カードワールド ―異世界カードゲーム―

イサデ isadeatu

文字の大きさ
146 / 169
王総御前試合編

68

しおりを挟む


 もう日が沈んでしまった。あたりは暗く、夜空には星さえちらほらと見える。俺は宿の屋上にでて、ベンチにすわってただ考え事にふけっていた。
 あしたは試合だというのに気分は晴れない。でもそれもこんな状況では当然か。

 巫女の言うとおりカードでこの世界を守るために俺が呼ばれたのだとして
 俺なんかが本当になにかを守れるんだろうか。
 大切な仲間やカードたちを守りたい。でも俺にそんな強さはない。


「勝負が見えた? あんたに見えてるのはだれかが決めたカードの値段だけだろ。本当のカードの価値は……自分で決めるものだ」

「お言いになさりますわね。そこまでおっしゃるのならぜひみせてほしいものですわね……<逆に>。それらでどこまでやれるのかを。大事な試合に、勝つことができるのどうかを……。そうあなたの腕に、少なからず期待させていただきますわ」


 自分でいった言葉と、ノコウの言葉が頭のなかによみがえる。
 あんなことを言ったが、いざ苦境が待っていると思うと、自分のなかに自信はなく不安と恐怖だけがある。

「カードの腕、か……」

 気がつくと、ふところからゼルクフギアのカードをとりだしていた。
 それを、じっと見つめる。
 こんなのは使うわけにはいかない。わかっている。しかし負けられない。迷っているから無意識に手がうごく。
 非常時にこのカードを使うか否(いな)か。そして後にバレて反則負けをくらってでも、編成に隠しいれておくか否かを。
 本当に最後の手段だ。使えばどうなるかはわからない。またこちらに牙をむいてくるかもしれない。それでも。

 いちど、深呼吸をする。

「ラジトバウムのほうがよく見えたな」

 だれかの足音がして、俺はそうしゃべりかけた。ゼルクフギアのカードをしまう。

「ちょっとは追いかけてくれてもいいのにさ」

 フォッシャの声がきこえてくる。彼女だったらいいなとちょうど思っていた。

「絶対もどってくるって信じてた」

 フォッシャはこんなところで投げ出すようなやつじゃない。俺はそれをよく知ってる。
 彼女はどこかまだ気まずそうにしていた。やがて俺のとなりに座った。夜のため、女の子の姿をしていた。

「私も……私もエイトのこと、しんじてるから」

 そう彼女が言うのをきいて、おもわず視界が揺れ動いた。

「しんじる? 俺の……なにを? もう審官のカードもない……」

「たしかにあんなすごいカードはなかなかないけど……。だからさっき、ゼルクフギアを……? あのカードは……あぶなすぎるよ」

「わかってる。でも……もしものことを考えたら……怖いんだ」

 呪いのカードを引き寄せるカード。本当にそれが出てきたらどうなってしまうのか想像もつかない。
 正直な気持ちがそれだった。ゼルクフギアのときは審官とフォッシャの力があればなんとかできるんじゃないかと思った。だが今回は? 前よりも危険なことになるかもしれないのに、俺に、俺のなかに、自信をもてる切り札はなかった。

 だがこんなときでもフォッシャは明るく前向きだった。彼女はたちあがって、空をゆびさす。

「だいじょうぶ! どんなカードにも意味はある。あの空のお星様だって、見えなくてもちゃんとあるよ」

「どんなカードにも……ね」

「フォッシャたちにも、きっとできる。ワヌ」

 王都の町を背景に、彼女は強気にふっと笑う。

「エイト、言ってたよ。カードを信じてやれば、魂が宿るって」

 冗談でそんなことを言ったこともあったか。あるいは願望だろう。今の俺には、それがうまく飲み込めなかった。まるでフォッシャっていう光が届かないところまで深く沈んでしまったように暗い気分だった。
 昔の記憶と感情がそうさせる。

