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Halima

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勇者様のことが好きだったからなんだ!」
「……は?」
今、なんて言った? 俺を好きだって? いやいや、そんなわけないだろう。だって俺はただの高校生であってイケメンでもなんでもないし、成績も普通だし運動神経も良くないし……。
「えっと、どうして俺なんかのことを……」
「私を助けてくれた時のあの優しい顔と言葉に惚れたんだ! それにさっき助けに来てくれた時の姿にもキュンときちゃったよ!」
頬を赤く染めながらそう言う彼女の瞳には嘘偽りはないように見えた。というかこんな可愛い子に好かれて嫌な気分になる男がいるだろうか、いやいない(反語)。
「だからね、私はあなたと一緒にいたい。ダメかな?」
「いや全然大丈夫だよ」
むしろこちらからお願いしたいくらいである。
「ほんとう!?やったー!!これからよろしくねっ!!」
こうして俺は勇者パーティーを追放されて、新たな仲間を手に入れたのであった。…………あれ?これ追放されてなくない? ***
「ねぇねぇ、お兄ちゃんの名前を教えてくれる?」
「ああごめん、まだ言ってなかったね。俺の名前は黒井修斗っていうんだ」
「クロイシュウト……うん覚えた!じゃあ改めてよろしくねっ、シュウト♪」
「ああよろしく、ミレイナ」
こうして俺たちの新しい旅が始まったのであった。
【おまけ】勇者たちのその後
「クソッ、なんであいつがここにいるんだよ……」
「仕方ありませんわ。ここは一旦引きましょう」
「そうだな。だが次は必ず殺す」
「では私たちはこれで失礼しますわ」
「おい待てよお前ら!どこに行くつもりだ!」
「決まってるじゃないですかぁ~。新しい勇者様を探しに行きますぅ~」
「くそっ、また振り出しに戻るのかよ……」
~fin~
「ふぃーやっと着いたぜぇー」
「ここが商業都市『カルド』かぁー。凄いなー」
王都を出発してからおよそ1週間後、ようやく目的地に到着したようだ。ちなみにこの世界の一年は地球と同じ364日らしい。そして今は6月20日の月曜日。つまり今日から新学期が始まるのだ。
「それじゃあ早速学園に向かうとするかね」
「うんっ!」
こうして俺達は学園へと向かった。
しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。これがおそらく学園だろう。その証拠に門のところに看板のようなものが設置されている。そこにはこう書かれていた。
『国立魔法科学校 アルセニア高等学校』……ん? ちょっとまてよ? 確か昨日の夜見た新聞によると、王立学校は全部で3つあったはずだぞ? それがなぜいきなり2つに減っているんだ? まさか、誰かが何かしたんじゃ……。
いやまあそれはいいとして、問題はここからどうするかだよな。このままだと間違いなく不審者扱いされるだろうし……。
うーむ、困ったなぁ……。
「ねえねえ、早く行こうよぉ~」
「ちょ、引っ張らないでくれよ。わかった行くからさ」
というわけで中に入ることにしたのだが、ここで大きな問題が発生した。というのも受付らしき場所はあるものの人が誰も並んでいなかったからだ。これはどういうことなのか?……よし、とりあえず聞いてみることにしよう。
「すみません、入学試験を受けに来たんですけど……」
すると女性は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに営業スマイルを浮かべて対応してくれた。
「ようこそいらっしゃいました。受験票をお持ちでしょうか?」
おお、なんか普通に対応されたな。よかった、これならなんとかなりそうだ。
「はい、持ってます」
そう言って俺は懐にしまっておいた受験票を取り出した。
「確認させていただきました。ではこちらへどうぞ」
彼女はそういうと建物の奥へと進んでいったので、俺たちもそれについて行った。そしてたどり着いた先は小さな部屋だった。そこには机と椅子があり、さらにその上に水晶玉が置かれていた。
「そちらに座ってお待ちください」
言われた通り座って待っていると、しばらくして先ほどの女性が戻ってきた。
「お待たせいたしました。これより試験を始めたいと思います」
いよいよ始まるのか。正直緊張するな。
「まず初めに、当校の試験内容を説明したいと思います」
それから説明されたのは次のようなことだった。
1筆記テスト 2実技テスト 3面接 4結果発表
「以上が本年度の入試になります。それでは今から配るものをご覧になって、問題を解き始めて下さい」
渡されたのは冊子だった。表紙にはこう書かれている。
『基礎学力考査・解答用紙』……ってこれまんま高校の問題集じゃないか! しかも超簡単だし! これくらいなら余裕だぜ! えーっと、問1は……ああこれね。答えはこれかな? よし、次は……おっ、これも楽勝じゃん! こんなの中学レベルだろ?
「はいそこまで! ペンを置いて後ろから回収して下さい」
「…………………………」……おかしい、なんなんだこの問題の数々は? ほとんど解けなかったんだけど!俺がバカだから? 俺の頭が残念すぎるだけ? もしかしてこの世界の勉強のレベルが低いのか? それとも俺の記憶力が乏しいだけか? いやでもあの女性だって解いてたし……。ということは俺だけが馬鹿だったというオチになるんだが、そんなことは信じたくない。というわけでもういっかいチャレンジ!…………………………ダメでした。
「はい、これで全ての科目が終わりです。お疲れ様でした。結果は後日郵送いたしますので、ご了承ください」
「ありがとうございました……」
こうして俺は絶望とともに帰路についたのであった。
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