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第十九章 開戦一日目の夜
(5)恋敵登場
しおりを挟む「ブーちゃん、いる」
ラーポの声がした。暗闇の中で目の慣れてきたみかんにははっきりとラーポの姿が見える。ラーポは壁伝いにゆっくりと歩く。
ウサギヘアが青く光っている。ブルー・タニアンの血を拭った時から髪色が染まって、洗っても落ちない。薄暗い中で顔はぼんやりとして表情は読めない。艶やかな甲冑を着ていることに、みかんは驚いた。婢呼眼のニーハイブーツのせいで足は見えないが、太ももの一部が見える。
「ラーポ、此処よ」
「その声、みかんさん。見えないけど元気」
「元気元気。どうして此処に来たの」
「ブーちゃんにお土産持って来たのよ。でっかいクッキーよ。重い」
暗くてよく見えないが、確かにラーポはサンタクロースじみた袋を背中に担いでいるらしい。みかんは立ち上がってラーポに近づいた。
「持ってあげる。あら、本当に美味しそうな匂い」
ブルー・タニアンの前にラーポの手を引いて歩く。
「あ、ブーちゃん。大きな目玉。久しぶり」
「そんなに久しぶりでもないが、元気にしていたか、ラーポ」
「まあね。それはソゴドモ村からの差し入れ。あのさ、今日は折り入って頼みたいことがあって来たのよ」
ラーポの前にツィフィーネが立っているのがみかんには見える。ラーポはツィフィーネの存在には反応せずにブルー・タニアンを見上げた。
「私は今、リンジャンゲルハルト帝国にいるの。客人として世話になっている。守りたい人もできた」
決意を秘めた眼差しが真っ直ぐにブルー・タニアンに向かう。
「お前はケイツアーを私から奪うと言っていなかったか」
皮肉めいた口調だが、怒ってはいない。
「ごめん、ブーちゃん。私はどうにかしていた。いいえ、今がどうにかしているのかもしれない。けれど、リンジャンゲルハルト帝国にはあなたの力が必要なの。お願い、私に力を貸して」
ラーポは率直だ。
「力を貸せばどうなる」
「リンジャンゲルハルト帝国を守ることができる。何故、婢呼眼軍師長がリンジャンゲルハルト帝国を叩き潰そうとするのか私にはわからない。事情があるにしても、みんなが悪いわけではない。少なくとも私は善良な人々を知っている。戦争しなければならないなら、軍人同士で砂漠ででもすれば良い」
飾ることなく素直に気持ちを吐露した。
みかんも横で頷く。
「そうよ、戦争は間違っている。婢呼眼軍師長を止めなければ、大勢死ぬ。ブルー・タニアン様、あなたは私を支持してくれるのですよね。私、皇帝にでも何でもなる。戦争を止めさせることができるのであれば」
「みかんさん、何を言っているの」
「良く言った、みかん。俺様はお前に同意する。戦争を止めさせよう」
「あ、有り難うございます」
「す、凄い、みかんさん。嬉しい……流石、ブーちゃん。話が分かる……ううっ」
ラーポは涙を流した。
この異世界に来て随分虚勢を張って頑張って来た。悩み、迷い、大切なことは命を守ることだと、ブルー・タニアンの元に飛んで来た。それは決死の思いだったが、ブルー・タニアンの言葉にポキッと箍が外れたのだろう。涙にはそういう訳があった。
ツィフィーネが嘲笑う。
「ふぉっふぉっほほほ。ああ、楽しみだ。其れでは私は婢呼眼の元に参ろう。暫しのお別れです、ブルー・タニアン殿。みかん、お前もせいぜい私を楽しませてくれよ」
白い影は消えた。
ラーポには見えないが、ブルー・タニアンとみかんの心には、ツフィーネの黒々とした影響が残る。
ダンジョン入り口に馬のいななく声が聞こえた。リンジャンゲルハルト帝国の新神宮大臣こと白百合のシュタイナーの到着だ。こちらも白皙の顔に必死の形相でやって来た。ランタンで足元を照らしながら「失礼致します。再び、リンジャンゲルハルト帝国のシュタイナー・タンジャリンが御尊顔を拝しに参りました」と声をかける。
シュタイナーはみかんとラーポの姿を発見して固まった。
「お、そなたたちはいずれの者だ」
ラーポも固まった。
ガリラヤが見せた絵皿の顔だ。リンショネルラ王女の許嫁、新神宮大臣シュタイナー・タンジャリン。若き武将として名を馳せ名君の期待大きいリンジャンゲルハルト帝国のエース。私の恋敵……
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