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プロローグ 死亡

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 それは高校3年生の卒業式の出来事だった。
 黒木絵里クロキ エリは、いつもの通学路を歩いていた。

(この道を歩くのも今日で最後か・・・)

 来月から東京の大学に通う予定なので、明日には新居へ引っ越す予定だ。
 父親と一緒に物件を探して見つけたお洒落なワンルームのマンション。
 友人と別れるのは寂しいが、初めての一人暮らしにワクワクと不安で胸がいっぱいだった。

 交差点の信号機が赤になって止まった所で、道路の向こう側で手を振ってくる人がいる事に気が付いた。

「クロエ~!」

 クロエは、友人から付けられた黒木絵里の愛称だった。
 
「ミナ~!おはよう!」

 クロエは、友人に手を振りかえした。

 キキィー!!

 その時、耳障りなブレーキ音を上げながら大型トラックがクロエのいる交差点に突っ込んできた。
 トラックは、赤信号を無視して渡ろうとした男子高校生を避けようとハンドルを切ってスリップした様だ。
 完全にコントロールを失っており、避けきれずに男子高校生を跳ね飛ばした上に、クロエが立っている場所へ突っ込んできた。

(あれ?これって・・・死ぬんじゃ)

 グシャ!!

 これが、クロエが日本に生まれて18年間の幕を閉じた日の記憶だった。



 次に目を覚ました時、クロエは真っ白な部屋の中で立っていた。

「あれ、私生きてる?」

 クロエは、自分の身体を確認してみるが、紺色の制服姿のままだった。

「ようこそ、異世界から来た勇者よ」

 いつの間にかクロエの前に現れたのは、白銀の髪を持つ美女だった。

「私は女神エリス、不幸な事故で死んだ貴方の魂を私が統治する世界アレスに導く為に召喚しました」

(これって、もしかして異世界転生モノで良くある例のアレ?)

 本好きのクロエは、この状況をいち早く理解した。
 
(って事は、勇者としてチートな能力とか加護を貰って、オレツエーしながら異世界を救っちゃう的な感じ?)

 クロエは、ワクワクしながら瞳を輝かせて女神エリスを見つめる。

「異世界?勇者?何だそりゃ?変なこと言ってないで、出口を教えろ!」

 クロエは咄嗟に後ろを振り返ると、黒髪の男子高校生が立っていた。

「あれ?さっき信号無視して轢かれてた人だ」

 クロエは、男子高校生の顔を見て、さっきの出来事を思い出した。
 端正な顔付きをしているので、印象に残っていた。
 
(勇者が2人って事は、一緒に冒険する感じなのかな?男の子と2人で!?)

 ずっと女子校に通っていたクロエは異性に免疫が無く、顔を赤らめた。

「アッ?犯すぞブス」

 男子高校生の発言で一瞬にしてクロエのテンションは地に落ちた。

「はぁ?誰がブスよ!」

(元はと言えばコイツが飛び出したせいで私まで事故に巻き込まれたわけだし!)

 クロエは、段々と怒りが込み上げてきて、顔を真っ赤にする。

「おかしいですねぇ、召喚した勇者は1人のはずですが・・・」

 女神エリスは、突然困った様な表情をしてクロエと男子高校生を見る。

(あれ?これってもしかして、どっちかは異世界転生に巻き込まれたパターン?)

 クロエは、事故の状況からして、自分が巻き込まれた側である事を確信した。

「お二人のお名前を聞いても宜しいですか?」

 女神は、右手に分厚い本を取り出して、確認する。

「私は黒木絵里です」

 クロエは直ぐに自分の名前を名乗った。

「・・・九頭龍猛クズリュウ タケルだ」

 タケルは、巨乳美女に弱いのか、頬を赤らめて答えた。

(さっきまでの私への態度との違いはなんなのよ!?)

 クロエは、黒髪ショートの白い肌をしており、胸もDはある。
 女子高生の中では美人で人気がある方だったが、女神の人間離れした美しさには勝てる気がしなかった。

「エリにタケル・・・あら、手違いがあった様ね」

 女神エリスは、タケルを見ると笑みを浮かべて右手を翳した。
 
「アッ?手違いってなんだよ!?」

 その瞬間、タケルの身体が光に包まれて消えてしまった。

「えっ?」

(間違えて召喚されたのは、アイツの方だったの?確かに勇者って感じの性格じゃなかったわね)

「じゃあ、私が?」

 クロエは、女神を見て期待の眼差しを向ける。

「そう、貴方がここに紛れ込んだゴミだったわ」

 女神エリスの冷たい視線を受けて、クロエは血の気が引いていく。

「・・・え?」

「貴方は私の世界には要らないから消えて頂戴、勇者は一人で良いわ」

 女神エリスがクロエに手を翳した瞬間、クロエの足元の床に穴が空き、暗い闇へと堕ちていく。

「はぁあ!?」

「サヨウナラ、冥界の底で永遠に這いつくばっていると良いわ」

 女神エリスは、女神とは思えない嫌な笑みを浮かべてクロエが堕ちていく姿を見下していた。
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