「約束の花」

「約束の花」

彼女の名前は藤原明日香。鮮やかな黒髪と瞳に宿る輝きが彼女を特別な存在にしていた。彼女は大学の図書館でアルバイトをしている二十歳の女性だった。

ある日、明日香は図書館の隅にひっそりと置かれた一冊の本を見つけた。その本には「願いが叶う花」というタイトルが刻まれていた。興味津々の彼女は本を手に取り、そのページをめくった。

すると、本の中から花の絵が浮かび上がった。驚きながらも、明日香は不思議な感覚に引かれるようにその花を指でなぞった。その瞬間、彼女の願いが花に宿ることになるとは知らずに。

翌日、明日香は大学の講義に出席するため教室に入った。すると、彼女の前に講師として新しく着任した男性が現れた。彼の名前は橘直人。髪は藤色に染められ、清澄な瞳が持ち主の内面を反映しているかのようだった。

明日香は一目で彼に心を奪われた。しかし、彼女は自分の気持ちに戸惑いを感じた。そんな時、彼女はふと、昨日見つけた本のことを思い出した。

夜、明日香は一人で図書館に戻り、再びその本を手に取った。彼女は花の絵に向かって願いを込めた。「橘直人に会いたい」と。

すると、花がふわりと光り輝き、本の中から橘直人の姿が現れた。明日香は驚きながらも、彼に対する想いを打ち明けることができた。

彼の答えは意外なものだった。「私もあなたに会いたかった。ただし、このままでは駄目だ」と。橘直人は明日香を手招きし、一緒に本の中へと入っていった。

彼らは本の中の世界で数日を過ごした。明日香は直人とともに過ごす中で、恋に落ちていく自分を感じた。しかし、彼らの時間は限られれていた。

ある日、明日香と直人は本の中の庭を散歩している最中、美しい紫色の花を見つけた。直人はその花を摘み取り、明日香に手渡した。

「これは『約束の花』と呼ばれる花です。この花は二人の絆を象徴し、永遠の約束を守る力があるんです」と、直人が優しく語った。

明日香は心が満たされるような幸福感を感じた。二人はその日から「約束の花」を大切に育てることに決めた。彼らの愛は花とともに成長し、深まっていった。

しかし、現実の世界と本の中の世界の境界線は曖昧で、彼らは長くは一緒にいられないことを知った。明日香は深い悩みに襲われたが、直人は彼女を抱きしめ、優しく囁いた。

「時間が過ぎても、この思いは変わらない。僕たちの愛は、永遠に続くんだよ」

明日香は涙を流しながら、直人の言葉に心を安らかにした。彼らは最後の日を迎えるまで、二人の愛を全力で育てた。

そして、ある日、明日香が図書館の本棚に約束の花を置くと、本の中の世界が消えていった。彼女は寂しさを感じながらも、心に温かな思い出と共に過ごした時間を胸に刻んだ。

それから数年が経ち、明日香は大人になった。彼女は橘直人との出会いと、本の中で過ごした幸せな日々を忘れることはなかった。

そして、ある春の日、明日香は図書館の窓辺で紫色の花を見つけた。それは「約束の花」が咲いているのを彼女は知った。

明日香は微笑みながら花を見つめ、心の中で静かに直人に感謝の気持ちを伝えた。

彼女の恋は本の中で始まり、本の中で終わった。しかし、その約束の花は彼女の心の中に永遠に咲き続けるのだった。