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王総御前試合編
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しおりを挟む「さっき、俺たちも機械人形とやらに襲われた。……イベントは中止だな」
それにしても。
「どうして俺たちだけ無事なんだろう」
「さあ……やっぱりオドの加護ワヌかね」
それだと俺が平気なのはおかしくないか。もしくはこの肩に埋まってるカードの影響があるのか。
「エイトさん……ミジル……」
ふらつくハイロを、ミジルが受け止める。俺が代わりにローグを支える役になる。
「だいじょうぶ、ハイロ?」
ミジルが不安そうにして、姉のおでこを触る。
「……ミジルとくっついたら、すこし楽になりました……不思議ですね……」
そういうハイロの顔は、本当にみるみるうちに精気を取り戻していった。
「エイトさん、なにか精神に悪影響をあたえる魔法が、発動しているんだと思います。……むかしのにがい思い出を、おもいだしてしまいました。私がふがいないばかりに、ミジルに恥をかかせてしまったときの……」
お前はふがいなくなんかない。大したやつだよ。俺は心のなかで彼女を讃える。
「エイト……」
焦燥(しょうそう)の色を浮かべるフォッシャ。考えていることは同じか。
「呪いのカード、かもな」
「で、でもフォッシャは別に……!」
あわてるフォッシャを、俺は落ち着かせる。
「お前は関係ないよ。ローグがくれたカードのおかげで力は制御できるようになったんだから。呪いのカードなら、勝手に暴走するってこともありえるだろ」
そう、ほかでもなく俺は呪いのカードのせいでこの世界に飛ばされたからな。仮にフォッシャの力が洩れ出ているんだとしたら、俺たちの手持ちのカードが実体化してなきゃおかしい。でもそうはなっていない。
十中八九原因は呪いのカードだと考えるべきだ。
「なに……? なんの話!?」
ミジルはやや取り乱している様子だった。無理もない、こんな状況では。ゼルクフギアの経験がなければ俺も困惑していただろう。
「災厄カードです。私たちでなんとかしましょう。ミジル、ローグさんたちをお願い」
ハイロが冷静に諭(さと)す。
ローグは俺の元を離れ、「私は大丈夫……いきましょう」といつもどおり強気に振舞う。しかし頬には汗がみえている。
いずれにせよ参加者たちのことを考えれば、急がなくてはならない。
「だまっていたのですが、この館にはお化けがでるというウワサがあるんです。関係あるかわかりませんが、気を引き締めておきましょう」
「お、お、おばけ!?」
ハイロに言葉に、フォッシャが悲鳴のような声をだす。俺も嫌な汗が自分の背中に流れたのがわかった。
だが参加者の人たちが苦しんでいるのをほうっておくわけにはいかない。お化けでもなんでも、いざとなればフォッシャの力がある。ここは進もう。
「フォッシャ、嫌な感じがするって言ってたよな。それでカードの場所がわかったりしないか」
「やってみるワヌ。集中して……」
フォッシャのあとについて進んでいく。時々ふらついているローグを、ミジルとハイロが助けてやっていた。頼みの綱の存在が今は不調だ。なにが起きても対応できるように俺は辺りに注意を払う。
「そういえば、隠し通路みたいのを見つけたな」
「そっちから危険な感じがするワヌ」
俺の視線の先を追って、フォッシャが言う。
隠し通路を通り、今度は地下の方へと階段をおりていく。暗闇がつづいていたが、やがて元々ここにかけられている魔法が起動したのか急に灯かりが点いた。
最近人が通った形跡がなく、何年も放置されていたのではないかと察する。建物のつくりは非常に精度が高く、ボロついているということはない。
地下の広間に出ると、奥にカードがあるのがわかった。怪しげな緑色の光に包まれて宙に浮いている。
間違いなく呪いのカードだと確信が持てた。この部屋にきたときから気分が悪い。嫌な思い出が浮かんだりカードの中に出てくるような怪物の幻覚が見えたり、吐き気とめまいまでする。
