つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第六章 一日目の夜 雨

(2)サガンの妄想&ソゴドモ村の伝説&サディ

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西日が色濃くデボリエの顔を照らしていたとき、サガンはある話を始めた。其れはファンビーナの犯罪の犠牲になった女の話だった。

二人、草の上に寝転がった。

真上に星が見え始めた。
デルモニが口を開く。


「俺は『躓きの女』がどんな詐欺行為を行ったとしても、石の錘を附けて湖に沈めるのはやり過ぎじゃないかと思っていた。反省したら善人に生まれ変わって生きていけると思っていた。其れに、あの女『身代わりの生け贄』だと聞かされたんだ。『身代わり』が本物の罪の為に裁かれるなんてあってはいけないだろう。何も知らなかった。騙された。今はこのままファンビーナを追いかけてぶっ殺したい」


デボリエは怒りの捌け口を奪われて、やるせなく口を尖らせた。


「其れが出来ればなぁ。しかしリンジャンゲルハルト女帝がお決めになった『間者としての役目』の邪魔になってはいけない。女帝は律法だ」


近衛のサガンは毅然として諌める。


「あの時、灰色侍従様が来なければ……」


デボリエは愚痴をこぼしたが、サガンは諌める姿勢を崩さない。


「王女様がお前に許しを与え、侍従様がお前の件は水に帰すとおっしゃった。俺がお前を捉えても無意味なら、お前を見逃すしかない」

「俺たちは侍従様に言われてファンビーナの衣服を剥いだだけだ。其れはファンビーナの『間者の役目』の為に必要だったのだろう。腸は煮えくり返るが手は出せん。どうやってファンビーナを殺してやろうか」


サガンの口から、ふふ……と笑いが漏れる。


「まあまあ、お前は許されたのだ。復讐は考えるな。許された立場を失うぞ」

「お前はどうなのだ。妹は……」


デボリエは草の上で片肘を枕にサガンを見た。


「俺は先ず、ファンビーナを二本の木の間に立たせて両腕を広げた形で木に縛りつけるのだ。そしてファンビーナの舌先を片方の木に釘打ち付けてから縦に切り裂く」

「うおおおぉ……酷いっ.サガン、お前は其れでも人間か……」


思わず半身起き上がる。


「縦に切り裂いた片方の舌先ももう一方の木に打ち付ける。」


サガンは両手を枕に空を眺めながら薄く笑った。


「ぐわぁぁ……サガン、止めてくれ。これ以上は聞きたくない。お前は友だ。いくら妹の復讐の為だと言っても、其れは残忍だ」


デボリエの脳裏に、ファンビーナの口から左右に別れた長い舌が止めどなく血を流す様が浮かぶ。


「両目を抉り出し、木を根本から伐って街に運ぶ。広場に据え置く。妄想だよ。本気でできる技ではない」

「妄想……妄想だよな……妄想なら俺だって……」


デボリエの両頬が卑屈に歪む。
デボリエは草の上に大の字になったが、寒々として足を屈め腕組みした。

狂気の友から冷気が流れ出している。

デボリエは心の中で、こやつもファンビーナの一味だったんだよな……と思ったが、口に出すのは憚られた。



小さな村に相応しくささやかながら温かなもてなしを受けて、ラーポは満足していた。

「異世界人だからってこんなにご馳走になっていいなんて、どうしてなの」

ラーポの質問に、村の長老らしき白髭の老人が答える。

「あなたはあの忌まわしいダンジョンを打ち崩す為に異世界から召喚されたのじゃ。其の昔、預言者様が申された世界を開く女。其のお一人であろう。もう一人の方はどうされたのじゃ」

長老の家族も興味津々といった顔でラーポを見つめた。

「まだ、ダンジョンの中だと思う」

「お二人で来られたら村を上げての祭りになる処じゃった。ふぉっふぉっふぉ……」

ライザックがラーポを伴って訪ねたのは、ダンジョン外のソゴドム村の長老宅だった。
家族は娘夫婦と其の娘二人の五人家族。家の周りは黄色い草の畑になって明るく、道は舗装されていた。

此処はきれいな処だけど、ブルー・タニアンの嫌う場所ね。あいつ、アレルギー持ちだから。
人間がブーちゃんのアレルゲンになれば喰ったりしないはずだけどな……

「長老さん、あの黄色い草の名前は何て云うの」

「ああ、あれは薬草でな、ルモンダレナの花と云うのじゃ。四年に一度、花が咲く。其の花から様々な薬が作れるのでな、この小さな村も生計が立っておる」

「ふうん。ルモンダレナかぁ。ライザック、アレルギー大丈夫なの」

「ああ、花が咲く前は何ともない」

「へえ、あの黄色い草をブルー・タニアンは嫌っているみたい。多分、アレルギー持ちだからじゃないかな」

その場にいた全員が、ラーポを除いた全員、ライザックを含めて顔を見合わせた。

「其れは其れは良いことを教えてくださったの」

長老は相貌を崩し頷いた。

「もしもだけど此の村に襲いに来るなんてことがあったら……」

ラーポの言葉は

「何と。ドラゴルーンが人間を襲うなど……」

遮られた。

「一年に一度の人身供犠があったと聞いたけど」

「ふぉふぉ……其れは私たちの先祖の話じゃ」

「長老……」

ライザックが止めに入る。

「此の方になら話しても良かろう」

長老はテーブルの全員を見渡して口を開いた。

「ブルー・タニアンではない他のドラゴルーンの伝説。この村の伝説……」




台の上に寝かせたサディの手や足を巫女たちが押さえつけた。サディの足を開かせる。素肌が露になった。

「ん、ん……ん……」

サディの胸が高鳴る。
口に猿ぐつわを填められたサディは白い薄絹一枚の姿。

「お前は裏切り者だ、サディ。今夜は教皇様の神楽舞いがある。お前は裏切り者だから連れては行けない。お前を処分するのは後回しにして、印だけは付けておこう」

声螺が真っ赤に焼けた鐫を手にして現れた。

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