夜明けの手紙

マッシー 短編小説家

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夜明けの手紙

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真冬の夜明け前、空はまだ紺色に沈んでいた。
私は駅前の小さな郵便ポストの前に立っている。震える手で一通の手紙を握りしめ、何度も息を吐いて温めた。

手紙を書くなんて、いつぶりだろう。スマホのメッセージに頼りきった日々の中で、手書きの文字はどこかぎこちない。だけど、これだけは言葉にして届けなきゃいけない気がした。

手紙の宛先は、彼――冬馬。

私は彼に恋をしていた。いや、恋をしている。でも、それを伝える勇気がなかった。

「もし告白して、彼に嫌われたらどうしよう?」
そう考えるたび、胸の中の想いを押し殺して、何もなかったふりをしてきた。だけど、それも今日で終わりにしたいと思った。

冬馬は、この春に遠くの大学へ進学する。あと2カ月もすれば、今みたいに一緒に笑い合える日々は終わる。それなのに、黙ったままでいいわけがない。

「好きです。冬馬くん。ずっと好きでした。」

その一文を書くのに何時間もかかった。だけど、書き上げたときには心が少しだけ軽くなっていた。

震える手でポストに手紙を差し込む。引き返したい気持ちが押し寄せる。けれど、私は目を閉じてポストに手を滑らせた。カタン、と手紙が落ちる音がする。

その瞬間、背後から声がした。

「朝早いな、花。」

振り返ると、そこには冬馬が立っていた。驚きすぎて言葉が出ない。彼は私の手に視線を落とし、ポストを見て、不思議そうに首をかしげた。

「何してんの?」

「……なんでもない!」

声が裏返った。バレないように必死で隠すけれど、彼はじっと私を見ている。いつも鋭い目つきが、なぜか今日は柔らかかった。

「お前、俺に手紙書いただろ?」

「えっ……!」

思わず息を呑む。嘘みたいな偶然に頭が真っ白になる。どうして彼がそう思ったのかわからないけど、視線をそらしていると、冬馬は笑いながらポケットを指差した。

「昨日、お前の筆箱の中に入ってた下書き、ちらっと見えた。」

「見たの!?」

「悪い、つい。」

顔が熱くなる。見られたことも、彼が笑っていることも、全部が恥ずかしい。だけど、そんな私を冬馬はじっと見つめて、静かに言った。

「俺も、好きだよ。お前のこと。」

一瞬、意味が理解できなかった。言葉が心に落ちてきた瞬間、涙が溢れ出した。

「ずっと言えなかったけど、俺もお前のことずっと好きだった。」

彼の手がそっと私の肩に触れる。その温かさに、これが夢じゃないんだとわかった。

空が白み始める頃、私たちは初めて手を繋いだ。

紺色の夜が明け、二人の新しい一日が始まった。
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