冬空に舞うリボン

マッシー 短編小説家

文字の大きさ
1 / 1

冬空に舞うリボン

しおりを挟む
駅前の広場には、もうすぐクリスマスが来ることを告げる大きなツリーが飾られていた。カラフルな電飾が冷たい空気の中でキラキラと光り、賑やかな音楽が聞こえてくる。そんな中、私はひとりベンチに座り、手の中のスマホをじっと見つめていた。

通知は、来ない。
何度リロードしても、彼からのメッセージは届かなかった。

「もう諦めなよ」
親友の真希にそう言われたのは、昨日のことだ。彼と最後に会ったのは三ヶ月前。その時も、些細なすれ違いから喧嘩になり、それっきりだった。

「まだ好きなんだよ」
そう言い返した私に、真希はため息をついた。

確かに、彼のことを忘れるべきなのかもしれない。でも、簡単に忘れられるような恋じゃなかった。彼の優しい声も、笑った時の目元のシワも、全部が頭から離れない。

その時、ふわりと風が吹き、私の首元に巻いていた赤いマフラーがほどけて飛んでいった。慌てて立ち上がり追いかけるが、人混みの中で見失ってしまう。ツリーの近くまで来たとき、誰かが声をかけてきた。

「これ、君の?」

振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。彼だった。

「どうして…?」

驚きで声が詰まる私に、彼は少し照れたように笑った。

「なんか、君がここにいる気がしてさ。…って、これ、ドラマみたいだよな」

彼の手には、私の赤いマフラーが握られていた。渡されたそれを手に取ると、じんわりと温かい感触が伝わってくる。

「…なんでここに?」
震える声で問いかけると、彼は少し目を伏せた。

「ずっと連絡しようと思ってた。でも、タイミングを逃して…ごめん、俺、言いたいことがあったんだ」

「言いたいこと…?」

彼は少し息を吸い込んでから、真っ直ぐに私を見つめた。

「やっぱり、君が好きだ。あの日のこと、ちゃんと謝りたかった。でも、それ以上に、もう一度やり直したいと思ってた」

胸の奥が熱くなる。ずっと聞きたかった言葉が、今ここで彼の口から紡がれた。

「私も…私も、ずっと好きだったよ」

涙が頬を伝うのも気づかないまま、私は彼に飛び込むように抱きしめた。彼の腕がそっと私を包み込み、冷たい風の中、心だけが不思議なくらい温かかった。

広場にはクリスマスソングが流れ、人々の笑顔が溢れている。そんな中、私たちの赤いマフラーは、冬空の下でそっと絡み合っていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

処理中です...