不器用な手のひら

マッシー 短編小説家

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不器用な手のひら

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「あなたは、どうしてそんなに不器用なんですか?」

耳を澄ませば、風の音に混じって彼女の声が聞こえてくる。冷たい空気の中、僕は思わず足を止めてしまった。

彼女、真由子はいつだって僕を困らせる。意地悪な言葉、そして何も言わない時の無言の圧力。それでも、僕は彼女のことが好きだった。好きすぎて、こんなに苦しいのだろう。

「不器用なんて、僕はそんなつもりじゃ…」

「わかってますよ。だって、あなたはいつも私を避けるじゃないですか。」

思わず、言葉が詰まった。そう、僕は確かに彼女から目を逸らしていた。目が合うと、心臓が跳ねて、呼吸が苦しくなる。だから、つい彼女の前でうまく振る舞えなかった。彼女の期待に応えられない自分が嫌で、少しでも距離を置こうとした。

でも、それは間違いだった。真由子は、いつだって僕に少しだけ近づいて、少しだけ僕を試すような目を向けてきた。僕はその度に逃げていたんだ。

「ごめん、真由子。俺、君が好きだ。」

言葉が自然に口をついて出た。心の中で何度も繰り返していた言葉。それでも、言うことが怖かった。だって、彼女が僕をどう思っているのか、確かめるのが怖かったから。

真由子はしばらく黙っていた。冬の空はどこまでも青くて、静かな夕暮れだった。僕の心臓が打つ音が響く。

やがて、彼女はふっと笑った。普段は見せない、少し寂しげな微笑み。

「あなた、ほんとうに鈍いね。」

そう言って、真由子は僕に少しだけ近づいた。彼女の温かい息が、僕の頬をかすめる。

「私も、あなたが好きなんですよ。」

その一言が、僕の世界をひっくり返した。彼女が僕を避ける理由が、少しだけわかった気がした。真由子も、僕と同じように恐れていたのだ。お互いに不器用なままで、ただ時間だけが過ぎていった。

「じゃあ、どうして…?」

「だって、私もあなたみたいに不器用だから。」

真由子はそう言って、僕の手を取った。その手のひらは温かくて、冷たい空気の中でも、しっかりと感じることができた。ようやく、お互いが同じ気持ちであることに気づいた瞬間だった。

「それなら、少しだけでも上手にやってみようか。」

彼女の目が優しくて、そして、少しだけ照れているように見えた。

僕たちは、まだ不器用だった。でも、それでもいい。だって、今度はお互いに手を繋いで、歩いていけるから。
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