77 / 136
第十一章 二日目の深夜
(2)自動ドアにカブス
しおりを挟む
月光の木漏れ日が夜の庭に落ちて露がきらきら光る。カブスは「ノアル様、其の薔薇を私目に下さりませ」と寝言を言ってムシャムシャと嘴を動かした。
其のカブスの背後でヴヴヴ……と振動する透明のドアが形を現す。ドアは硝子で其の向こうは明かりが眩く、小さな音で音楽が流れている。カブスは瞼を開け振り向いた。
「お…此れは夢であろうか……」
暫く瞼をしばたいているうちに、頭に水色の三角巾をカチューシャで止め寝間着にガウンを羽織った修道女たちが走って来た。修道女たちは頬を上気させて互いに微笑み合いカブスの横を通って硝子のドアに向かった。硝子のドアが自然に開く。「きゃあ」嬉しげな声が上がる。
「夢だな……」
隊列を組んだ修道女の群れが、タコの館の裏口から硝子のドアの前に続く。各各の手には日本円の入った財布が握られている。以前に、修道女の持って来る金貨や宝石類を鑑定させたコンビニ店主が換金してくれた日本円で、既にチャージしてカードを持つ者もいた。
カブスは硝子のドアが開いた時、修道女の後ろに割り込んで店内に入った。棚に見たことのない商品が並ぶ。籠を片手に修道女たちがきゃあきゃあ騒いで商品を爆買いする。その商品をカウンターで財布から出した模様のある紙切れと交換した。
「紙切れで買い物できるのか……おっ、あれは占い師が使うカードではないか……支払いは何でも良いのか……」
修道女たちの間をスタッフが忙しそうに商品補充している。旨そうなケーキが目に入った。嘴で突っついてみる。するといきなり後頭部をパコンとやられた。星が散る。スタッフに長い首を握られて宙吊りにされ、店外に放り投げられた。
「私はリンジャンゲルハルト帝国のノアル様付きの灰色侍従であるぞ。其の下に黒色侍従が十二人、其の下に土色侍従と紺色侍従が……」
「カブス様……あ、あはは……間違えた。侍従様……」
ファンビーナがカブスに屈み込んだ。
「おお、ファンビーナ。お前も買い物か……」
「買い物……買い物できるのですか……では私も並んでみます。いえ、宮殿で頂いた金貨がありますので……」
ファンビーナは急いで屋敷の中に消えた。修道女の群れは十五人づつ十分、出てくる人数と入っていく人数が軍隊のように正確に決められていた。
「ベロニカさん。お久しぶりです」
若い跡継ぎ店主が微笑んだ。父親が亡くなり店を継いだと手短に話す。そして「手伝ってもらえませんか。中に入ってください」。
二つあるレジは満員だった。ベロニカは店主の側でレジ袋に商品を入れる仕事を任された。商品が潰れないように手際よく詰める。二人で効率よく仕事をこなして雑談する時間もあった。
「今度一緒に食事に行きませんか。私はフランス料理を食べてみたいと思っているのですが、一人身で誘う相手もいないので、是非お願いしたいのです」
「フランス料理って……マンガで読みました。私も興味があります」
店主はベロニカの答えが気に入ったらしく破顔して、早速だけど何時が良いかと聞く。
「此処に来れる日がわからないのです。住んでる世界が違い過ぎるので……」
店主はベロニカの答えに打ちのめされて「住んでる世界が違い過ぎる……」と呟く。
修道女の最後の群れにタコがいた。
「だったら見せてあげるよ。カウンターから出て此方に来て」
タコは店主の手を引いて硝子の自動ドアを通過した。夜の空気が冷たいサンダー王国の、都心から離れた山奥の館。其の庭の一角から世界の一部が見える。遠くに幾つもの金色の旗をはためかせ聳えるサンダー王国宮殿。其の遥か向こうに港があり、まさしくダイヤモンドを散りばめた煌めく星空が広がる。ファンタスティックで荘厳な夜景だ。
「此処は……」
「サザンダーレ王国」
「サザンダーレ王国……何処ですか……サザンダーレ王国…って……え……日本語通じる……え……え……あれかな……私……異世界転移しているのかな……」
「みかんさんも異世界の人だよね、ベロニカさん」
「みかんさん。みかんさんって……うちの近くのあのみかんちゃん……おネエの……」
其のカブスの背後でヴヴヴ……と振動する透明のドアが形を現す。ドアは硝子で其の向こうは明かりが眩く、小さな音で音楽が流れている。カブスは瞼を開け振り向いた。
「お…此れは夢であろうか……」
暫く瞼をしばたいているうちに、頭に水色の三角巾をカチューシャで止め寝間着にガウンを羽織った修道女たちが走って来た。修道女たちは頬を上気させて互いに微笑み合いカブスの横を通って硝子のドアに向かった。硝子のドアが自然に開く。「きゃあ」嬉しげな声が上がる。
「夢だな……」
隊列を組んだ修道女の群れが、タコの館の裏口から硝子のドアの前に続く。各各の手には日本円の入った財布が握られている。以前に、修道女の持って来る金貨や宝石類を鑑定させたコンビニ店主が換金してくれた日本円で、既にチャージしてカードを持つ者もいた。
カブスは硝子のドアが開いた時、修道女の後ろに割り込んで店内に入った。棚に見たことのない商品が並ぶ。籠を片手に修道女たちがきゃあきゃあ騒いで商品を爆買いする。その商品をカウンターで財布から出した模様のある紙切れと交換した。
「紙切れで買い物できるのか……おっ、あれは占い師が使うカードではないか……支払いは何でも良いのか……」
修道女たちの間をスタッフが忙しそうに商品補充している。旨そうなケーキが目に入った。嘴で突っついてみる。するといきなり後頭部をパコンとやられた。星が散る。スタッフに長い首を握られて宙吊りにされ、店外に放り投げられた。
「私はリンジャンゲルハルト帝国のノアル様付きの灰色侍従であるぞ。其の下に黒色侍従が十二人、其の下に土色侍従と紺色侍従が……」
「カブス様……あ、あはは……間違えた。侍従様……」
ファンビーナがカブスに屈み込んだ。
「おお、ファンビーナ。お前も買い物か……」
「買い物……買い物できるのですか……では私も並んでみます。いえ、宮殿で頂いた金貨がありますので……」
ファンビーナは急いで屋敷の中に消えた。修道女の群れは十五人づつ十分、出てくる人数と入っていく人数が軍隊のように正確に決められていた。
「ベロニカさん。お久しぶりです」
若い跡継ぎ店主が微笑んだ。父親が亡くなり店を継いだと手短に話す。そして「手伝ってもらえませんか。中に入ってください」。
二つあるレジは満員だった。ベロニカは店主の側でレジ袋に商品を入れる仕事を任された。商品が潰れないように手際よく詰める。二人で効率よく仕事をこなして雑談する時間もあった。
「今度一緒に食事に行きませんか。私はフランス料理を食べてみたいと思っているのですが、一人身で誘う相手もいないので、是非お願いしたいのです」
「フランス料理って……マンガで読みました。私も興味があります」
店主はベロニカの答えが気に入ったらしく破顔して、早速だけど何時が良いかと聞く。
「此処に来れる日がわからないのです。住んでる世界が違い過ぎるので……」
店主はベロニカの答えに打ちのめされて「住んでる世界が違い過ぎる……」と呟く。
修道女の最後の群れにタコがいた。
「だったら見せてあげるよ。カウンターから出て此方に来て」
タコは店主の手を引いて硝子の自動ドアを通過した。夜の空気が冷たいサンダー王国の、都心から離れた山奥の館。其の庭の一角から世界の一部が見える。遠くに幾つもの金色の旗をはためかせ聳えるサンダー王国宮殿。其の遥か向こうに港があり、まさしくダイヤモンドを散りばめた煌めく星空が広がる。ファンタスティックで荘厳な夜景だ。
「此処は……」
「サザンダーレ王国」
「サザンダーレ王国……何処ですか……サザンダーレ王国…って……え……日本語通じる……え……え……あれかな……私……異世界転移しているのかな……」
「みかんさんも異世界の人だよね、ベロニカさん」
「みかんさん。みかんさんって……うちの近くのあのみかんちゃん……おネエの……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる