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第一章 一日目 朝 転んだらダンジョン
★ (8)スメタナの魔女
しおりを挟むスメタナ教皇二百三世は声と呼ばれる占い師の声螺に籠絡されて二人で寝所に籠っているという噂が、空中都市の隅々に広まっていた。
「面白くないな。特に開戦前のこの時期に、我が主が左様に誤解されては……」
朝焼けの光が差し込む殺風景な部屋。大股で歩きながら、黒眼帯のパラディンは長椅子に白いマントを投げ捨てた。
軽い休息をとる為の長椅子とたまに酒を呷る為のテーブル。客用の肘掛けソファー。隅に軍服を下げる為だけには広すぎるウォークインドレッサー。
軍服の下からドレスシャツの女性らしいラインが現れた。
「ガーネット、お前の死に様を占った女だからか」
戸口に佇むのは豪奢な法衣のデルスパイアン宰相。ガーネットは、一本に結わえていた赤い髪を解いて振り向くと、黒眼帯の厳しい表情に嘲りを浮かべた。
「ふん、非業の死か。命運など何時になるやら。あの者の占いでは、私の死期は分からなかったではないか」
黒眼帯を解いてデルスパイアンを見つめた。眼の中に黒目が三つある。その重瞳を隠す為に黒眼帯をトレードマークにしていたが、従兄のデルスパイアンの前では、気兼ねせずに黒眼帯を外して蒸れた瞼を晒せる。
「惜しい美貌だな」
「目の前で言うことか」
「隠さずとも良かろう。お前の重瞳は貴重だ。しかも、一人で二千人倒すのだからな」
「それは重瞳とは無関係の、生まれついての化け物だってことは自負しているさ」
ガーネットはまだ四つん這いの赤子の頃にドラゴルーンの血を浴びていきなり走り回り、空中を浮遊した。
十二才の武芸大会では年上の強豪を木刀で悉く倒したが為に、国内にガーネットと競う者は無い。彼女の繰り出す殺法剣の風は鉄を斬り断つほどに鋭い。ドラゴルーンに組したケミヒス文明国の残党相手の初陣には、一騎当千ならず文明武器の飛び道具を用いた二千人相手に殺法剣を用いて殺戮し、十三才で『スメタナの魔女』の異名を冠することになった恐るべき人物だ。
そのガーネットが昇級前の非番に入る。近衛隊長の軍服から解かれ、待ち望んだ明日の祝杯を交わす。デルスパイアンは二つのグラスにワインを注ぎ、ガーネットは衣服を脱ぎ捨てた。
「将軍服を着てみたらどうだ。届いているだろう」
「私の裸など見慣れているくせに、今更、何を気にする」
子供の頃から年の離れた兄と弟のように付き合ってきた仲だ。双方共に互いに対して異性の意識はない。
「ああ、どんな格好をされても勃ちもしない」
デルスパイアンは法衣の下腹部の萎えた物を確認すべくもなく肩を竦めて苦笑いした。
黒紗法衣はスメタナ最高位大臣の証で慈悲の法衣と呼ばれる。白絹に細かい金糸刺繍の衣服の上に重ねた黒紗には、ドラゴルーンの三枚の金鱗を象ったスメタナの紋章が散っていた。
日に当たることの少ない顔色がワインで血色が良くなる。デルスパイアンについて女の噂はとんと聞かない。それもその筈のマンイーターなのだ。
「将軍服は明日の楽しみだ」
デルスパイアンに手渡されたデルオレンジの黄金のワインを、重瞳の目の高さに掲げる。長年鍛え上げた筋肉が盛り上がる。掲げ持つ金杯の中で清冽な香りが揺れた。
「落とすと中身が零れるだけ。教皇の座はこの金杯と同じだ」
デルスパイアンは法衣にそぐわぬ冷たい目で、金杯をぐっと飲み干す。
日々を執務室で若干十二歳の教皇と共に国内の諸問題に取り組み、議会を回し、神事を執り行う。国の隅々までデルスパイアンの冷徹な目が行き届く。次に何が必要で、何を行うべきか、国の未来を設計する目だ。
「ガーネット、お前には声螺の始末を。表沙汰にならないように」
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