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刑事がやってきた
しおりを挟む「あなたがこの男と知り合ったのはいつ頃のことでしたか」
喜伊津という若い刑事に、いきなり右藻田の写真を見せられた。思わず「え……」と呟いて私はこんな男知りませんがと言うところだった。
「これ、もしかしたら右藻田……」
「そうですが」
「老けすぎてて……うぅん、イメージ残ってるけどねぇ、直ぐにはわからないものねぇ」
女は四十代始めの年齢にしては若作りの、水商売の匂いがプンプンする年増だ。喜伊津に上から下まで観察された。
「最近、会ったことはないと」
「はい。事故のニュースは知ってますよ。何か怖いことになって」
「あのトラック運転手の方とは」
「いえいえ、全く存じませんが」
「知り合いでは」
「全然、全然。お客だったかもしれないけど……わかりません」
「右藻田に関してあなたとの間に特に変わったことは」
「存じているのではないのですか。私は警察に何度も電話しましたよ。集団ストーカーについて」
「ずっと以前のことですね」
「まだストーカーという言葉もなかった時代にね」
飲み屋で働き始めたばかりの頃だ。警察は動いてくれなかった。
「実は、あなたと同じことを言う人がいましてね」
「そうでしょう。私をターゲットにする前に、何人かいたらしいですから、ターゲットは。『懲らしめの対象』と言うのかな。男も女も複数人で一人を……」
自分の女房さえ『懲らしめ犯罪の対象』にしようとしていた男だ。
右藻田は『自分が旅行に行っている間に、女房が友達と寝た。寂しかったと言って』と、どこか訴えるように呟いた。
生まれたばかりのまだ足の萎えている赤ん坊を車の中で立たせようとしながら、暗い波の見える場所で、女はそんな話を聞いた。
神の教えに対して寝惚けているような女だった。よく調べもせずに聖書を胡散臭いと嗤い、知能の低さを露呈してさかしらぶっていた。
あんたの友達って
男友達だよね
浮気したってことか
似合いの夫婦だね
思い込みかな
聞いたことを
鵜呑みにしてる
男だとは限らないのに
海は暗くて何を言えば気がすむのかわからないと黙っていたら「酷いと思わないのか」と右藻田は女から言葉を引きずり出そうとする。
油断のならない男だ
私が何を思おうが
あんたには関係ない
第一、私に
あんたの女房に対する
悪意はない
何かの後押しがほしいのか
黙っていよう
女は漠然と正しい方向が見えていたのかもしれないが、まだ寝惚けているのと同じ、暗い波の間際にいた。
友達と寝た
寂しかったから
女友達かも
しれないよね
その時、右藻田は何かを期待していたようだったが女は黙っていた。
何も言わなくて良かった
言質を取られるところだった
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