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第十五章 三日目の夜
(1)ラーポは引き返せない&タコが苛つく&人魚達
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ガーネットとセレーネの箒が高速で遠ざかる空をバックに、ラーポはリンジョネルラを掻き抱く。細身のわりには豊満なリンジョネルラの胸がむぎゅつとくっつく。
「駄目……」
「あぁん、何が駄目なの、ラーポ」
ラーポは答える代わりにキスした。お別れに来たというのにやることは思いと裏腹で、後々この時の衝動がラーポの首を締めることになるのだが、ラーポは後先考えず衝動に従う。
ベランダで熱い抱擁と甘いキスを繰り返す二人を、ガリラヤが見つけた。
「お……王女様……」
ベランダの片隅でツィフィーネがサライランに囁く。
「なんだ、つまらない。ガリラヤは唐変木だからちっとも進展しない。応援する気がなくなるほど唐変木だ」
「まあまあ、そう言わずにツィフィーネ殿。ガリラヤには立場があるからな」
「王女様、ベランダでは身体が冷えます」
何故こんなことしか言えないのだとガリラヤは暗くなる。
「ガリラヤ、折角ラーポが来てくれたのに邪魔しないで」
ラーポとぴったりくっついたままリンジョネルラが答える。
「お部屋にお入りください、王女様。外は危険です」
「ふうん……其の立場を越えさせたら面白いではないか、サライラン殿」
「今のリンジョネルラ王女にガリラヤはどうかな……シュタイナーとの記憶を蘇らせた方が早いかもしれない」
「記憶……」
「王女は記憶のほとんどを失って、ラーポのことだけが鮮明に焼き付いているのだが……」
「記憶か……私もクバラパーズのことしか覚えていない」
「クバラパーズ……」
「会いたいものだ、クバラパーズ。私は此の世界のクバラパーズを探している」
リンジョネルラはラーポの手を引いて寝室に向かう。二人の姿を見送って、ガリラヤは項垂れた。
抱き合って口づけしているのを確かに見た。リンジョネルラ王女様とラーポが……此の国は確かにLGBTは多いが……まさか王女様が……
「情けない、ガリラヤ。お前、本心を見せないんだな。其では気づいてもらえないぞ」
ツィフィーネがガリラヤの耳元で唆す。
ガリラヤは頭を振って控え室に戻った。
ツィフィーネはサライランに肩を竦めて見せた。
***
タコは苛つく。開戦前夜に婢呼眼が来ない。
ボクは従者だ……従者は戦争にだって付いて行くものだ。修道女さんは自分たちで料理も洗濯もできるけど、婢呼眼はできないじゃないか……
できないのかやらないのか……
戦争中は下っ端の兵士が遣われるのかな。
婢呼眼も戦線に出るのかな……
五年前はどうだったのかな……
婢呼眼達が軍義を開いていた野戦場のテントの上にドラゴルーンが現れて、ガーネット将軍が其のドラゴルーンの腕をぶった斬った。其れで、そこにいた将軍も軍師も皆、飛ぶ者になったと聞く。
ボクはいなかったからね、五年前は。まだ、婢呼眼に見いだされていなかったからね。だから、ドラゴルーンの血を被るチャンスはなかったんだからね。
だから要らないのか……
何で呼びに来ないのかな……
あぁ、苛つく。カブスでもぶった斬ろうかな……
旨いし、調理が簡単だし、修道女さん達でも料理できるし、煮ても焼いても旨いし、羽使えるし、足だって出汁が取れるし、捨てるところないし、カブスには栄養の他にも癒す力があるし、旨いし、腐りにくいし、簡単だし、旨いし、羽使えるし、煮ても焼いても旨いし……
あぁ、苛つくっ……
エスメラルダ軍は弧を描いて、リンジャンゲルハルト帝国の海岸線を望む魔の海テリンエレーズ海に十万軍を配置した。開戦前夜、全てがエスメラルダの号令を待っている。
「三秒で終わらせてやる」
甲板で夜風に軍服を翻らせながら独り言で宣言する。
「エスメラルダ……眠れないの……」
人魚達が船の回りに集まっていた。金や銀の髪が海面にきらきらと広がる。臼桃色の髪の人魚が言った。
「私達はあなたの味方よ、エスメラルダ。お眠り……」
母と慕ったカーラだ。幼い頃、人魚の島で育ててくれた。言葉を教え泳ぎ方を教えてくれた。船から投げ捨てられた男を助けて子供を作るやり方も見ていた。人魚達は隠さなかった。終われば男は死ぬ。そんな生き物だと思って育った。父上は違うのだと思った。軍艦の他の兵士達も、子供を作ると死ぬのだと思っていた。人魚の世界で男が生き続けることはない。半魚人は別だが……
「カーラ……眠れないのはいつものこと。今夜は酒が足りん」
「エスメラルダ。あなたには一つだけ内緒にしていることがあるの……いつか教えてあげる。あなたは癒されて眠れるようになるはず」
「内緒……一つ……母さん、何故、今教えてくれないの……」
