つまずいたら異世界へ

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第十七章 開戦一日目の昼 戦争

(2)やめろ

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「出撃したんですか、軍師長も……」

「止める間もありませんでした。バイクの後ろに股がって続けえと号令して、行ってしまわれたのです」


みかんがベロニカに頼み込んで軍師長の部下に会わせてもらった時は既に、全てのバイクが爆音と共に遠くに消えた後だった。

作戦本部テントでは、数名の軍師と青い鳥二人と白い鳥一人が、共にリンジャンゲルハルト帝国のジオラマの宮殿部分を指差して作戦の確認をしているところだ。他に、軍医らしき白衣の男女が数名いる。


「そんなぁ。やっぱり戦争なのね。遠くから聞こえる花火のようなあの音は、もしかしたら……」

「聞こえますか。此処はだいぶ離れているのですが、何せ数十隻の軍艦の砲弾がリンジャンゲルハルトに」


若い軍師の頬が輝く。


「やめて、やめて、戦争の話はやめてぇぇ。私は沖縄人よ。沖縄戦のむごさを聞いて育ったのぉ。あんたたちは知らないよね、沖縄戦。女や年寄り、小さな子どもも酷い目にあったのよ。防空壕って知ってる。それが足りなくてね、山の中に逃げたり、夜中、死体の浸かった水溜まりの水をそれと知らずに飲んだり、家族が目の前で撃たれて殺されたり……そんなことを誰も経験すべきではないわよぉぉぉ」


ドォォォン……みかんの声を遮るように砲撃の音が炸裂した。リンジャンゲルハルト帝国から近くに打ち込まれたものらしい。


「やめろぉぉぉぉ……」


思わず叫ぶ。


「みっ、みかん様、男に戻ってます」

「うるさいわよ。今はそんなことはどうでもいい。戦争を止める方法は何かないの」


完全に男声になっているが話し方は女っぽい。
ドォォォン……ドォォォン……地を揺るがす爆音が右に左に聞こえる。


「今に、此処に撃ち込まれるんじゃないの」

「そんなことはあり得ません。敵の砲弾の飛距離は知れていますから。此処は十分安全地帯です」

「そ、そうなの。でもね、戦争は止めるべきよ。戦争絶対反対よ」


みかんの胸に激しい後悔が渦巻く。


何でもっと強く反対を表明しなかったのだろう、あたし。軍師長と一緒にバイク屋に行ったりしながら、国際通りを歩きながら、軍師長が戦争のことばかり考えている人だと知っていながら、何で、何で、何でもっと強く、戦争反対だと言えなかったのぉ……みかんのバカぁぁ……うぅぅ……辛い……どうすればいいの……どうすれば……


「どうすればいいのぉ……」


叫び声になった。


「大丈夫ですよ、みかん様」


青い鳥がにっこり笑う。


「みかん様。軍師長にみかん様がいらしていることをお伝えします」


青い鳥は若い軍師に了承を得て、出来れば婢呼眼に戻って来るようにと伝言を託されて飛び立った。


「みかん様、此処にお座りください」


お茶が出てくる。作戦本部の周りにある幾つかのテントには、近くの陣営の補給品等があるらしい。馬車に荷積みをしているのが、テントの入り口から見える。

みかんは裸にシーツをぐるぐる巻きにした姿だったことに気づいて、少し恥ずかしくなった。


あたし、バカだわ。こんな格好で……
ううん、仕方ないじゃない。バスタオル一枚で此の世界に転移しちゃって、修道服は入るサイズがなかったんだから。
でも、戦争を止めさせるのが第一義よ。やめさせなくては……軍師長によおおおおおおく話をすればわからない訳ではないと思う。

何であたしが此の世界に来たのか、今ならわかる。戦争を止めさせるのがあたしに課せられた使命……そうよ、やめさせなくては。

戦争で解決できることなんて、たかが知れてる。大勢の無関係の人間の命を犠牲にしてまでやることではない。例え戦争後の世界が激変するとしても、戦争で達成すべきではない。

軍師長はハザードだと言った。聖戦だと……そして、二度と戦争のない世の中を作ると……
違う。違うの、軍師長……

どんなハザードも人間を変えることはできない。例え軍師長が戦争のない世の中を作っても、其れは戦争で作った世の中よ。戦争を支持しているのも同じ。
そして軍師長の時代が過ぎればまた人の野心は戦争を支持する。勝てば官軍、正義の側だから、歴史は繰り返し戦争するの。戦争に頼らずに問題解決する知恵を持たなきゃ、人類は戦争し続けるの。
そう。戦争をしないで問題を解決する知恵を持つべきよ。戦争では根元的な問題は解決できない。
軍師長、あなたの知恵は其の方向に発揮すべきよ。
あたしはきっと、そのことを伝える為に此の世界に飛ばされたのだわ……
軍師長の意識を変えて戦争を止めさせる為に……




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