カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
99 / 169
王総御前試合編

27

しおりを挟む

 しばらく歩いていると、奇妙な洞窟のような通路にでた。

 天井や壁に抽象的な絵や文字がたくさん描かれている。いわゆる壁画、というものなのだろうか。プラネタリウムのように、どこを見回してもあちこちになんらかの塗料でつくられた絵がある。まじまじと見ていると、巫女がおしえてくれた。

「これらは、古代のカードの記録のようなものですね。今はカードというのは破れてもまたどこかで復活するとわかっていますが、むかしは一度壊れると元にはもどらないと信じられていたので」

 またどこかで復活する、か。ゼルクフギアの封印と引き換えに消滅した『宿命の魔審官』。あの秀でたカードも、いずれまたよみがえるのだろうか。

「かつてはここに記されているような古代カードは誰でも使えたようです。便利な反面悪用もしやすく、オドの怒りを買い制限がきびしくなってしまいましたが……」

 オド、か。
 魔法の源、魔力のようなものだと思っていたが、どうやらはるかに巨大な存在らしいな。だがそうらしい、ということしか俺にはわからない。

「カードに描かれた存在たちがなんなのか、ご存知ですか?」

 唐突にきかれたが、そんなこと当然俺にわかるわけがない。

「いえ……」

「トリックカードは、古代に実在した現象が元になっているようです。また一部ですが、ウォリアーカードも実在した人物や民間伝承がモデルになった……という一説があります」

「カードに描かれているものは、昔ほんとうにあった……ということですか?」

「全てのカードがそうではないようですが……なかには確定しているものもあります。……オドの法則は知っていますか? 世界を滅ぼしかねない力を持つ文明は、オドによって封印される。カードとは、単なる競技ではありません。古代へと思いをめぐらせることが目的で、人や生物がふたたび過ちを犯さないようにとオドが与えてくださった魔法なのです。ヴァーサスとは、オドに捧げる儀式でもあるということ」

 彼女の言葉に、感じ入るものはある。なるほど、この世界ではカードゲームは格式高いものらしい。

 やがて怪しげな暗い部屋に着いた。護衛二人によって俺のカードをすべて没収され、さらに腕になんの効果があるのかわからない魔法までかけられて、巫女と部屋にふたりきりにされた。
 いったい俺をつれてきてなにをするつもりなのだろう。

「ゼルクフギアを封じた英雄にお目にかかれて光栄です。ところで、あのフォッシャ、という方はご友人様でしょうか?」と巫女がきいてきた。

 俺がうなずくと、「ローグと彼女が、あなたからなにかご相談があると聞きました。個人的には、あの方のオドも気になるのですが……わたくし、ここでのお話は決して他言はいたしません。思うまま存分にお話ください」

「フォッシャが……?」

 俺が言いだしたわけではない。どういうことだろう。そういえば最近ひとりでうろついてばかりいる俺をフォッシャが心配してくれたことがあった。
 俺が異世界からきたことは、フォッシャにも言っていない。この巫女という人になら、話してみる意味はあるかもしれない。

 指示に従って、祭壇(さいだん)のようなところに腰かける。
 俺は自分のことを彼女に話しはじめた。
 おそらく違う世界から災厄カードのせいで飛ばされてきたこと、そしてそれから今までの簡単な顛末(てんまつ)を。

 巫女は深くうなずくと、なにか魔法の粉のようなものを手につけて、俺の額に塗った。

 そして、手のひらをこちらに向けてなにか念じるようにすると、宙にカードのような発光物体があらわれた。

「嘘はついていないようですね。これはあなたを暗示する占いのようなものです。愚者のカード」と、巫女は言う。

「愚者って愚か者って意味じゃないんですか?」

「そうですけれど……まだ誰もやったことがないことを、成し遂げる者、という意味もあります」

 占いといえば前にハイロがやってくれたことがあった。それの更にレベルの高いヴァージョンか。

「わたくし、祈っていたんです。世界を救うカードの勇者があらわれますようにと、精霊琉(せいれいりゅう)に」

 巫女はふっと微笑んで、優しげな目をむけてくる。

「果たして本当に、災厄カードが起こした運命のいたずらなのでしょうか。オドは、カード使いとしての力を見込んで、あなたを呼んだのでは。この世界を守ってもらおうと……私にはそんな気がします」

 そう言われて、俺はすこし考え込んでしまった。
 思い当たる節はある。
 最初にこの世界に飛ばされたとき、妙な連中のいる場所にでた。そして誰かに操られてるみたいに無心になって、俺はそいつらの儀式を止めようとした。どうして自分がああしたのかわからないが、今考えるとなにか気になる。
 オドがどれほどの力を持っているかわからないが、とにかく強大であることはたしかだ。そうなると巫女のいうことは一理なくはない。しかし、

「……そんなこと言われても……自分には荷が重いです」

「エイト様の故郷への帰り方や、原因など詳細はむろん私ではわかりませんが……もし真実が知りたいのなら」

「……どうすれば?」

「エイト様の好きなようにしていればいいんですよ」

「……え?」

「エイトさんがカードに心惹かれるのであれば、カードの道が答えを教えてくれるのやもしれません」

 カードが導いてくれるかもしれない、というわけか。

「もし本当に精霊琉がエイト様を呼んだのなら、今も精霊琉がエイト様を加護しているはずです。こうして巫女であるわたくしとあなたが会ったことも、偶然ではないのでしょう。その肩のカード、よく見せていただけますか?」

 服の上からでも、巫女には例のカードのことがわかっていたようだ。この人の前では、隠し事はできないらしいな。



----------

 ハイロたちが来るよりも先に塔を出て、あの幻想的な森林地帯の木にもたれて座る。なにをするでもなくただ時々カードを眺めたりしていると、ようやくフォッシャが来た。

「エイト、どうだったワヌ? 自分のこと、話してきたんワヌよね」

「うーん……。話したには話したけど……あ、なんかお土産もらったぞ」

 フォッシャに巫女からもらった鉢植えを見せる。

「おお!? これは一体……それで巫女は、なんて言ってたの?」

「カードの導きがどうたらだってさ。きっとオドに選ばれたんだって」

「ふーん……納得いってないみたいワヌね」

「そりゃ、好きにカードをやってればいいなんて言われたらな」

「まあ巫女様がそういうんだから、そうしてればいいワヌよ。バチはあたらんワヌ」

「……ま、色々得るものはあったよ。心配してくれてありがとな、フォッシャ。でもえらい人に会わせるなら一言くらいくれよな」

「ごめんごめん……あんまり考え詰めないでね、エイト」

 申し訳なそうに笑うフォッシャの頭を、俺は強めに撫でる。そういやこうしてフォッシャを撫でたのもひさしぶりだな。さいきん自分を追い詰めすぎだったのかもしれない。

 カードの道が答えを教えてくれるかもしれない、か。【探索】のカードがあれば、いずれは俺を飛ばした災厄のカードを見つけることもできるのだろうか。あるいは、真実にたどりつくようなカードもあるのかもしれない。
 しかし巫女の言う、世界をなにかの危機から守るなんて大層な役目は、俺なんかに務まるとはおもえない。

 いかん、とすぐに思い直る。フォッシャに心配してもらったばかりなのに、またすぐに悩んでしまった。よくないな。
 自分の好きにカードの道を、と言われても、これはなかなかむずかしそうだな。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...