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第二章 赤嶺怜の日記

       私だけが目覚めた

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ビー玉の幻影が色とりどりの水玉模様を煌めかせて漂う空間は、ミラーボールで彩られたダンスホールのきらびやかな小宇宙か、または雲の上。美しい石鯛は更に維持悪く私のプラズマの行く手を阻んで「帰れ」と眉目を吊り上げた。

しかし、手を取ると双子の少年の鼓笛に合わせて軽やかなステップを踏んだ。

双子の少年たちはその片割れがマネの「笛を吹く少年」のモデルだ。ゾラによって救われたという曲に合わせて石鯛は鹿子襦袢かのこじゅばんの鮮やかな裾をひらめかせて生足を出す。

私たちはタンゴで円舞曲を踊った。いや、円舞曲をタンゴで踊ったのか。

その一方で、マヌカンに抱き抱えられたまま身動きできずにいる骨ばった実体としての私は、目玉だけをぐるぐる回して踊るプラズマたちを眺めているしかなかった。

実体のマヌカンは「大丈夫ですか」と常識的な対応をしているが、プラズマの石鯛はくるくる回りながら小夜子に変身して「あなたは私を愛している、私はあなたに愛されている」と、可笑しな歌を口遊む。

そして、私は目覚めた。
私だけが目覚めたのだ。

マヌカンも石鯛もプラズマの私も、まだ夢の中で続きを歌い踊っている。

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