背中を押され、店内に足を踏み入れる。
「ベスト4鬼すごくね!? ていうかウワサで聞いたよ~ローグっちと結闘するんだってね!?」
ウワサのアシが早いな。田舎かここは。
まあカードゲーマーはカードの新しい情報を常にチェックする生き物だから、そういうところなのかもな。
情報収集することが酸素みたいになっていて、しないと死ぬからな、俺たちは。
「……まあ……」
「弱気じゃん!? ま~たしかにローグっちは強いケド~エイトちんにもワンチャンあるっしょ!」
「ワンチャンないっすよ……相手はマールシュですよ?」
「だいじょうぶだいじょうぶ、KNS(かのうせい)あるよ~。勝負は最後まで、わからない! みたいな~」
彼女はキャハハと楽しそうに笑っている。俺はまともに返事をかえす気分にさえなれなかった。
「弱気なこと言っちゃってるけど、今日は作戦練りにきたんでしょ~? よっ。カードゲーマーだね。いいカード仕入れてますぜ、旦那」
「ハッ……」
このときはおもわず、苦笑がこぼれてしまった。
いいカード? 強いカードだとか、弱いカードだとか、そんな問題じゃない。
物理的なイミで強すぎるんだよ、あいつは。
純粋なカードゲーマーとしての、戦略や駆け引きの部分では、互角にやれるかもしれない。
だけどエンシェント式で大事になってくる体術や剣術であいつと俺じゃ天と地ほどの差がある。
「エイトちん、アタシが前にいったことおぼえてる?」
「え? ……えっと」
「どんな弱いカードにも意味はある……。エイトちんの試合見たよ。技術的なことはアタシ詳しくないんだけどさ、エイトちんがカードを大切にしてるのはなんとなくわかったよ」
カードを大切に……? 俺が?
「だけど試合をあきらめてたら、どんなカードだって本当の魔法の力を引き出せないよ。それは、カードだけじゃなくて、エイトちん自身にも言えることだと思うよ」
「…………」
「なんちてなんちて。ガハハ~ってね。なんかいまのアタシちょーかっこよくね? 名言じゃね?」
弱いカードにも、魔法の力が……?
この圧倒的な実力差を埋める、いやひっくり返すほどの力が、カードにも、そして俺自身もあるかもしれないっていうのか。
でも、そうだった。俺はローグを恐れて、負けることを恐れてカードの力を信じてやれていなかった。
このショウウィンドウに並べられたカードひとつひとつに、力がある。
それぞれ違う役割があって、豊かな個性を活かせば、弱いカードが強いカードを倒す事だってある。
カードゲームは強いカードだけを集めれば勝てるものじゃない。色んな個性を組み合わせて、それをプレイヤーがうまくまとめあげチームとして相手を打ち負かすんだ。
あいつと俺の差を埋めるほどの個性を集めることができれば……勝機はある。
だがどうすれば……
個性……あいつと俺の違い……
個性……カードの個性……か。
どうしてだろう。カードを信じることなんて、バカげたことだって思ってた。
だけど、俺がいま穏やかな生活ができているのは、こいつらが一緒に戦ってきてくれたおかげだ。
俺も信じたい。フォッシャが俺を信じてくれたように、こいつらのことを。
こいつらの力を。
「……俺、もうすこし粘ってみます」
「え? なんかいいカード見つけちゃった?」
俺は心を決め、足早に店を飛び出した。逃げるためじゃない、立ち向かうために。
「ええっ!? 買ってかないのォ!?」
「またすぐに戻ってくる! ありがとうギャルのお姉さん!」
--------------
時間がない。あしたのマールシュとの一戦まで、できる限り作戦を練らないと。
俺がまず向かったのは、武具屋だった。
「やあ久しぶりだね。大会で活躍したそうじゃないか。僕も鼻が高いよ」
「どうも。今日はいい武器が入ってないかと思って」
「新しいのを試すのかい?」
「はい、まあ。あした大事な一戦があって」
「武具屋としては買ってくれるのは嬉しいけど、大事な一戦ならふだんから使い慣れたもののほうがよくないかい……?」
「……相手はローグなんです」
「……ああ~……ローグくんか。なるほど、彼女のウワサも聞いているよ」
「……あいつに対してこの剣では、木の棒で戦うようなものです。失礼な言い方ですが……打ち合ったらこれは、一撃で木っ端微塵にされてしまうと思います」
「そうだね……いやその通りだ。ちょっと剣を見せてもらってもいいかな」
俺は鞘ごと剣を取り外し、ロン毛店主に手渡す。
ロン毛店主は剣をまじまじと見て、
「フム、よくここまで使い込んだね。それになんだか君自身、たくましくなったようにも見える」
俺に「ちょっと待っていなさい」と言い、しばらく奥にひっこんだあと、店主は小さなアタッシュケースを運んできた。
机のうえでケースの中を開いて見せてくれる。なかには、1枚のカードが入っていた。
「これはどうかな」
「カード……?」
名前のところには、ソードオブカードと書かれている。
「ウェポンカード。つまりそれは、『カードのツルギ』」
「聞いた話ではローグくんもウェポンカードを使うそうだ。そのカードなら、そうそう簡単には壊れないだろう」
「買います。これ。今日は時間がないので、お釣りはまた今度きたときに」
俺は迷わず即決した。手持ちのありったけのオペンを置いて、ひったくるようにしてカードを持って去る。
「あ、まだ話が……! ひとつだけウェポンカードにはあるデ……」
店主が後ろからなにか声をかけてきたが、俺は気にも留めずに一心不乱に走った。
町を駆け回ってフォッシャたちを探すが、すぐに見当たるはずもなく。
最後に向かったのは、研究室だった。
-----
俺が扉をあけると、フォッシャとハイロがそこにいてくれた。
汗だくの俺をみて、驚いた表情をふたりとも浮かべている。
「さっきはその……」
俺が言いかけたところで、フォッシャが口をはさんできた。
「さっき? ハイロ、さっきなにかあったワヌか?」
ハイロはすこし首を傾げたが、合点(がてん)がいったという表情になり微笑んで、
「……いえ? 別になにもありませんでしたね。……あ、そうそう、ローグさんとエイトさんが、戦うんでしたっけ」
「そうワヌよね、エイト?」
わざとらしい小芝居を打って、俺のほうを見てくる二人。
ひとつしか答えは認めない、って顔だな。
俺も、言うべきことはわかってる。カードゲーマーとして、言うべきだったことが。
「ハイロ、フォッシャ。マールシュに勝つ方法を一緒に考えてくれ」
0
あなたにおすすめの小説
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め
イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。
孤独になった勇者。
人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。
ベストな組み合わせだった。
たまに来る行商人が、唯一の接点だった。
言葉は少なく、距離はここちよかった。
でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。
それが、すべての始まりだった。
若者が来た。
食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。
断っても、また来る。
石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。
優しさは、静けさを壊す。
逃げても、追いつかれる。
それでも、ほんの少しだけ、
誰かと生きたいと思ってしまう。
これは、癒しに耐える者の物語。
***
登場人物の紹介
■ アセル
元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。
■ アーサー
初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。
■ トリス
若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる