透明な約束

マッシー 短編小説家

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透明な約束

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学校からの帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら、紗夏(さな)は自転車をゆっくり漕いでいた。吹く風は少し冷たくて、秋の匂いがする。心にひっかかるものを振り払うように深く息を吸うと、鼻の奥に金木犀の香りが広がった。

「紗夏!」

名前を呼ばれて振り返ると、同じクラスの直人(なおと)が自転車を押しながら走ってきた。彼は学校一の人気者で、女子の憧れの的。けれど、紗夏にとってはそれ以上の存在だった。

「何してんの?こんな時間に一人で。」

直人はそう言いながら、紗夏の隣に自転車を止める。風で少し乱れた髪が夕日に照らされているのを見て、紗夏の胸がドキリと鳴った。

「ただ、帰ってるだけ。直人こそ、部活遅かったの?」

「まあね。でも、そんなことよりさ――」

彼はふいに真剣な顔になり、紗夏をじっと見つめた。

「この間の話、どうして答えてくれないの?」

その言葉に、紗夏の心臓が一瞬止まったようだった。そうだ、直人は先週、彼女に突然こう言ったのだ。

「俺と、付き合ってくれない?」

ずっと片思いしていた彼からの思いもよらない告白。でも、それが本当なのか、紗夏には信じられなかった。直人みたいな人が、どうして自分を選ぶのだろう。

「ごめん…まだ、考えがまとまらなくて。」

紗夏が目をそらすと、直人は苦笑しながら少しうつむいた。

「そうか。でもさ、俺、本気なんだよ。お前が他の奴といるの見るの、めちゃくちゃ嫌なんだ。」

その言葉に紗夏は驚き、思わず彼を見上げた。直人の瞳には、嘘偽りのない感情が宿っていた。

「…でも、私なんかでいいの?」

紗夏が小さな声で尋ねると、直人は少しだけ笑った。

「紗夏がいいんだよ。他の誰でもない、お前が。」

その言葉はまるで魔法のように、紗夏の心に深く染み込んだ。自分なんか、と思っていた気持ちが一瞬で消え去り、代わりに温かな光が広がっていく。

「じゃあ…」

紗夏が言葉を詰まらせると、直人は期待するように顔を近づけた。その距離があまりにも近くて、紗夏は恥ずかしさに耐えきれず、小さくうなずいた。

「うん、私でよければ…」

その瞬間、直人の顔がパッと明るくなり、彼は照れくさそうに笑った。

「よし!これから毎日、送ってやるから覚悟しろよ。」

「えっ、そんなのいいってば!」

そう言いながらも、紗夏は笑いが止まらなかった。夕焼け空の下、二人の自転車が並んで走り出す。これから始まる二人だけの物語に、紗夏は初めて期待を抱いた。

空に浮かぶ一番星が、そんな彼女たちを静かに見守っていた。
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