1 / 1
夜明けの手紙
しおりを挟む
真冬の夜明け前、空はまだ紺色に沈んでいた。
私は駅前の小さな郵便ポストの前に立っている。震える手で一通の手紙を握りしめ、何度も息を吐いて温めた。
手紙を書くなんて、いつぶりだろう。スマホのメッセージに頼りきった日々の中で、手書きの文字はどこかぎこちない。だけど、これだけは言葉にして届けなきゃいけない気がした。
手紙の宛先は、彼――冬馬。
私は彼に恋をしていた。いや、恋をしている。でも、それを伝える勇気がなかった。
「もし告白して、彼に嫌われたらどうしよう?」
そう考えるたび、胸の中の想いを押し殺して、何もなかったふりをしてきた。だけど、それも今日で終わりにしたいと思った。
冬馬は、この春に遠くの大学へ進学する。あと2カ月もすれば、今みたいに一緒に笑い合える日々は終わる。それなのに、黙ったままでいいわけがない。
「好きです。冬馬くん。ずっと好きでした。」
その一文を書くのに何時間もかかった。だけど、書き上げたときには心が少しだけ軽くなっていた。
震える手でポストに手紙を差し込む。引き返したい気持ちが押し寄せる。けれど、私は目を閉じてポストに手を滑らせた。カタン、と手紙が落ちる音がする。
その瞬間、背後から声がした。
「朝早いな、花。」
振り返ると、そこには冬馬が立っていた。驚きすぎて言葉が出ない。彼は私の手に視線を落とし、ポストを見て、不思議そうに首をかしげた。
「何してんの?」
「……なんでもない!」
声が裏返った。バレないように必死で隠すけれど、彼はじっと私を見ている。いつも鋭い目つきが、なぜか今日は柔らかかった。
「お前、俺に手紙書いただろ?」
「えっ……!」
思わず息を呑む。嘘みたいな偶然に頭が真っ白になる。どうして彼がそう思ったのかわからないけど、視線をそらしていると、冬馬は笑いながらポケットを指差した。
「昨日、お前の筆箱の中に入ってた下書き、ちらっと見えた。」
「見たの!?」
「悪い、つい。」
顔が熱くなる。見られたことも、彼が笑っていることも、全部が恥ずかしい。だけど、そんな私を冬馬はじっと見つめて、静かに言った。
「俺も、好きだよ。お前のこと。」
一瞬、意味が理解できなかった。言葉が心に落ちてきた瞬間、涙が溢れ出した。
「ずっと言えなかったけど、俺もお前のことずっと好きだった。」
彼の手がそっと私の肩に触れる。その温かさに、これが夢じゃないんだとわかった。
空が白み始める頃、私たちは初めて手を繋いだ。
紺色の夜が明け、二人の新しい一日が始まった。
私は駅前の小さな郵便ポストの前に立っている。震える手で一通の手紙を握りしめ、何度も息を吐いて温めた。
手紙を書くなんて、いつぶりだろう。スマホのメッセージに頼りきった日々の中で、手書きの文字はどこかぎこちない。だけど、これだけは言葉にして届けなきゃいけない気がした。
手紙の宛先は、彼――冬馬。
私は彼に恋をしていた。いや、恋をしている。でも、それを伝える勇気がなかった。
「もし告白して、彼に嫌われたらどうしよう?」
そう考えるたび、胸の中の想いを押し殺して、何もなかったふりをしてきた。だけど、それも今日で終わりにしたいと思った。
冬馬は、この春に遠くの大学へ進学する。あと2カ月もすれば、今みたいに一緒に笑い合える日々は終わる。それなのに、黙ったままでいいわけがない。
「好きです。冬馬くん。ずっと好きでした。」
その一文を書くのに何時間もかかった。だけど、書き上げたときには心が少しだけ軽くなっていた。
震える手でポストに手紙を差し込む。引き返したい気持ちが押し寄せる。けれど、私は目を閉じてポストに手を滑らせた。カタン、と手紙が落ちる音がする。
その瞬間、背後から声がした。
「朝早いな、花。」
振り返ると、そこには冬馬が立っていた。驚きすぎて言葉が出ない。彼は私の手に視線を落とし、ポストを見て、不思議そうに首をかしげた。
「何してんの?」
「……なんでもない!」
声が裏返った。バレないように必死で隠すけれど、彼はじっと私を見ている。いつも鋭い目つきが、なぜか今日は柔らかかった。
「お前、俺に手紙書いただろ?」
「えっ……!」
思わず息を呑む。嘘みたいな偶然に頭が真っ白になる。どうして彼がそう思ったのかわからないけど、視線をそらしていると、冬馬は笑いながらポケットを指差した。
「昨日、お前の筆箱の中に入ってた下書き、ちらっと見えた。」
「見たの!?」
「悪い、つい。」
顔が熱くなる。見られたことも、彼が笑っていることも、全部が恥ずかしい。だけど、そんな私を冬馬はじっと見つめて、静かに言った。
「俺も、好きだよ。お前のこと。」
一瞬、意味が理解できなかった。言葉が心に落ちてきた瞬間、涙が溢れ出した。
「ずっと言えなかったけど、俺もお前のことずっと好きだった。」
彼の手がそっと私の肩に触れる。その温かさに、これが夢じゃないんだとわかった。
空が白み始める頃、私たちは初めて手を繋いだ。
紺色の夜が明け、二人の新しい一日が始まった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる