カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
91 / 169
王総御前試合編

19

しおりを挟む

 部屋のなかを探していると、館の地図を手にいれた。
 それに沿って移動している途中、またアグニオンに出くわす。現在GMからの情報によれば機関勢力が進行度ではリードしているようだ。急がなきゃな。

 さきほど資料室でハイロが魔法カードを見つけていた。彼女が使ってみたところおもいのほか強力で、アグニオンを簡単にあと少しで倒せるところまで追い詰めた。この戦闘も楽に終わりそうだ。

 残念なことにイベントの戦闘では全く役に立たないのでじっとしている俺に、なぜか横から光の粒の群のような魔法攻撃が飛んできた。たまたま外れたが、飛んできた方向をみるとミジルがいた。

「おまえ今わざと俺に攻撃当てようとしただろ!?」

「さぁ。勝手にそうなっちゃったんじゃん?」

「……なあ、俺を認めないのはいいけど、やけにカードゲームを毛嫌いしてるのはなんなんだ?」

「は? なんでそんなことあんたに言わなくちゃなんないわけ?」

 こ、こいつ腹立つな。こいつと一緒にいると俺のなかの女の子のイメージが崩壊していきやがる。
 しかしこらえるんだ俺。おちつけ。ここでプレイングをミスったらケンカになってしまう。

「ハイロは本気でカードを――」

「うっさいのよこのバカードゲーマー!」

 俺が言い終わる前に、俺の言葉などききたくもないという風に罵倒を浴びせてくるミジル。
 ハイロがみかねて、

「口は災いの元ですよ、ミジル」

「ちょっ、みんな、ゲーム中ワヌ!?」

 戦闘そっちのけでムードが悪くなる。しまった、余計にミジルを怒らせてしまったか。まだ説得は早かったらしい。やはりコミュニケーションというやつはカードゲームみたいにうまくはいかないか。

 ミジルは声を荒げ、拳を握り締めていった。

「カードなんて大っきらい……カードなんてただのチマチマした暗いあそびじゃん」

 おま!? なんてことを……!?

 ミジルの言い方は冗談などではなく、かなり怨念のこもっているような様子だった。
 おそるおそる後ろを振り返ると、ハイロがだまってうつむいていた。無表情にみえるが落ち込んでいるのではなく、沸き起こる怒りを無理やりおさえているかのようだった。

「あっ、ハイロ……」

 ミジルもそれを察したか不安げな声を出すが、ハイロは淡々と身をひるがえし「いきましょうエイトさん」とふだんどおりの調子で言った。だがこんな状況だからこそ、いつもどおりの声というのがより恐ろしく感じる。

「なにマジになってんの? ねーもう無視しないでよ……」

 ミジルがそうやって反省の色をみせても、ハイロは全く意に介さない。いよいよ最悪な雰囲気になってきた。
 うわぁ、うわわぁ……! どうすんだこれ、姉妹ゲンカしにここにきたわけじゃないぞ。

 その後もミジルはハイロの周りをうろついて話しかけていたのだが、ハイロは反応するそぶりさえ見せなかった。
 ハイロは気心しれた妹相手とはいえ、決して無視をするような冷たい人間じゃない。妹だからこそあれだけ怒っているのか。今ここいる人間は、それぞれ形は微妙に異なるとはいえカードになんらかのかかわりのある者ばかりだ。それを前にしてあの発言をした妹に、姉として怒っているんだろう。

 俺にも責任の一端がある。カードが苦手な人だってそりゃいるさ。なのにムキになってしまった。なにか良い方向に持っていこうとしたことが裏目にでてしまった。もっとうまく話せていれば。
 そんなことを考えているとフォッシャがトコトコと近づいてきて、

「エイト、なんだか嫌な予感がするワヌ」

「そんなもん見ればわかる。どうにか仲直りしてほしいけどな……」

「いや、そうじゃなくて……」

「ちょっと話をしてみるよ」

 俺たちの最後尾にいる、ばつのわるそうな表情をうかべているミジルに、話しかけようとした時だった。

「なぁ、ミ……」

 ミシ、というような静かな音がした。一瞬、何が起きたかわからなかったが、床が抜けて落下し、視界が暗闇へと移っていく。ミジルがやったのではない。落ちる寸前向かい合ったときの驚愕の表情がそれをものがたっていた。

 すぐに底はみえた。だがこのまま床に激突したら体を痛めるおそれがある。俺は『ポッピンスライム』という魔法を使い、下に緑色の大きなボールを出現させそこめがけて落ち、直撃はまぬがれる。
 反動で宙にバウンドして跳ね上がったあと、受身をとろうとしたが床が暗くよくみえなかったため、けっこう強めに背中を打ってしまった。それでも多少のオドの加護とやらのおかげか、すこししびれと痛みがあるくらいの軽症ですんだ。
 落ちたさきは殺風景な広部屋のようだった。ミジルはスライムボールにバウンドした後うまく着地して、特にケガはなさそうだった。最初に王都で会って蹴られたときも思ったが、ミジルは恐るべきほどの身体能力を持っている。

