上 下
19 / 40

19)やるべきことは

しおりを挟む

「アディウィズ、邪魔しないで」

「冬菜……と言うのか」


アディウィズが冬菜を見つめた。剣を片手にスクリーンに近づく。


「アディウィズ……あんたは何様だから私の小説を勝手に実践してんのよっ」

「これこれ、冬菜とやら。総帥様とお呼びするのじゃ。そなたこそ何者じゃ」


緋芙美が咎め立てする間に近づいたアディウィズは、セクシーな表情で冬菜の顔を覗き込む。


「冬菜とやら。聞き捨てならぬことをぬかしたな。一体何を書いたと言うのだ」


うわっ
セクシー……きゃああ……
イケメソに迫られているっ

じゃないってば

いくら美しくても

あぁ……


アディウィズの指先が冬菜の顎に触れそうになった時、緑灰色の腕からフラッシュが瞬いた。その閃光はスクリーンの冬菜を攻撃する。


眩しい……


アディウィズのいたスクリーンが光で弾けた。爬虫類系異星人とおぼしき緑灰色の生き物も緋芙美も消失した。

眩しい光が消えて暗転する。


暫く補色が支配する暗闇が続き、いきなり現実に戻る。

極彩色の壁の上布にバッサリと切目が入る。布地が斜めに垂れ、近くの修行者が霊力を与えられたアディウィズのサーベルの斬気ざんきに薙ぎ倒され吐血した。

それでも声を大にして朗々と祈祷する修行者の姿に、釘付けになる。血は胸の辺りを真っ赤に染めて、膝にも滴り落ちる。それでも微動だにせず祈る姿は、冬菜の闘志を沸き立たせ、全身がプルプルと怒りに震えるのを自覚させた。


絶対に負けない

あの爬虫類め
私に何を指示したってのよ
半殺しにしたいくらいよ

覚えておきなさい
絶対に負けないから

地球を好き勝手に
壊させやしない

そうよ
地球に関する権利は
神から人間に与えられたもの

あんな異星人
やっつけてやる

でも、どうやって……

あぁ、ボンクラは
緋芙美だけで十分ってのに

なのにあのアディウィズも
エクストラの狂信的ファンの癖に
作者の私がわからないなんて
なーんてポンコツぶり

あ、そうか
言うの忘れてた
私がエクストラだって

そーれーにーしーてーもー


冬菜の目がめらめらと燃える。


「アディウィズっ。止めてっ」


怒りに任せて叫ぶ。

呪詛文言の渦巻く中で、空の金杯を両手に持ちながら舞うウプンマガの身体の中で、冬菜は初めて脱出を試みようとした。


自力であそこに行けるか

行くのだ

アディウィズを止めに

私がエクストラだと言うのよ

あんたが聖書だと奉じている
あの小説の作者エクストラだと

でなければ
ウプンマガの祈りが
みんなの祈祷が

台無しになる


ふひゃ……
違うよ、冬ちゃん
冬ちゃんがやるべきことは
書くことだよ
小説のラストをね
ふひゃひゃ……


今こうしているのに
どうやって書けと言うのよ


それは冬ちゃん
冬ちゃんが考えることだよ


バサリとウプンマガの着物の胸が斬られた。


あうぁ……
ふ、冬ちゃん……
書くんだよ、続きを
冬ちゃん
それが一番大事なことだ
うぅ……


壁の布地が再びバサリと斬られた。
祈りの円陣が崩れる。








しおりを挟む

処理中です...