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第十四章 三日目の夕方
(4)アリカサロメとピアバラン
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魔の海テリンエレーズ海は二つの海溝を含む広大な黒い海だ。其の二つの海溝には其々魔物が住んでいる。東のアリカサロメ海溝には巨大蛸の姿を取るアリカサロメが住み、西のピアバラン海溝には巨大烏賊の姿を取るピアバランが住む。姉妹の魔物はテリンエレーズ海に生息する人魚達の支配者だ。
サンダー王国の片隅で、物知りの老人が子供達に昔話を語る。
「エスメラルダ将軍は幼い頃に父親の軍艦に忍び込んだことがあった。そしてドラゴルーンとの戦いに破れた父親の船から落ちた」
「ええっ、大変だ。そしてどうなったの、ねぇ、どうなったの」
「まだ幼いエスメラルダお嬢様は人魚たちに拾われ、名もない幻の島で世話を受けた。そして人魚と暮らすうちに人魚の言葉を覚え、魔の海テリンエレーズ海が遊び場になったのだ」
「すごおいぃ。」
数年経って、再び父親の軍艦がテリンエレーズ海を通った。エスメラルダを死んだものとして涙にくれていた父親は、娘との再会を喜んで人魚の支配者に挨拶した。
『何者にも換えがたい私の娘を守り育ててくださったご恩は忘れません。しかし、どのようにお礼を申し上げれば良いのだろうか』
アリカサロメとピアバラン姉妹は父親と契約を結んだ。エスメラルダが大人になったら軍艦乗りにすることを。テリンエレーズ海にいる限りエスメラルダを危険な目に遇わせないが、エスメラルダには生け贄を要求した。其れは男の命。アリカサロメとピアバランは人間の男を食らう魔物だった。
「明日から戦争が始まる。エスメラルダ将軍は、リンジャンゲルハルト帝国の兵士どもを海の藻屑とするだろう」
其れは老人の願いでもあった。老人の身近な娘がリンジャンゲルハルト人の狼藉の為に修道院に隠った。
「「「わぁい。エスメラルダ将軍、奴らを全員アリカサロメとピアバランの餌食にしてやれぇぇぇ」」」
子供達の反応に万人の味方を得た気分になって、老人はほくそ笑む。
「そうだ。リンジャンゲルハルト帝国など潰してしまえ」
暗い喜びだが、老人にとっては生きる希望だった。
話題のエスメラルダは魔の海テリンエレーズ海で夕げを楽しんでいた。揺れることのない船は魔の力に守られている。
「将軍、リンジャンゲルハルトを包囲する為に白髭軍には南西に待機させてありますが、白髭老公はご高齢なので副将のミルカナが指揮を取るかもしれません」
「ミルカナは副将任命の時にアリカサロメとピアバランの祝福を受けている。心配ない。それともお前が乗り込むか……いや、エリンゲータがいなければ困る」
困ると言われてエリンゲータは笑った。
「将軍、ミルカナは切れ者です。指揮権に依存はありません。ただ、あの地域は岩場が多い。功を焦って座礁したら……」
「成る程、ミルカナが座礁の危険に気づかないと……」
「初めての指揮なら……」
「わかった。其なら今のうちに白髭のご老公に鳥を飛ばせ」
白髭軍は四百人乗務できる軍艦が二十四隻と二百人軍艦が百隻余り、其の他を含めて百三十五隻。大所帯だ。エスメラルダの指揮下にあるとは言え白髭老公も将軍の一人、しかもエスメラルダの父親とはドラゴルーン戦時代の戦友だった。
副将ミルカナは白髭老公の孫に当たる。ドラゴルーン休戦以前はエスメラルダの船に勤務していた。軍艦乗りの経験は長い。
マリラに似ている……と副将エリンゲータが嫌い、厄介払いをした。
「明日は開戦だ。朝は早い。皆も休め」
エリンゲータの声がする。
