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寝惚けた信仰
しおりを挟む宗教戦争の起きた国では
同じ民族なのに
信じることが違うばかりに
争う人々がいて
仲の良かった友人とも
殺し合わなければならなくなった
「安西、お前を匿うのは命がけだ」
「斉藤、俺を信じてくれ」
「信じろだと。安西、お前が信じているのはグモン神だろう。お前は俺を殺しに来たのではないのか」
「お前こそ、俺を匿うふりして売ったりはしないよな、斉藤」
「お前の神に聞いてみろ」
「いや、俺は神を捨てても自分を捨てない」
「それは本当か、安西。グモン神の怒りに障るのではないのか」
「俺はナイアミの神に寝返るよ。斉藤、お前がいつか話してくれた両手を広げて許してくれる神に」
二人は強く抱き合った
友情のハグだったが
安西は素早くナイフを斉藤の腹に突き入れて
斉藤はこれも似たようなナイフを
安西の背中に突き立てた
そんな事件があったことを小耳に挟んだ男が呟く。
「慈悲深いパーリパーリの神様、私は貴方を信じます。グモン神の信者もナイアミ神の信者も最低ですから」
男は窓を開く。明るい日差しに溢れた戸外の眩しさに目を細め、深呼吸した。
「ふふふ、あの男、グモンとナイアミは好みではないらしいな。俺様パーリパーリの信者だ」
「ふひひ、我らはそれでも良いのだ。お主に傾倒して真の神から遠ざかれば、我らの存在意義もあると言うもの」
「その通りだ、グモン。我らは真の神に背く者。人間どもを互いに戦わせ真の神に痛手を負わせる」
「面白いものだ。我らに傾倒した愚かな異教徒にも憐れみを示そうとする真の神に、痛手を負わせるのはな、ナイアミ」
安西と斉藤は真の神の裁判所にいた
グモンもナイアミもパーリパーリさえも
神ではないと知って
心の底から悔やんだ
「信仰の為に親友まで殺すとは……」
「寝惚けて生きていたような気がする」
「俺もだ。今更目覚めてもやり直せないが」
「どうせまがい物だらけの世の中さ」
「俺たちのようにな」
「何だとぉ」
「何だ、お前が騙したんだろうが」
「お前だって……」
壁に取り付けられた小さな祭壇にパーリパーリ専用のグラスを置いて、男は水を注ぐと熱心に合掌した。
「慈悲深いパーリパーリの神様、私はグモンを信じません。ナイアミも信じません。安西と斉藤の事件は笑い草です。心から信じられるのはパーリパーリの神様とお金だけです。どうか私により良い生活を与えて下さい」
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