「あーあー。なんなのこのボロ屋敷は……」

 呆れるように言ったミジルにつられて、俺も上をみあげた。俺たちの立っていたところのあたりの床に穴があいている。かなりの高さだ。人間がジャンプして届く距離ではない。

「とりあえず、救出を待つか、出口を探すか、だね……」

 俺はロールプレイングするのも忘れてそう言い、フラッシュのカードで辺りを照らす。部屋がずいぶん見やすくなった。フラッシュは意のままに光の量を調節できる、本当に便利な魔法だ。

 小学校の体育館倉庫のような、ほこりっぽい匂いがする。隅(すみ)にはドラム缶サイズの大きな鍋だったり、西洋風の騎士の鎧があったりと、物置のような場所らしい。
 扉らしきものをみつけたので駆け寄り手を伸ばすと、木片がダーツのようにどこからか飛んできて俺の指の数ミリ先をかすめて扉に突き刺さった。

「どういうつもりなんだよ」

「わかるでしょ? 嫌いなのよ、あんたもカードも」

 オドの法則とやらがあるこの世界では、そもそも戦闘行為は許されていない。ハイロたちの話では、冒険士など特別な資格のあるものだけが特別できることなのだそうだ。
 それをわかっていて攻撃してくるとは。ミジルのカード嫌いは相当なものがあるらしいな。

「それで脅しか。暴力にはオドの天罰とやらがくだるんじゃないのか」

「無能にしてはよく知ってるじゃない。そうね。でもそれが私の覚悟。痛い思いをしたくなかったから姉から手を……」

 彼女がそう言う後ろで、なにか大きな影が動いたのがみえた。目をこらすと、城のようにゴツゴツした巨大な人形が、ミジルを今にも攻撃しようと腕を振り上げているのがわかった。 

「あぶねえ! うしろ!」

 ミジルは背後に気づいていない。俺は急いでフラッシュのカードを持ったまま『セルジャック』のカードを切った。肉体を強化して移動速度をあげ、ミジルを抱きかかえる。この魔法は使うと筋肉痛がひどいことになるのでできれば使いたくないのだが、そうも言っていられない。

「なっ――」

 俺がいきなり抱きついてきたことと巨大な人形の存在に二重で驚くミジル。しかしわずかに人形の振り下ろした大きな拳のほうが早く俺たちの頭上におりてきて、俺はすかさず回避しながら片腕を伸ばして『ポッピンスライム』を発動し盾にする。

 スライムボールの盾は破裂したがわずかな時間稼ぎにはなり、ミジルに攻撃はあたらなかった。しかし巨人の拳はそのまま床の板を叩き割り、その衝撃で飛んできた木片やら瓦礫やらが俺の手をかすめていった。さらに、『ポッピンスライム』は破壊されたことによって破れて消滅してしまう。
 手に軽傷を負ったが俺はかまわずに、距離をとってからミジルを立たせる。
 それにしても俺もいつのまにかこういう荒事に慣れてきた。最初の頃はバタバタ慌てるだけだったけど、この世界で生き残るために順応してきたんだろうな。

 改めてみるとあの人形、なんなんだいったい。ゲームのなかの敵じゃない、本物の脅威。動きはあまり早くなくゆっくりとこちらに向かってくる。

「これは……オートマトン、機械人形(きかいにんぎょう)ね。どおりで気配が……私としたことが油断したわ」

 冷静に言うミジル。性格は似ても似つかないように思えるが、真面目な表情をしているときの横顔はハイロに似ている。

「それよりどうする? これはゲームじゃない。いったん逃げたほうが……」

 俺の言葉など気にせずに、ミジルは堂々と一歩前に出て、巨大な機械人形のほうに手をかざした。
 すると機械人形は突風に押された紙のようにバランスを崩して軽々と後方へ吹き飛び、壁に衝突して、腕や足をばらばらにして床にくずれていった。

 なんでもないという風に手をパンパンとはたく目の前の少女。ローグやハイロといい、どうなってるんだこの世界の女性は。いやラトリーは俺と同じ一般人だから、この人たちがなにか特別なのだろうけど。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -

花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者登録をするために魔法都市ヘルゲンに来たギルベルトは、古ぼけたマジックアイテムの専門店で『魔石ガチャ』と出会った。 魔石はモンスターが体内に魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと、強力なマジックアイテムを作り出す不思議な力を持っていた。 モンスターを討伐して魔石を集めながら、ガチャの力でマジックアイテムを入手し、冒険者として成り上がる物語です。 モンスター娘とのハーレムライフ、マジックアイテム無双要素を含みます。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...