「明日は血に餓えた猛獣の如くリンジャンゲルハルトを餌食にしてやれ。アリカサロメとピアバランに捧げるのだ。さぁ眠れ。眠れ。たっぷり休養を取れ」
リンジャンゲルハルトから静かに青い軍艦が出た。
「エスメラルダめ。魔の海テリンエレーズ海を出た処で沈めてやる」
サンダー王国の片隅で、物知りの老人が子供達に昔話を語る。
「エスメラルダ将軍は幼い頃に父親の軍艦に忍び込んだことがあった。そしてドラゴルーンとの戦いに破れた父親の船から落ちた」
「ええっ、大変だ。そしてどうなったの、ねぇ、どうなったの」
「まだ幼いエスメラルダお嬢様は人魚たちに拾われ、名もない幻の島で世話を受けた。そして人魚と暮らすうちに人魚の言葉を覚え、魔の海テリンエレーズ海が遊び場になったのだ」
「すごおいぃ。」
数年経って、再び父親の軍艦がテリンエレーズ海を通った。エスメラルダを死んだものとして涙にくれていた父親は、娘との再会を喜んで人魚の支配者に挨拶した。
『何者にも換えがたい私の娘を守り育ててくださったご恩は忘れません。しかし、どのようにお礼を申し上げれば良いのだろうか』
アリカサロメとピアバラン姉妹は父親と契約を結んだ。エスメラルダが大人になったら軍艦乗りにすることを。テリンエレーズ海にいる限りエスメラルダを危険な目に遇わせないが、エスメラルダには生け贄を要求した。其れは男の命。アリカサロメとピアバランは人間の男を食らう魔物だった。
「明日から戦争が始まる。エスメラルダ将軍は、リンジャンゲルハルト帝国の兵士どもを海の藻屑とするだろう」
其れは老人の願いでもあった。老人の身近な娘がリンジャンゲルハルト人の狼藉の為に修道院に隠った。
「「「わぁい。エスメラルダ将軍、奴らを全員アリカサロメとピアバランの餌食にしてやれぇぇぇ」」」
子供達の反応に万人の味方を得た気分になって、老人はほくそ笑む。
「そうだ。リンジャンゲルハルト帝国など潰してしまえ」
暗い喜びだが、老人にとっては生きる希望だった。
話題のエスメラルダは魔の海テリンエレーズ海で夕げを楽しんでいた。揺れることのない船は魔の力に守られている。
「将軍、リンジャンゲルハルトを包囲する為に白髭軍には南西に待機させてありますが、白髭老公はご高齢なので副将のミルカナが指揮を取るかもしれません」
「ミルカナは副将任命の時にアリカサロメとピアバランの祝福を受けている。心配ない。それともお前が乗り込むか……いや、エリンゲータがいなければ困る」
困ると言われてエリンゲータは笑った。
「将軍、ミルカナは切れ者です。指揮権に依存はありません。ただ、あの地域は岩場が多い。功を焦って座礁したら……」
「成る程、ミルカナが座礁の危険に気づかないと……」
「初めての指揮なら……」
「わかった。其なら今のうちに白髭のご老公に鳥を飛ばせ」
白髭軍は四百人乗務できる軍艦が二十四隻と二百人軍艦が百隻余り、其の他を含めて百三十五隻。大所帯だ。エスメラルダの指揮下にあるとは言え白髭老公も将軍の一人、しかもエスメラルダの父親とはドラゴルーン戦時代の戦友だった。
副将ミルカナは白髭老公の孫に当たる。ドラゴルーン休戦以前はエスメラルダの船に勤務していた。軍艦乗りの経験は長い。
マリラに似ている……と副将エリンゲータが嫌い、厄介払いをした。
「明日は開戦だ。朝は早い。皆も休め」
エリンゲータの声がする。
「明日は血に餓えた猛獣の如くリンジャンゲルハルトを餌食にしてやれ。アリカサロメとピアバランに捧げるのだ。さぁ眠れ。眠れ。たっぷり休養を取れ」
リンジャンゲルハルトから静かに青い軍艦が出た。
「エスメラルダめ。魔の海テリンエレーズ海を出た処で沈めてやる」
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