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第五章 一日目の夕方 スメタナ仰け反る魔女
(2)人身御供脱出に向けて
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何処かで聞いた声だと思ったが、光の中のラーポの目に暗がりを目視するのは困難だった。
「俺だ。ライザックだ。人身御供を出してはならない」
ライザックは白い布を掛けた籠を持って明るみに出て来た。褐色の肌。焦げ茶の皮革と迷彩柄の戦闘服は暗がりに潜む時にも有利だ。
「ライザックさん、何故此処に」
「斎姫様、お食事と必要な衣類をお持ちしました」
「ボクが受けとるヨ」
鉄格子の天井から白いものが手を出した。
人間の象をしているが、異様に長く伸びる手を見るに其れは人間ではない。
「えっ、ロボット……すごい」
岩天井と鉄格子の隙間から籠が中に入る。
「ケミヒス文明国家の奴隷人形だ。斎姫様のお世話係にリンジャンゲルハルトから付属品として贈られた。」
「お世話係……奴隷人形……」
「ドラゴルーンを爆死させる仕掛けがあったのだが、五年もの間、作動しない」
「ボク、壊れてはいないヨ」
奴隷人形は籠を斎姫の前に出した。
「クッキーがあるわ。ラーポと云いましたか、あなた。私のお友だち、一緒に頂きましょう」
「えっ、いいの。嬉しい」
「修道院で何も食わなかったのか」
「えっ、お腹いっぱい食べたけど」
既に受け取っている。
斎姫が白布に幾つかを分けて手渡したのを、ラーポは喜んで受け取っていた。
「これはソゴドモ村の民が作った薬膳クッキーだ。口に合うかな」
パクりと一口齧った。
「うわあぁ、甘いぃ。蜂蜜かな。クッキーの中に黄色いゼリーが、美味しい」
ラーポはケイツァーと向き合ってふふっと笑った。
「斎姫様のお食事を奪うなよ」
「ん……ね、ソゴドモ村って近いの」
尋ねながら岩壁からの椅子状の突起に腰かける。
「ゲヘナの近くだ。罪人を投げ込む谷ゲヘナがこの近くにある。ソゴドモ村はリンジャンゲルハルトには珍しく同性愛を嫌う村だ」
「えっ、リンジャンゲルハルトって……同性愛の」
「国だ。と言っても過言ではない。男同士、女同士、花盛りだ」
思わず斎姫を見るラーポの視線に、斎姫は戸惑った。
さりげなく目を反らすその表情は、心なしか頬に赤みが指したかのようにラーポの目に映る。
「きゃあぁ……ケイツァーは私のもの。誰にも渡さないからぁ……あはは……」
「おっ、お前……ブルータスだったのか」
迷彩が一歩退いた。
「何それ、ブルータスって……私ラーポよ」
「ブルータスは裏切り者の名前だ。ブルータスよ、お前もか……とジュリアス・シーザーが暗殺されるときに言ったセリフだ。ラーポよ、お前もか……」
「ん、シーザーって歴史で習ったおじさんのことぉ……異世界でも暗殺されたのぉ。でも私はケイツァーを救い出す。裏切らない。暗殺しない」
「そう言う意味じゃない」
即座に返った答えに、中二女子はにんまり笑う。
斎姫は戸惑った。嬉しいのか迷惑なのか判別のつかない気持ちだが、ラーポの存在が心地好い。
「救出は俺の役目だ。お前はポールを探せ」
「あるじゃん、目の前に。この鉄格子」
「此れでは無理だろう。異世界から来た奴らに聞いたら、一本立ちのポールだと言ってたが……」
「大丈夫よ。私、自慢じゃないけどポールダンス未経験だから破れかぶれよ。岩戸もダンスで開けたし、何だか自信あるから……うまっ、ライザックさんも食べてみる、これ、かなりヤバイ美味」
「俺は蜂蜜アレルギーだ。蜂蜜の黄色い草を見ただけで痒くなる」
イケメンの顔が歪む。
「黄色い草……それから蜂蜜が採れるのね。わかった。ドラゴンの弱みが。蜂蜜アレルギーだ。これ食べているからケイツァーは無事で居られたんだ」
二人の視線が斎姫に注がれた。
「ドラゴルーンでも、ブルータニアンはお優しい方なのです。私には触手が動かないと申されました。雨が降ると傘になってくれるのです。私の為に世界一の美しいお友だちを呼んでくれるとも約束してくれました。ラーポ、あなたが私のお友だちね」
斎姫のダイヤモンドのような色彩の薄い目が、光の下できらきらと輝く。
「世界一の美しい……って……いやいや、そんな。ポーランド人のハーフってだけでさ、ぁ……なるほど。ブルタニは私に世界一の美少女ではないけれど、退屈しない話し相手になりそうだと言ってた。ケイツァーの話し相手にするつもりだったのか。ふうん……」
「悪いドラゴルーンではないのです。家族を皆殺しにされてお寂しいのです」
斎姫の銀色の睫毛が斜めに流れ、ラーポは溜め息をついた。
「だからって、ケイツァーが犠牲になる必要が何処にあると……ムカつく。寂しいなら人間と仲良くなればいいじゃない」
「お前、家族を殺した相手と仲良くなれるのか」
「そ、それは無理。無理。無理。無理だぁ」
「ドラゴルーンも同じだ。王族殲滅を誓うほどの怒りと孤独、深い悲しみ……心の傷を癒す方法がないんだ。このダンジョンで斎姫様を話し相手にして、五年間休戦しているが、斎姫様をダンジョンから連れ出すなどと考えるな。ドラゴルーンの逆鱗に触れたら世界戦争だ。お前はポールダンスのポールを真面目に探せ。もしもの時は俺がいる」