ハイロも同じなのか、小さな悲鳴をあげてローグに抱きついていた。やはりモンスターの幻覚が見えているのか、辺りを何度も見回したり、幻影を消そうと強くまばたきをしている。
一方フォッシャとミジルはあいかわらずなんともなさそうだった。とにかく早いところあれを壊さないと。
呪いのカードに向かって進もうとした時、どこからともなく、笛の音色がきこえてきた。
オカリナのようなものを持って広間にあらわれたのは、前に見かけたあの少女だった。
「あれは……あれ?」
ハイロが声をだしたとき、俺も気づいた。さっきまで不調だった気分が、ずいぶんよくなっている。体もなんだか軽い。あの音色の力なのだろうか。
「な、なんか怪しい女の子があらわれたワヌ……まさか……お、お化け!?」
口を開けてガタガタと震えるフォッシャ。そういえばこいつは資料室でこの子と会ってなかったな。
少女はオカリナをしまって、冷たい目でこちらを一瞥すると、
「精神に作動して恐怖心をあおる災厄カード【催眠ポルターガイスト】。過去につらい思い出がある者ほど影響されやすい……という。この館の侵入者を排除するために仕掛けられた……といったところか」
やけにカードのことに詳しいな。さっきすれ違ったときにも違和感をおぼえたが、ここにいるということは只者(ただもの)じゃない。
呪いのカードがある方になにか動きがあったのを、視界の端にとらえた。カードの横で地面に崩れていた機械人形がぎこちなく立ちあがり、呪いのカードを手にとって自分の胸の中に収納した。かなり古いのか、ところどころ塗装や部品の痛んだ子供くらいの大きさの機械人形だった。その姿には独特の恐怖を与えるものがある。
『侵入者を感知しましタ。セキュリティ起動。解除する場合は、ヴァーサスに勝利してくださイ……イイイ』
古ぼけた機械音声で人形はそう告げた。
「呪いを解除するには、カードゲームで勝てってことか……?」
俺がつぶやくとフォッシャが悠々(ゆうゆう)と前にでてきて、
「めんどっちいねえ。まどろっこっしいからフォッシャの力でぶっとばすワヌ」
ぶ、ぶっそうなこと言ってる!?
フォッシャは置いておいて、俺はほかのみんなの状況を確認する。ローグはまだ本調子ではないようだし、ミジルは元気そうではあるがカードの経験はなさそうだ。となると、ハイロか俺しかいないか。
「どっちが試合するかだけど……」
俺はハイロに目配せする。
「では、ここは公平にジャンケンで決めましょうか」
「コインでもいいんだぞ。先攻をとることに命をかけてきた俺に勝てるかな?」
「私だって……負けませんよ」
俺たちが冗談めかして言っていると、フォッシャが割り込んできて、
「ここはフォッシャの出番のようワヌね……」
だからお前はちがうだろ!?
「お前が下手したらこの館ごとふっとぶわ」
「えーこんなにやる気あるのに」
ブーたれるフォッシャに、小声で「ミジルとあの子の前で能力をみせないほうがいいだろ」と耳打ちする。フォッシャは「そっかそっか」と笑顔で納得してくれた。
さきほどの少女がまた詩をそらんじながら、カードのほうへとゆっくり進んでいく。
「ヨロズの精霊と魔物が入り乱れに争う
果てを統べるべくあらわる力の兆し
我今こそ詩片の英雄となりて天を助けん」
「おい」と俺が呼び止めたが、彼女は振り返らずに「5分もかからず終わらせる」と堂々言ってみせた。
「……ずいぶん落ち着いてるわねー」
その様子を見て感嘆するミジルに同感だ。しかしフォッシャは慌てて、
「ちょっ、ちょっ! なんかあの子変なこと言いながらカードに向かってるワヌよ!?」
「……自信があるのかな」
とりあえず任せてみるか。彼女が何者なのか、知りたいって気持ちもあるしな。
やがてゲームが始まった。少女と機械人形をはさんで、カードが人間の半分サイズのホログラムとして広間の中央にあらわれる。
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