「ふふふ……エスメラルダが可愛いからよ。愛しているわ」
「私も……」
他の人魚達も口々に「愛しているわ、エスメラルダ」「私達は仲間よ」と言った。
「駄目……」
「あぁん、何が駄目なの、ラーポ」
ラーポは答える代わりにキスした。お別れに来たというのにやることは思いと裏腹で、後々この時の衝動がラーポの首を締めることになるのだが、ラーポは後先考えず衝動に従う。
ベランダで熱い抱擁と甘いキスを繰り返す二人を、ガリラヤが見つけた。
「お……王女様……」
ベランダの片隅でツィフィーネがサライランに囁く。
「なんだ、つまらない。ガリラヤは唐変木だからちっとも進展しない。応援する気がなくなるほど唐変木だ」
「まあまあ、そう言わずにツィフィーネ殿。ガリラヤには立場があるからな」
「王女様、ベランダでは身体が冷えます」
何故こんなことしか言えないのだとガリラヤは暗くなる。
「ガリラヤ、折角ラーポが来てくれたのに邪魔しないで」
ラーポとぴったりくっついたままリンジョネルラが答える。
「お部屋にお入りください、王女様。外は危険です」
「ふうん……其の立場を越えさせたら面白いではないか、サライラン殿」
「今のリンジョネルラ王女にガリラヤはどうかな……シュタイナーとの記憶を蘇らせた方が早いかもしれない」
「記憶……」
「王女は記憶のほとんどを失って、ラーポのことだけが鮮明に焼き付いているのだが……」
「記憶か……私もクバラパーズのことしか覚えていない」
「クバラパーズ……」
「会いたいものだ、クバラパーズ。私は此の世界のクバラパーズを探している」
リンジョネルラはラーポの手を引いて寝室に向かう。二人の姿を見送って、ガリラヤは項垂れた。
抱き合って口づけしているのを確かに見た。リンジョネルラ王女様とラーポが……此の国は確かにLGBTは多いが……まさか王女様が……
「情けない、ガリラヤ。お前、本心を見せないんだな。其では気づいてもらえないぞ」
ツィフィーネがガリラヤの耳元で唆す。
ガリラヤは頭を振って控え室に戻った。
ツィフィーネはサライランに肩を竦めて見せた。
***
タコは苛つく。開戦前夜に婢呼眼が来ない。
ボクは従者だ……従者は戦争にだって付いて行くものだ。修道女さんは自分たちで料理も洗濯もできるけど、婢呼眼はできないじゃないか……
できないのかやらないのか……
戦争中は下っ端の兵士が遣われるのかな。
婢呼眼も戦線に出るのかな……
五年前はどうだったのかな……
婢呼眼達が軍義を開いていた野戦場のテントの上にドラゴルーンが現れて、ガーネット将軍が其のドラゴルーンの腕をぶった斬った。其れで、そこにいた将軍も軍師も皆、飛ぶ者になったと聞く。
ボクはいなかったからね、五年前は。まだ、婢呼眼に見いだされていなかったからね。だから、ドラゴルーンの血を被るチャンスはなかったんだからね。
だから要らないのか……
何で呼びに来ないのかな……
あぁ、苛つく。カブスでもぶった斬ろうかな……
旨いし、調理が簡単だし、修道女さん達でも料理できるし、煮ても焼いても旨いし、羽使えるし、足だって出汁が取れるし、捨てるところないし、カブスには栄養の他にも癒す力があるし、旨いし、腐りにくいし、簡単だし、旨いし、羽使えるし、煮ても焼いても旨いし……
あぁ、苛つくっ……
エスメラルダ軍は弧を描いて、リンジャンゲルハルト帝国の海岸線を望む魔の海テリンエレーズ海に十万軍を配置した。開戦前夜、全てがエスメラルダの号令を待っている。
「三秒で終わらせてやる」
甲板で夜風に軍服を翻らせながら独り言で宣言する。
「エスメラルダ……眠れないの……」
人魚達が船の回りに集まっていた。金や銀の髪が海面にきらきらと広がる。臼桃色の髪の人魚が言った。
「私達はあなたの味方よ、エスメラルダ。お眠り……」
母と慕ったカーラだ。幼い頃、人魚の島で育ててくれた。言葉を教え泳ぎ方を教えてくれた。船から投げ捨てられた男を助けて子供を作るやり方も見ていた。人魚達は隠さなかった。終われば男は死ぬ。そんな生き物だと思って育った。父上は違うのだと思った。軍艦の他の兵士達も、子供を作ると死ぬのだと思っていた。人魚の世界で男が生き続けることはない。半魚人は別だが……
「カーラ……眠れないのはいつものこと。今夜は酒が足りん」
「エスメラルダ。あなたには一つだけ内緒にしていることがあるの……いつか教えてあげる。あなたは癒されて眠れるようになるはず」
「内緒……一つ……母さん、何故、今教えてくれないの……」
「ふふふ……エスメラルダが可愛いからよ。愛しているわ」
「私も……」
他の人魚達も口々に「愛しているわ、エスメラルダ」「私達は仲間よ」と言った。
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