☆☆☆ （短編集）

理想の世界

お前さ、レベル落としてでも今のうちに働いておかなくてはならないって言ったよな。

俺はさ、何だかおかしな話を聞いてさ、お前を思い出したんだけどな。お前のこととその話のつながりをさ、考えてみたいんだ。

話って言うのはさ……

AIだらけになってさ、人間を雇う企業がなくなってさ、だってコ○ナが教えてくれただろう『人間は休む必要がある』と。何かあったら稼働できなくなると。

人間の働ける場所がなくなるんだ。

だからさ、AIから税金踏んだくってさ、つまりはあれだな、人間は働かずにAIを働かせてさ、人間は税金を払わずにただで暮らすんだ。

ただだぜ。

ただ……無料。

全てのものが無料。

AIが作って世界中にばら蒔いてくれるんだよ、人間が必要とするもの全てを。

ああ、愛とかは、どうかな……

まあ、いろいろ考えられるだろう。

でもな、老人介護にはやっぱりAIよりも人間なのかな。保育園とかな、AIよりもやっぱり人間なのかな。

AIが今よりももっと完璧な理想の人間のようになったら、医者も看護師も警察も保母さんも風俗嬢も坊さんもみんなAIでいいよな。

だからと言って人間が罪を犯して歩くのはどうなんだろう。

全てただの世界でさ、罪を犯すなんてさ……

それを人間だと定義するなんてさ……

惨めだろう。

俺はさ、絵を描いて展示会するよ。

ただで手に入れたキャンバスと絵の具とオイルと筆と額縁と展示会場だが、展示してすぐに持っていかれたら何だよな、あれだな、それはさ、やめてほしいな。勝手に持って行くのはさ。

こっちはあげたいやつがいるのにさ。

だからな、みんな謙遜を学ぶのさ。

そういう世界が実現すれば良いよな。

うん、お前の言う通りだ。今すぐそうなる訳じゃないからな。いつか、AIが働いて、働きたい人間もたたで働いてさ。

だって、全てただ、無料なんだからな。

金を稼いで何に使うんだ……

働く動機は楽しみたいからさ。働くことを。
そんな世の中が実現すれば良いよな。

うん、うん、わかってるさ。
お前は生真面目で、今の感情を正しいと思っている。

俺はさ、現時点逃避なのかな。

ははは、笑って聞き逃してくれ。