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第三章 猫を飼う
(5)猫と小魚と
しおりを挟む猫当番の夜だ
「お前、スマホ画像山ほど撮りながら何で泣くのだ」
あれ、涙を流しているのは魔王じゃないの
「俺様ではない。俺様は泣かない」
嘘……
この前、猫拐いする前に泣いたじゃない
目高の意見に感動して
「俺様は人間に感動などしない」
魔王、あんまり正直ではないね
「そんなことよりも、猫は腹を空かせてないか」
今先、カリカリとチュールをあげたばかりだよ
「生肉が食いたいかと思って」
ひええええ、ナマニク……
そんな危険なモノは止めて
「海に行くか。魚なら良いだろう。俺様は刺身が好きだ」
刺身ね
たまに出るからね、夕飯に
「お前の母親はあんなに美人なのに何でお前はブスに生まれたんだ」
魔王、あんたが憑依しているからだよ
「俺様に憑依されて美しくはなったけどな」
ほざいてください
心行くまで
私が泣いたのは多分
猫ちゃんの目が無事だったからかも
目やにだらけで開かなかった目が
綺麗な緑色のオッド・アイだったことに
目高が泣いた
教室中に感動の輪が広がって
みんなが手を取り合って喜んでいた
魔王って、悪魔ではないよね……
「当たり前だ。悪魔ではない。あんな下等動物と一緒にするなと言ったはずだ」
私はお姉ちゃんを自殺にまで追い込んだ奴等を探そうと思っていたけど、木葉の君に話しかけられて、イジメの対象にされて「キレイナカオシテイル」って、それもまたイジメの理由にされていたんだよ
「あの時か。お前が便座を抱っこしてた日の」
あ、そうだ
魔王、聞きたいことを忘れていた
何で私に憑依したの
「お、お前忘れたのか。俺様の嫁になると言ったじゃないか」
えっ……
い、いつ、そんなことを……
「前の晩だ。泣きながら叫んだだろう。魔王の嫁になって復讐すると」
あ……
忘れていた
「お前は俺様を騙すつもりだったのか」
え……
何を宣っていらっしゃるのか
おほほほほ
「それより海だ。猫を抱け」
待って、待ってえええ
……
いきなり移動なんて
私はパジャマ姿なのに……
「泳ぐか。すっぽんぽんになって」
嫌です
勝手に脱がさないでください
「猫が喜んでいるぞ」
波が面白いのかしら
「魚を獲らせてやろう」
波打ち際に小魚が跳ねてる
こんなことがあるの
「俺様の力だ。どうだ、惚れたか。嫁よ」
え、もう嫁なの
親がショックを受ける
私は死にたくなかったけれど
魔王が現れなかったら
あの時の結果は自殺だったかもしれない
お姉ちゃんを自殺に追い込んだ相手が誰だか
全然わかっていないのに
死んで堪るかって
そう言えば前の晩に泣いていた
あれ、魔王……
私、泣いていたのは
前の晩だけじゃないよ
いつもだよ
いつも、神にも悪魔にもあらゆる神仏に
祈りを捧げて
「お前はバカだなぁ。あらゆるモノに祈るからお前の取り合いで神仏が牽制し合っているんじゃないか。大体、人間という奴らは目に見えない世界を知ろうとし無さすぎる」
あれ、魔王
みんなが牽制し合っていたなら
魔王は何で出てこれたの
「俺様は盗塁したのだ。あらゆるモノたちが牽制し合っているうちにな。わははは」
はあ、じゃあ、私が嫁になると祈ったってのは……
「あ、あれか……ま、そんな処だ」
何がそんな処なのよ、全く……
私よりも篠田さんがお気に入りのクセに
「妬くな。人間の嫉妬は悪魔の餌だ。俺様は正義の側だからな」
猫は波打ち際に跳ねる魚を追って遊んでいる。魔王が治してくれた足もすっかり心配無くなった。
猫は不思議だ。
死にかけていた年寄りのブス猫が
こんなに可愛くなって
まるで子猫のように跳ねて喜ぶなんて
「お前もな。イキイキしているぞ。飛ぶか」
黒い羽根が広がる
背中から羽根にパワーがみなぎる
羽根が空をひと掻きするまでもなく
身体がふわりと浮く
私の眼下に海が広がっていた
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