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49話 危険な香り

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 両手両足はロープで縛られ、股を開いた状態で固定されたクロエは、口を動かす事以外には何一つ自由が与えられていなかった。

(ユイちゃん遅いなぁ)

 準備があると言い残してユイは部屋を出て行ってしまってから、10分が経っていた。

「せめて縄を解いてから行って欲しかったけど」

 クロエは、縛られたまま、ベッドに寝転がされて暇そうに天井を眺めていた。

「おい」

 突然クリスが話しかけてきた。

「な、何よ?」

(びっくりした、魔導書のくせにいきなり話しかけて来ないでよ)

「お前、本当にこのまま待ってて良いのか?」

「どう言う意味よ?」

「ユイとか言ったか?アイツ、ヤバい臭いがするぜ?」

「ヤバい臭い?普通に良い匂いがしたけど?」

(魔導書のくせに臭いに敏感なの?)

「そう言う意味の臭いじゃねぇよ!アホ!」

「アホって言った!じゃあどう言う意味よ!?」

「危険な香りが漂っているって事だよ!察しろよ!」

「何でクリスにそんな事が分かるのよ?普通に天使みたいで良い子じゃない」

「お前は、相変わらず危機感が無いな・・・見ず知らずの女をなんでそこまで信用できるかね?」

「そんなに危ないの?」

 クリスの真剣な雰囲気に気付いたクロエは、少し不安が込み上げてきた。

「今のお前の状況を見てみろよ、2人きりで縛られて、身動き取れなくされてるんだぜ?何をされても、助けは来ない状況で何故不安にならない?」

「確かに・・・このまま監禁されても誰にも気付かれないもんね」

(私、戸籍も無いし、ここに連れ込まれた事を知っているのもユイちゃんだけだし・・・ユイちゃんが悪人だったら詰みよね?)

「しかも、あの女からは、薬品の臭いがプンプンしたぜ?」

「そうなの?」

(薬品って何!?)

「多分だが、このままいけば、お前、薬漬けにされるぞ?」

「・・・マジ?」

「マジだ!逃げるなら今だぜ?」

「逃げるって言っても、私、縛られてるんだけど?」

「忘れたのか?エロパワーが溜まれば力を使えるんだぜ?」

「そっか!じゃあ、暗黒物質!」

 その瞬間、クロエの頭上に黒い液体状の物質が出現した。

(私のロープを切り裂け)

 その瞬間、暗黒物質は、剣の様になり、クロエの身体を拘束していたロープをバラバラに切り裂いた。
 何故かクロエには、この力の使い方が身体に染み付いたかの様に理解できた。

「やった、自由になった!」

(裸じゃ逃げれないし、ついでに服にしちゃおう!)

 クロエが頭の中でイメージすると、暗黒物質は、クロエの身体に纏わりつくと形を変えて行く。

 クロエは、黒いフード付きのパーカーとホットパンツを着て、ブーツと手袋をはめた。
 
「顔も隠して活動した方が安全そうだね」

 顔には、目元を隠すアイマスクの仮面を装着した。
 猫をモチーフにした仮面にし、パーカーのフードには、猫耳を飾り付ける。

「こんな感じでどうニャン?」

(何だろ?この話し方が凄いしっくりくる!)
 
「良いじゃねぇか!似合ってるぜ」

「そ、そお?」

(そんな素直に褒められると恥ずかしいな)

 クロエは、頬を赤くした。

「じゃあ、脱出ね!」

「クロエ」

「な、何よ?」

(何よ改まっちゃって)

「今度は、自由に生きろよ」

「ん?どう言う意味よ?」

(今度?転生する前の事かな?)

「他人に振り回されずに好きな様に生きろって事だよ」

「そんなの当たり前でしょ!」

「じゃあ、逃げるぞ!」

 クロエは、窓を開けると、空へと飛び立った。


「お待たせ!」

 ガチャっと扉が開き、ユイが入ると既に部屋には誰もいなかった。

「あらら、振られちゃったかぁ」

 ユイは、手に持っていた鞭を床に放り投げて、ため息を吐いた。

「まあ、逃がさないけどね」

 ユイは天使の様に笑みを浮かべた。
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