「ポールを探して踊れってか。ブルタニもちょっと可哀想だけど……私、話してみようか、ブルタニに。他に方法があるんじゃないかと」
「逆鱗ものだ」
* * *
「俺だ。ライザックだ。人身御供を出してはならない」
ライザックは白い布を掛けた籠を持って明るみに出て来た。褐色の肌。焦げ茶の皮革と迷彩柄の戦闘服は暗がりに潜む時にも有利だ。
「ライザックさん、何故此処に」
「斎姫様、お食事と必要な衣類をお持ちしました」
「ボクが受けとるヨ」
鉄格子の天井から白いものが手を出した。
人間の象をしているが、異様に長く伸びる手を見るに其れは人間ではない。
「えっ、ロボット……すごい」
岩天井と鉄格子の隙間から籠が中に入る。
「ケミヒス文明国家の奴隷人形だ。斎姫様のお世話係にリンジャンゲルハルトから付属品として贈られた。」
「お世話係……奴隷人形……」
「ドラゴルーンを爆死させる仕掛けがあったのだが、五年もの間、作動しない」
「ボク、壊れてはいないヨ」
奴隷人形は籠を斎姫の前に出した。
「クッキーがあるわ。ラーポと云いましたか、あなた。私のお友だち、一緒に頂きましょう」
「えっ、いいの。嬉しい」
「修道院で何も食わなかったのか」
「えっ、お腹いっぱい食べたけど」
既に受け取っている。
斎姫が白布に幾つかを分けて手渡したのを、ラーポは喜んで受け取っていた。
「これはソゴドモ村の民が作った薬膳クッキーだ。口に合うかな」
パクりと一口齧った。
「うわあぁ、甘いぃ。蜂蜜かな。クッキーの中に黄色いゼリーが、美味しい」
ラーポはケイツァーと向き合ってふふっと笑った。
「斎姫様のお食事を奪うなよ」
「ん……ね、ソゴドモ村って近いの」
尋ねながら岩壁からの椅子状の突起に腰かける。
「ゲヘナの近くだ。罪人を投げ込む谷ゲヘナがこの近くにある。ソゴドモ村はリンジャンゲルハルトには珍しく同性愛を嫌う村だ」
「えっ、リンジャンゲルハルトって……同性愛の」
「国だ。と言っても過言ではない。男同士、女同士、花盛りだ」
思わず斎姫を見るラーポの視線に、斎姫は戸惑った。
さりげなく目を反らすその表情は、心なしか頬に赤みが指したかのようにラーポの目に映る。
「きゃあぁ……ケイツァーは私のもの。誰にも渡さないからぁ……あはは……」
「おっ、お前……ブルータスだったのか」
迷彩が一歩退いた。
「何それ、ブルータスって……私ラーポよ」
「ブルータスは裏切り者の名前だ。ブルータスよ、お前もか……とジュリアス・シーザーが暗殺されるときに言ったセリフだ。ラーポよ、お前もか……」
「ん、シーザーって歴史で習ったおじさんのことぉ……異世界でも暗殺されたのぉ。でも私はケイツァーを救い出す。裏切らない。暗殺しない」
「そう言う意味じゃない」
即座に返った答えに、中二女子はにんまり笑う。
斎姫は戸惑った。嬉しいのか迷惑なのか判別のつかない気持ちだが、ラーポの存在が心地好い。
「救出は俺の役目だ。お前はポールを探せ」
「あるじゃん、目の前に。この鉄格子」
「此れでは無理だろう。異世界から来た奴らに聞いたら、一本立ちのポールだと言ってたが……」
「大丈夫よ。私、自慢じゃないけどポールダンス未経験だから破れかぶれよ。岩戸もダンスで開けたし、何だか自信あるから……うまっ、ライザックさんも食べてみる、これ、かなりヤバイ美味」
「俺は蜂蜜アレルギーだ。蜂蜜の黄色い草を見ただけで痒くなる」
イケメンの顔が歪む。
「黄色い草……それから蜂蜜が採れるのね。わかった。ドラゴンの弱みが。蜂蜜アレルギーだ。これ食べているからケイツァーは無事で居られたんだ」
二人の視線が斎姫に注がれた。
「ドラゴルーンでも、ブルータニアンはお優しい方なのです。私には触手が動かないと申されました。雨が降ると傘になってくれるのです。私の為に世界一の美しいお友だちを呼んでくれるとも約束してくれました。ラーポ、あなたが私のお友だちね」
斎姫のダイヤモンドのような色彩の薄い目が、光の下できらきらと輝く。
「世界一の美しい……って……いやいや、そんな。ポーランド人のハーフってだけでさ、ぁ……なるほど。ブルタニは私に世界一の美少女ではないけれど、退屈しない話し相手になりそうだと言ってた。ケイツァーの話し相手にするつもりだったのか。ふうん……」
「悪いドラゴルーンではないのです。家族を皆殺しにされてお寂しいのです」
斎姫の銀色の睫毛が斜めに流れ、ラーポは溜め息をついた。
「だからって、ケイツァーが犠牲になる必要が何処にあると……ムカつく。寂しいなら人間と仲良くなればいいじゃない」
「お前、家族を殺した相手と仲良くなれるのか」
「そ、それは無理。無理。無理。無理だぁ」
「ドラゴルーンも同じだ。王族殲滅を誓うほどの怒りと孤独、深い悲しみ……心の傷を癒す方法がないんだ。このダンジョンで斎姫様を話し相手にして、五年間休戦しているが、斎姫様をダンジョンから連れ出すなどと考えるな。ドラゴルーンの逆鱗に触れたら世界戦争だ。お前はポールダンスのポールを真面目に探せ。もしもの時は俺がいる」
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