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57話 リリスの呪い

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 部屋に戻ってきたクロエは、全裸で土下座をしていた。
 ベッドの上ではゲイルが赤い目を更に真っ赤にしてクロエを睨みつけている。

「まさか、男湯で浮気をしているとは思わなかったぞ?」

「本当に申し訳ありませんでした!」

(うわーん!ゲイル様がめっちゃ怒ってるよぉ!?)

 ベッドの上で座るゲイルは、プイッとそっぽを向いた。

「お前は、淫乱なメス犬だ!」

「はい、その通りで御座います!」

(何も言い返せない!マジで性欲に振り回されてる自分が恥ずかしい!)

「発情したら誰にでも股を開くのか!?」

「そ、そうかも知れません!」

(気持ち良くしてもらうと、どうしても子宮がキュンキュンしちゃうんだもん!本能に逆らえないよぉ)

「これじゃあどっちが獣か分からないな!」

 ゲイルは、牙を剥き出しにして、闇のオーラを纏う。
 そこには、明確な殺意が込められていた。

「おいおい、ちょっと良いか?」

 突然、魔導書が現れて、クリスが会話に入り込んできた。

「何だ!?」

 ゲイルは怒り心頭の様で、クリスにも怒鳴り散らす。

「庇うわけじゃ無いけどよ、クロエにも事情があるんだから、少しは考えてやれよ」

(え?クリスが私を庇ってくれるの?)

「ふんっ!浮気に事情だと?面白い、そんなモノがあるなら言ってみろ!」

(ひーん!?無いです!申し訳ありません!)

 クロエは、土下座のまま縮こまってしまう。

「クロエのステータスを見てみろ」

 クリスは、クロエのステータスのページを開いてゲイルに見せた。

「な、リリスの呪いだと!?」

 ゲイルは驚愕して、クロエを見つめる。

「これで分かっただろ?」

(な、何が分かったの!?)

「だが、なら、何故クロエは正気を保っていられるのだ!?」

 ゲイルは、信じられないと言った顔でクロエを見る。
 そこには、先程までの怒りや殺意は無く、哀れみが込められていた。

「多分、精神力が相当強いんだろうな!後は根が真面目なんだろ?じゃなきゃ今頃は廃人になっているはずだ」

(え!?廃人!?リリスの呪いってそんなに危険なモノだったの!?)

「なるほど・・・むしろこの程度で済んでいるのは奇跡みたいなものか」

「そう言う事だ、少しは見直しただろ?」

(待って、全然話が掴めないんだけど!?でも、怒られてる最中だから会話に入れない!)

「うむ、だが、そうなると我1人では、対応しきれないかも知れないな」

 ゲイルは、少し落ち込んだ様に頭を下げた。

「だろうな」

「だが、下等な人間に我が番を好きにさせるのは性に合わない!」

「なら、リッチやデスナイトに助っ人を頼んだらどうだ?」

「奴等か?うむ、人間よりはマシだな」

(何だか、訳が分からない方向に話が進んでいる気がするんだけど!?)

「あ、あの~、一体、何の話をしてるんでしょうか?」

 クロエは、恐る恐る顔を上げて質問した。

「クロエよ、お前に掛けられたリリスの呪いは、非常に強力な呪いだ」

「そ、そうみたいですね」

「普通の人間なら、欲望に飲まれて快楽の限りを尽くし、普通の生活は送れなくなる」

「はあ」

(まあ、私も似たようなモノだと思うけど)

「本来なら今頃は快楽に溺れて廃人になっているはずなんだが、会話が成り立つくらいに意識を保っていられるだけでも、異常なレベルなのだ」

「そこまで!?」

(廃人って、薬中みたいな感じになるって事!?怖いんだけど!)

「だが、それも時間の問題だ、リリスの呪いは、内なる欲望を我慢出来ずに本能のままに快楽を求めてしまう」

(確かに、男湯に入るのも我慢出来なかった、本来の私ならあんな事絶対しなかったのに・・・段々と理性が効かなくなってきてるのは、自覚してるんだよね)

「しかも、欲望を我慢したり禁止すれば、強いストレスが脳に負荷を与えておかしくなってしまう」

「じゃあ、どうすれば良いんですか?」

「適度に欲望を満たしつつ、行き過ぎない様にブレーキを踏む手綱が必要だ」

「でも、私の理性じゃ抑えきれないです」

「だから、助っ人を呼ぼうと思う」

「助っ人ですか?」

「うむ、当然、我もクロエの性欲を満たせる様に努力はするが、その、なんだ、あー」

「何ですか?」

(ゲイル様らしくない歯切れの悪さね)

「うむ、クロエの露出願望や陵辱願望みたいな変態的な欲望を満たすには、我では力不足かも知れないからな」

「そ、そんな願望なんて・・・ありませんよ、多分」

(どうしよう、あるかも知れない・・・)

「まあ、とにかくだ!セックスでは満たされない欲望と言うものは必ずあるモノだ!そこで、助っ人としてリッチの召喚をして欲しい!」

「リッチですか?」

(確か魔導書にも書いてあったわね)

「そうだ!リッチを新たなご主人様として迎え入れて、性欲のコントロールをお願いしろ!」

「ええ?ご主人様が2人になるんですか!?」

(私に、そんな誰にでも尻尾を振る様な犬みたいになれって事?)

「すまないな、クロエの主人は、複数居ないと難しいと判断した結果だ」

「でも、私はゲイル様が1番好きです!」

(ゲイル様が好きなのに、他の人?に仕えないといけないの?)

「分かっておる、あくまで性的な欲求を満たすためだけに呼ぶのだ!」

「うー・・・分かりました」

(つまり、体の関係だけだと割り切れって事?)

「あー、因みにリッチを召喚するには、まだ代償が少し足りないから、朝までセックスしていれば明日には召喚できるだろ!」

 クリスの一言でクロエは、寝れない事が確定した。

「あ、朝までコース確定なのね」

(別に良いけど・・・きっとこれが仲直りセックスって奴ね)
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