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) 吐息と甘い枷に
しおりを挟む雨に洗われて息を吹き返した緑。
木々に囲まれた小路の、玉砂利の上に敷いた絨毯に降りる。
少し歩いて、正清はまだ柔らかな空気を愉しむ。
笑顔で天皇を振り返った。
「嬉しい。連れてきていだけてとても嬉しい。宮殿の手入れされたお庭も美しいけれど、ここはまた全くの自然の美しさが……
こんなに美しい眺めを知らずに、私は勝手に歌など歌っていたのですね。恥ずかしいやら、嬉しいやら、跳び跳ねたい気持ちです」
駆け寄ろうとする正清を天皇は大股の数歩で捉える。自らの勢いで抱きとめられて、正清はふふと笑った。
天皇の腕に、以前には心臓が持たないかと思うほど震え上がり真っ赤になっていた正清だったが、それも月日がたつにつれていよいよ魔物のように美しく天皇を喜ばせる顔になった。
「私だけ。今、お側にいられるのは私だけ」
「お前だけだ。いつも、この先も」
正清の散策する周囲1キロ圏内には、護衛の者が邪魔にならないように潜んでいる。
パルチョドゥーリャーを処刑して政治的にも国を納める者としては成功した天皇だが、多くの恨みを買っている。
復讐者は正清を狙うだろう。
大方の者もそう予想して、今回の墓参りには反対の声も上がった。
左パルチョ・ドゥーリャー補佐官も、反対した一人だ。
事前に寺周辺の安全確認の目的で兵を連れて駐屯している。
まさかその補佐官が、正清暗殺の別命を受け、二心を抱いて潜んでいるとは思わない天皇だ。
左パルチョ・ドゥーリャー補佐官は泰通に「もしもの時にはどうする」と尋ねた。
「あってはならないことです。結果は成功しかありません。ご心配なさらずに」
補佐官の杞憂に終われば泰通も死なずに済む。
だが、どうしても、望まぬ結果に対処することを考えて泰通を抱き締めた。
泰通、済まぬ
お前を切り捨てて
死なせることに
なるかもしれぬ
泰通も吐息のようにひっそりと想いを飲み込む。
私の命は大事のための
捨て駒になるのですね
私はまだあなた様に
お伝えしていないことが
ありました
私自身にもわからない
そんな儚い想いですが
ザカリアンベロウの匂いに迷わされた始めての夜を思い出す。
あの時からこのように画策されて、その中に組み込まれていたのだと泰通は観念したように瞼を閉じた。
権力欲は闇の中を蠢く。犠牲者に枷を嵌めようと甘く絡めとる。泰通は微かに匂うザカリアン・ヴェロウに身を漂わせて涙のような声を漏らした。
「必ず……生きて……」
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