カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
54 / 169
ラジトバウム編

36

しおりを挟む
 カード勝負に持ち込めば俺にもわずかに勝機はあると思ったのだが、ローグのデッキ構成、プレイング共に手堅く隙がない。
 特にあの毒ヘドロ・ガイとスケルトン・スターが、うらやましいくらい厄介だ。 

 ハイロ戦では吸血鬼少女をメインに、複数のトリックカードで一気に相手を押しつぶす狙いだったはず。だが今回はやり方をすこし変えてきた。

 耐久力のあるカードを揃えて、じわじわとこちらの体力を削っていく作戦か。
 その上よくカードの性能を理解し、戦術として考え込まれている。

 テネレモの防御力を警戒して長期戦をとりつつ、耐久カードで審官の攻撃もいなしていく。といったところか。
 このままじゃ俺のほうはイタズラにオドコストを消費して、最後はマールシュの怪力につぶされるだけだ。
 やはり相手も相当なカードゲーマー。これは厳しいな……

 そうこうしている間にも、マールシュはまた黒い霧になり姿を隠す。
 俺は氷の魔女の元へと急いで向かう。もう戦形がどうのとは言っていられない、ここは防御に徹する。

 俺の切り札、宿命の魔審官はまだこない。
 カードを使うと、5秒ごとに手札はデッキからランダムに補填され、なにもせずとも10秒ごとには手札は増えていく。

 なんとか手札に審官が加わるまで耐えないと。
 ――新技のお披露目といくか。
 時間をかせぎつつ手札を補填させるには、この手だ。

 氷の魔女のところへはまだ微妙に距離がある。その上テネレモは足が遅いので、俺はいったん剣をしまってこいつを抱えて全力で走った。

 マールシュはまた氷の魔女を狙うつもりか、あるいは俺か。来い。どっちでも対応してやる。

 氷の魔女はすぐには復帰できなかったようで、ふらふらと立ち上がる。このままあいつを狙われたら回避も間に合わないだろう。
 俺はテネレモを彼女の方にブン投げ、無理やり防御を固めた。

 同時に背後からマールシュの嘲笑うような声がした。

「安易ね。拍子抜けだわぁ」

 俺もまた、笑みを浮かべた。

「そいつはどうかな!」

 振り向きざま、カードを引き放つ。マールシュの剣撃を【ソードオブカード】が受け止めた。かなりの衝撃だったが、この特殊な剣がマールシュの怪力を無効化してくれた。
 実は自分の手首のスナップや、頑丈さには自信がある。剣技はまったく知らないが今日まで冒険士としてなんとかやってこれたのは、カードゲームで山札から何万回もカードを引いてきた賜物なのだ。
 マールシュの顔が数十cmというところにある。さすがに驚いたという表情をしており、俺は余裕がないながらもほくそ笑んだ。

「さらにもう1枚!」

 俺は両手で剣を持ったまま指でカードを出す。
 肉体強化魔法【セルジャック】のおかげで、自身の反応速度、スピードとも大幅に上昇し、一撃二撃三撃と繰り出されるマールシュの連撃を俺は剣で合わせて捌(さば)き切ってみせた。
 それでも押されていたが、こうしていなければマールシュの攻撃で死んでいた可能性もあることも考えれば、全く充分だ。

 すぐにアクスティウスが加勢にくわわってくれ、俺はいったんひいて間合いをとる。
 【クロス・カウンター】のカードが手元になかったのが悔やまれる。あれば今の交差でマールシュにダメージを与えられたのだが。

 そしてようやく待っていたものがきた。俺はドローしたカードを地面に叩き伏せる。
 宿命の魔審官を召喚。さらに氷の魔女とテネレモの元へ行き、態勢をととのえる。

 マールシュはまたも霧に消えた。だが一瞬宿命の魔審官のスキル【反逆の双弾丸】の速度が上回り、攻撃が刺さった。
 次に彼女が自分のカードたちの後方に姿をあらわしたときには、肩のあたりを抑え、してやられたという表情をしていた。