「そんなの……きれいごとだよ」

 冷たい言葉がでてくるのと同時に、自分の心も冷え切っていくようだった。

「強いやつが勝つ。強いカードを持ってるやつが勝つ。カードゲームなんてしょせんそんなもんさ」

「でもエイトの腕があれば……」

「俺の腕なんて……ただのゴミだ……ッ!」

 荒げた声は、あたりに響いた。静寂がもどってきても、こころのなかはざわついたままだった。

 俺のなかにはカードへの複雑な思いがある。この世界にくるまえからずっとだ。
 相棒って言ってもよくわからないけれど、フォッシャにはなんでも話したい。そういう風に思う。いや、聞いてほしいのかもしれない。あるいは、彼女には話すべきだとも思った。
 カードを5枚ほど手に持った。まるでカードゲームの手札のように。テネレモ、クロスカウンター、氷の魔女、セルジャック、逆襲。どれもこの最悪の世界にきてからずっと俺を支えてきてくれたカードだ。

「俺はずっと昔からカードゲーマーだったんだ。ヴァーサスとはちがう種類の、だけどな……」


―――――

 
 世界ランク5位、無敗の新星。
 カードゲーマーの頂点をめざす。それがむかしの俺だった。
 マイナーなカード使って天才気取ってるとか言われて、マイナー厨ってあだ名で人気はなかったんだけどな
 だけどそんな俺にもファンでいてくれる子がいた…


「俺にも怖いことはあるよ。今度の勝負だって、勝てるかわからないから怖い」

 その男の子は病気をわずらっていて、俺は手紙をもらって勇気付けるために会いにいった。
 彼は治療のための手術をこわがっていてどうしても一歩がふみだせないでいるらしかった。
 エイト選手にも怖いものはあるかときかれて、俺はそういう風にこたえた。

「じゃあ……僕もがんばってみる。こわいけど……手術、うけてみる。それでがんばって、元気になれるように……。エイト選手、こんど大事な試合があるんだよね!? 僕も……僕もがんばるよ。エイト選手が試合してるあいだ……だから、エイト選手もがんばって」

 俺はそれまで、好きだからカードをやってきただけだった。でも自分がそういう風にみられているとおもうと、やらなきゃいけないなと初めて思った。

「ああ。ぜったいに勝つ。だから手術をうけて」

 俺はその子と指切りをして、おたがいがんばろうと励ましあった。


「カードは俺を育ててくれたよ」

「カードから大切なことをたくさん学んだ。対戦相手をうやまう気持ちやマナー。努力がむくわれたときの嬉しさ。あきらめない心、考えて答えを出すゲーム……
 どうしようもないやつだった俺にとって、カードは友達とあそべるチャンスでもあった。

 だけどいつの間にか、みんなカードを卒業していって……
 俺だけアホみたいに夢中でカードを続けて、気づいたら世界大会で優勝を狙えると言われるくらいになっていた。

 AIって言って、最高レベルの人工知能と戦う機会があった。世界王者が病気をして、俺が代役に選ばれたんだ」



 1勝1敗で望んだ3番勝負のラスト。

 俺はこの試合に並々ならない気持ちが入っていた。
 ほんらい世界王者が戦うはずだったこの組み合わせ。世界的に注目度が高い、そのこともある。そして自分を応援してくれる少年との約束もある。なにより、カードに人生をかけてきた自分が、機械あいてに負けるわけにはいかない、兄貴の代わりにいる自分が負けるわけにはいかない、そう思った。

 展開はくるしかった。相手は選択肢を間違わない。こちらの手は見透かされているように、すべての狙いがことごとく防がれ、逆にこちらにとってイヤなところを攻められつづける。
 それでもなんとか俺は希(のぞ)みをすててはいなかった。

