95 / 169
王総御前試合編
23
しおりを挟むイベントが中止となったため表彰されたわけではないが、事件の解決は一応俺とフォッシャの手柄ということでアグニオンのカードを手に入れた。
面倒な事件だったが、お目当てのカードを手に入れた嬉しさにおもわず「ドゥフフ」と変な笑い声がでてしまった。
「エイトさん、アグニオンゲットですね! さすがの有言実行です」
有言実行? ハイロにそう言われて自分の表情から余裕が失せていくのがわかった。俺はそんなやつじゃない。残念ながらな。
期待や評価は嬉しいが、果たしてそれに応えることができるほど本当に俺は優れたカードゲーマーなのだろうか。
「エイトさん……?」
「あ、いや……。MVPはフォッシャにとられちゃったけどな」
というか途中からもうTTRPGどころじゃなかったし。
「えっへん」とフォッシャは胸を張る。MVPの報酬はトリックカードと賞金だ。俺が手に入れられなかったのは残念だが、御前試合の戦力にはなる。
「ミジルも、キゼさんとエイトさんの活躍をみて、すこしはカードゲーマーへの考えを改める気になったんじゃないですか? カードは誰かを助けることだってできるんです」
「……ふ、ふん。まあまあらしいわね」
ハイロに突然話しかけられてミジルは驚いていたが、すこし嬉しそうだった。
でも、たしかにハイロの言うとおりだな。カードは誰かを助けることができる……か。
「ローグが動ける状態でよかったよ。フォッシャの力が役に立ったな」
俺が褒めると、フォッシャは鼻を高くして、
「いやぁ。それほどでもある」
「さすがです」
ハイロも彼女を讃(たた)える。ミジルはなんのことだろうという表情を浮かべていた。ハイロはいつものおっとりした感じではなく、やけに気分が高揚(こうよう)しているようだった。
「さっきの試合をみていて、心が震えました。ここ最近、カードが楽しくてしょうがないんです。私、やっぱり……カードが好きです。今日のことで改めてそう思いました」
カードが好き、か……。いつだったか『カードを愛しすぎる者はカードにおぼれる』なんてフォッシャに言われたっけ。好きだからこそ、つらいときもある。俺はそんなことを考えてしまう。
「ミジル。私、試合がんばりますから。応援にきてくださいね」
「わかった、わかったよ……」
ハイロの言葉に、しぶしぶという感じでミジルは返事をする。
「エイトさんに、言うことがあるんじゃないですか?」
ハァ、とミジルはため息をついてから、
「スオウザカ。……カードゲーマーとしてはなかなかのようね。でもそんなんじゃお姉ちゃんにはまだまだ不相応(ふそうおう)だわ!」
「あ、ああ」
事件の解決に一役買ったのを、評価してくれてはいるんだろうか。
「勘違いしないでよ。あんたもカードゲーマーも、認めたわけじゃないから。妹として、姉に無様な試合をしてもらいたくないだけ。大会まで時間はあるから、せいぜいハイロの足をひっぱらないようもっとうまくなることね。いい?」
なんなんだこいつは、と内心思ったが、すこしは見直してくれたようなので黙っていよう。
それにミジルのいうことにも一理ある。もしあの少女のようなレベルの選手が出てきたら、難しい大会になってくる。もっとヴァーサスの理解を深めないと。
ちょうど、さきほどの少女が館から帰ろうとしているところと出くわした。たしかハイロに聞いた話では、キゼという名前らしい。
近くに寄るとさらによくわかる。やはりこの人、おそらく相当な腕だろう。カードの触りすぎで爪がすり減っている。そして身にまとっている空気に独特の圧(あつ)がある。
この感覚、おぼえている。真の強者と対峙(たいじ)したときの言い表しがたい集中状態。
すれ違いざま、俺は彼女の横顔と一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)――歩く所作(しょさ)さえ凝視(ぎょうし)していたが、彼女は澄まし顔でこちらを一瞥もくれることなく通り過ぎていった。
「エイト~あの子のこと気になるワヌ?」
誰かの声がして、気がつくとフォッシャが肩に乗っていた。
「え、あ、ああ……」
フォッシャはなんとなく聞いた、というような感じだったが俺は急に声をかけられたことにしどろもどろになってしまう。
「なあ、ハイロ。今の子も御前試合に出るのか」
「出る……というウワサはあります。しかし彼女はプロですから、信憑性(しんぴょうせい)は低い情報ですが……。エイトさんも気になるんですか?」
「ウワサは知らなかったけど、なんとなくカードゲーマーの勘がな……」
「なんの話ワヌ、エイト? さっきの人のこと?」
「あれレベルが出るなら……楽には勝たしちゃくれないだろうな。……」
「は、ハイロとエイトがそろってるワヌよ? きっと勝てるワヌ」
「…………」
返事のない俺をフォッシャは見かねて、
「……ね、ねえハイロ?」
「……キゼーノ・ユーディットガウス選手。彼女は、初出場にして五大マスター大会のひとつ聖札究道杯(せいさつきゅうどうはい)を準優勝した新星……いま勢いのある、マスター大会制覇に最も近い若手と言われています。……なんでもカードだけではなく理数系の学問にも通じていて、学者としても優秀だとか……」
「プロなんだとさ」
「プロ!? なんでプロがアマチュアの大会に出てくるワヌ!?」
「さあね……」
「ただのウワサですから、あまり気にしてもしかたないですよ」
「どうかな。……もうすこしレベルアップしたほうがいいかもしれない、俺たち全員」
彼女が出てこないとしても、万が一彼女クラスの選手がでてくることを想定すると、楽観的にのんびり構えているわけにはいかなくなってくるだろう。
それにしたって、あの少女のことを俺は気にしすぎだ。だが自分でも制御できない。
今朝の胸騒ぎは、キゼーノという少女との出会いを予感していたのではないかと思うほど自分が耽溺(たんでき)しているのがわかる。
あの夢の映像と音が、また沸き起こって甦ってきた。
[さあ対するは『無敗の新星』スオウザカ・エイト選手だァァ!]
そうだ。彼女から感じる違和感の正体がわかった。どうしてここまであのキゼーノという存在が俺の精神をかき乱すのか。
彼女はかつての俺と同じ目をしていた。
よく似ているんだ、本気でカードゲームをしていた頃の自分に。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者登録をするために魔法都市ヘルゲンに来たギルベルトは、古ぼけたマジックアイテムの専門店で『魔石ガチャ』と出会った。
魔石はモンスターが体内に魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと、強力なマジックアイテムを作り出す不思議な力を持っていた。
モンスターを討伐して魔石を集めながら、ガチャの力でマジックアイテムを入手し、冒険者として成り上がる物語です。
モンスター娘とのハーレムライフ、マジックアイテム無双要素を含みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる