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76 親子喧嘩
しおりを挟むチョコちゃんママは声色を強くして言った。
「お母さんを追い出して何をするつもり。波流君、音理に何か言ってやって」
と、言われても僕も同じ気持ちだ。
「メイクするだけだよ。久しぶりに」
僕はチョコちゃんを見た。
「そんなに長くはいられないよ。送ってくると言って出てきたから」
チョコちゃんママが明るく笑う。
「そうよね、六時半になってる。そろそろ夕飯時じゃないの」
「あ、では僕は帰ります」
「あら、まだ早いんじゃない、少しだけなら……」
チョコちゃんママの言葉の途中でチョコちゃんが僕にピトッとくっつく。
「え……」
僕は右手から抱き締められた。
「帰らないで」
「音理」
「お母さんが早く買い物に行かないからさ」
チョコちゃん、何を言っているんだろう。目眩がする。
「音理、離れなさい」
僕は左手でチョコちゃんの頭を撫でた。可愛いんだ、こんな処が。頭は僕の肩にくっついていたが、こんな風に撫でるのは生まれて初めてだ。
「波流君も、止めて。音理、波流君に帰ってもらうよ」
「今日はもう帰るね。メールするから。今日、勉強した分を後で聞かせて」
「うん、わかった」
チョコちゃんは素直に離れて、僕はチョコちゃんママに頭を下げた。
「お邪魔しました」
「お構いしなくてご免なさいね」
「いいえ。また来ても良いですか」
「そうね。私のいるときに来てね」
「はい。それでは。チョコちゃん、またね」
スリッポンすっと履いて玄関を出た。着いてこようとするチョコちゃんは、チョコちゃんママに腕を捕まれてジタバタしている。僕はもう一度頭を下げて玄関を閉めた。
バシッ。
激音が響く。
チョコちゃんが殴られた。台所の開け放しの窓から二人が見える。
「あんたは何をしたかわかっているの、音理」
僕は茫然となって一度ドアノブに手を掛けたが、そのまま立ち止まった。斜め後ろからカリナが来る。
「波流君」
カリナのはっきりした声は室内にも届いたらしい。
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