 あのカードがくれば勝てる。
 そう確信していた。

 のちに何度もこの試合のことは思い出した。どうすればよかったのだろうかと。あるいはなにがわるかったのか。少年の期待にこたえたいと張り切りすぎて、固くなった? デッキの構成がわるかった?
 いろいろ考えた。だが今になって思う、実力がたりなかったのだと。

 『暁の冒険者』を待った。俺の切り札を。
 それをドローできれば、というところだった。
 だが……

 カードは……こなかった。

「昔、俺は……あこがれてた兄貴を、自分のせいでなくした。兄貴みたいになろうとおもって、でもなれなかった。兄貴みたいにだれにも負けないことだけが、俺の生きる資格、カードをやる資格だった」

 拳をにぎりしめ、


「俺は……まけたんだ……ほ、本気で……カードの力をし、信じていたのに……!」

 涙がぽろぽろと流れた。

「カードへの感情なんてもってない機械に……!」

 

「カードは……俺にいろんなことを教えてくれた。
 魔法の力とまではいかなくても、生きる勇気をくれる不思議な力があった。

 心のある友達みたいに思ってた。
 だけど気づいたんだ……カードなんてただの紙切れだって

 俺の信じてたチカラなんて……ただのゴミだったって!」


 涙のおちたカードを、俺は乱暴に投げ捨てようとした。
 だができなかった。よわよわしく、手札を座っていたベンチの端(はじ)においた。

「その男の子は……どうなったの」

「……手術は……成功したらしい。でも俺は……かっこわるくて、会いにいけなかった……」

 自分がなさけなくて、とてもじゃないが面(つら)をみせることなんてできなかった。

「笑えるだろ?」

 そんな笑えるバカな男のストーリーだ。だけどそんな単純な話でも、俺はカードを引退した。
 その俺がこんな世界にきてカードをやってるんだから、皮肉な話だよな。

「エイトのいうとおり、カードには不思議な力があるって、私もそう思う。
 ゴミなんかじゃないよ。私たちをつないでくれた、大切な宝物だもん。
 エイトの力なら、みんなの笑顔を守れるよ」

 無理だ。とても、ムリだ。そんなのは。

「エイトは自分がかっこ悪いって思ったのかもしれないけど……私は、かっこいいと思う
 エイトは怖かったんだね。だけどちゃんと向かっていった。
 勝ち負けも大切なのかもしれないけど……あきらめないで、どんなむずかしい状況でも挑んだエイトは、すごくかっこいいよ
 きっとその子は今でもエイトのことをヒーローだと思ってるはずワヌ。それにお兄ちゃんだって、誇りにおもってる」

「……こんなださいヒーロー……いるか……?」

 かわいた笑いがでてくる。

「逆に考えるんだよ、エイト」

「ぎゃくに……?」

「ほんとのカードゲーマーになるチャンスは……いまワヌ!」

 彼女はたしかにそう言った。俺の放り出したカードをひとつひとつ拾って、くるりとこちらを向く。
 テネレモのカードを、俺にむかってさしだした。

「フォッシャとエイトで……カードを引こう。みんなの笑顔を守るためのカードを」

 カードを……
 
 フォッシャ……ありがとう。
 俺は目元をそででぬぐう。彼女の伸ばした手、そこにあるカードのもう一方を手に取ってみる。
 カードゲームは楽じゃない。カードはけっして軽くなんかない。だけどフォッシャがいれば、すこしは軽くなるかもしれない。そして、自分の信じたカードたちといっしょなら、きっとなおさらだ。
 もう一度やろう。もう一度やるんだ。このカードの世界って逆境だからこそ、本当のカードゲーマーになれるチャンスがある。

「まったく……。めんどーな相棒をもったもんだな」

 俺の言葉に、「こっちが言いたいよー」と笑うフォッシャ。それもそうか。
 あの強力だった審官のカードはもう無い。だけどやらないとな。
 どんなカードにも意味はある。俺がそれを本当にできるかどうかで、運命は変わるんだ。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...