つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第十一章 二日目の深夜

(2)自動ドアにカブス

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月光の木漏れ日が夜の庭に落ちて露がきらきら光る。カブスは「ノアル様、其の薔薇を私目に下さりませ」と寝言を言ってムシャムシャと嘴を動かした。

其のカブスの背後でヴヴヴ……と振動する透明のドアが形を現す。ドアは硝子で其の向こうは明かりが眩く、小さな音で音楽が流れている。カブスは瞼を開け振り向いた。

「お…此れは夢であろうか……」

暫く瞼をしばたいているうちに、頭に水色の三角巾をカチューシャで止め寝間着にガウンを羽織った修道女たちが走って来た。修道女たちは頬を上気させて互いに微笑み合いカブスの横を通って硝子のドアに向かった。硝子のドアが自然に開く。「きゃあ」嬉しげな声が上がる。

「夢だな……」

隊列を組んだ修道女の群れが、タコの館の裏口から硝子のドアの前に続く。各各の手には日本円の入った財布が握られている。以前に、修道女の持って来る金貨や宝石類を鑑定させたコンビニ店主が換金してくれた日本円で、既にチャージしてカードを持つ者もいた。

カブスは硝子のドアが開いた時、修道女の後ろに割り込んで店内に入った。棚に見たことのない商品が並ぶ。籠を片手に修道女たちがきゃあきゃあ騒いで商品を爆買いする。その商品をカウンターで財布から出した模様のある紙切れと交換した。

「紙切れで買い物できるのか……おっ、あれは占い師が使うカードではないか……支払いは何でも良いのか……」

修道女たちの間をスタッフが忙しそうに商品補充している。旨そうなケーキが目に入った。嘴で突っついてみる。するといきなり後頭部をパコンとやられた。星が散る。スタッフに長い首を握られて宙吊りにされ、店外に放り投げられた。

「私はリンジャンゲルハルト帝国のノアル様付きの灰色侍従であるぞ。其の下に黒色侍従が十二人、其の下に土色侍従と紺色侍従が……」

「カブス様……あ、あはは……間違えた。侍従様……」

ファンビーナがカブスに屈み込んだ。

「おお、ファンビーナ。お前も買い物か……」

「買い物……買い物できるのですか……では私も並んでみます。いえ、宮殿で頂いた金貨がありますので……」


ファンビーナは急いで屋敷の中に消えた。修道女の群れは十五人づつ十分、出てくる人数と入っていく人数が軍隊のように正確に決められていた。

「ベロニカさん。お久しぶりです」

若い跡継ぎ店主が微笑んだ。父親が亡くなり店を継いだと手短に話す。そして「手伝ってもらえませんか。中に入ってください」。

二つあるレジは満員だった。ベロニカは店主の側でレジ袋に商品を入れる仕事を任された。商品が潰れないように手際よく詰める。二人で効率よく仕事をこなして雑談する時間もあった。

「今度一緒に食事に行きませんか。私はフランス料理を食べてみたいと思っているのですが、一人身で誘う相手もいないので、是非お願いしたいのです」

「フランス料理って……マンガで読みました。私も興味があります」

店主はベロニカの答えが気に入ったらしく破顔して、早速だけど何時が良いかと聞く。

「此処に来れる日がわからないのです。住んでる世界が違い過ぎるので……」

店主はベロニカの答えに打ちのめされて「住んでる世界が違い過ぎる……」と呟く。

修道女の最後の群れにタコがいた。

「だったら見せてあげるよ。カウンターから出て此方に来て」

タコは店主の手を引いて硝子の自動ドアを通過した。夜の空気が冷たいサンダー王国の、都心から離れた山奥の館。其の庭の一角から世界の一部が見える。遠くに幾つもの金色の旗をはためかせ聳えるサンダー王国宮殿。其の遥か向こうに港があり、まさしくダイヤモンドを散りばめた煌めく星空が広がる。ファンタスティックで荘厳な夜景だ。

「此処は……」

「サザンダーレ王国」

「サザンダーレ王国……何処ですか……サザンダーレ王国…って……え……日本語通じる……え……え……あれかな……私……異世界転移しているのかな……」

「みかんさんも異世界の人だよね、ベロニカさん」

「みかんさん。みかんさんって……うちの近くのあのみかんちゃん……おネエの……」
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