「その戦形……考えたわね」

 俺はあえて宿命の魔審官を後方に置き、テネレモと氷の魔女、アクスティウスで前衛を固めている。

「これならあんたがどこに現れても対応できる。……形勢逆転だ」

 俺は胸の前で、カードをかまえる。
 マールシュといえど宿命の魔審官にはそう簡単に手を出せないはずだ。
 この陣形こそハイロとフォッシャと一緒に考えて編み出したマールシュ対策。やつがいくら俺の背後をとろうが、宿命の魔審官が対応してくれる。
 さらに宿命の魔審官の銃は自動で動くため、その背後を取られる心配はない。

 あえて切り札を守りと遠距離支援に使う戦術。こちらに分がある、とまで断言はできないが、完全にあの忍法霧がくれみたいなカードの効力は封じられたわけだ。
 強力なカードほどオドコストはかかる。やつにとって霧がくれが封じられたのは痛手のはずだ。

「そのカードを出されたからには、一気に流れも変わった。私といえど、それを相手にするには手を焼きそうだわぁ」

「……ああ。俺の切り札だからな」

「そのようね。……でも。時として、切り札がただの紙切れになり、なんてことはないはずの雑魚カードが勝因になることもある。それがカードゲームよねぇ」

 マールシュは手札から一気に3枚のカードを出してきた。
 勝負を決めるつもりか。
 彼女はささやくように優雅に、

「月明かりが影をとらえ。カードがあなたの本性を映し出す」

 相手が使ってきたのは【月光(げっこう)】、【廃墟にひそむ怨念】、【呪いの火の玉】3枚のカードだった。名称は知っているが、それぞれの効果までは思い出せない。
 すぐには異変に気づかなかったが、だんだんと辺りが暗くなっていき、嫌な予感が強まった。
 振り向くと、宿命の魔審官の体におびただしい数の火の玉がまとわりついており、身動きが封じられていた。

「なっ……!」

 状況が飲み込めず、そんな声しか出なかった。何もないところから黒い棺が出現し、宿命の魔審官はその中へと閉じ込められてしまう。
 棺が消え、今度は俺とマールシュの間にものものしい古びた家が出現した。ボロい扉がこちらから見える。

 ――このカードは……! ユニオンスキル!!

 ハイロが言っていたのを思い出した。死霊系のデッキの使い手が使ってくる可能性のある、警戒すべきコンビネーション。
 数枚のカードを組み合わせて発動するユニオンスキル。そのうちのひとつ、【辺境のお化け屋敷<ホーンテッドハウス>】か!

 たしか……自分の全ウォリアーの攻撃力が500低下する代わりに相手のカード一枚を2ターン封じる。そんな効果だったような。

 嘘だろ!? 審官が使えなくなったら、もう俺に勝ち目は残ってない。
 クッ……! こいつ、最初からこれを狙っていたのか! 

 エンシェント式の場合だと、どれだけの時間封じられているんだ。わからない。そのあいだ粘(ねば)れるのか、俺は。

 マールシュはすぐに攻めてくるのかと思ったが、そうではなかった。
 【辺境のお化け屋敷<ホーンテッドハウス>】の建物のなかへと、ウォリアーカードたちと一緒に壁を抜けて消えていったのである。

 どういうことだ……!?

 観客もどよめいている。というかこれじゃあ、こっちからなにも手出しができない。こんなのアリなのかよ。
 手出し……まさか!

 あいつ建物のなかで、確実に審官を破っておく気か。

 どうする……。あの扉の向こうになにがあるのか全くわからない。だがこのままじっとしていれば審官を失い、勝負も絶望的だ。
 だが逆に考えれば。マールシュはこれだけのトリックを発動するのにオドのほとんどを消費したはずだ。ここを乗り越えれば勝利は約束されたも同然。

 迷ってる場合じゃない。……行くしかない。

 アクスティウスを先行させ、斧で扉をぶち破る。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...