君と夏の終わりに

マッシー 短編小説家

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君と夏の終わりに

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――好きな人ができたんだ。

夏休み明け、教室の窓際で友人の千夏がそう言ったとき、胸の奥がぐっと詰まるような感覚を覚えた。彼女の笑顔は太陽のように眩しくて、何も隠せない透明な瞳が愛おしい。そんな千夏の想い人が、他でもない俺の親友、祐太だと聞いたとき、心がぐらりと揺れた。

「叶うといいな」
そう口にした言葉は、自分のものではないような気がした。

千夏は祐太に片思いしている。祐太は女子から人気があるが、どこか冷めた性格で、人に深入りしないタイプだ。千夏の純粋さが祐太に届けばいい。頭ではそう考えるけれど、心は逆を叫んでいる。

「ねえ、祐太ってどんな人が好きなのかな?」
放課後、川沿いの道を並んで歩いていると、千夏が尋ねてきた。

「わかんねぇな。アイツ、自分のことあんまり話さないし」
「そっか……でもね、私、がんばってみるよ」
そう言って笑う千夏の横顔は、切なくなるほど綺麗だった。

祐太に千夏の気持ちを伝えるべきか、黙っているべきか。そんな迷いを抱えたまま、俺はいつも通りの日常を過ごしていた。だけど、ある日の夕暮れ時、祐太が俺に不意に言った。

「千夏って、いい子だよな」
その一言が引き金となって、俺の胸の中の何かが壊れた。

「千夏が好きなのか?」
咄嗟にそう返していた。祐太は少し驚いた顔をした後、首を横に振った。

「違うよ。ただ……あいつ、眩しいんだよな。俺みたいなのとは合わない」
その言葉を聞いて、俺はほっとした自分に気づく。でも同時に、千夏が報われないことへの罪悪感が押し寄せた。

――どうする、俺。

夏祭りの日、千夏が浴衣姿で俺の家に来た。「祐太も呼んでるんだ」と嬉しそうに言う彼女の笑顔を見て、俺は決心した。

祭りの人混みの中、俺と千夏は祐太を探した。しかし、なかなか見つからない。すると突然、千夏が俺の袖を掴んだ。

「もういいや。今日は……あんたといるのが楽しい」
驚いて顔を上げると、千夏がほんのり赤い顔で俺を見ていた。

「俺と?」
「うん。なんかね、祐太のこと、あんまり気にならなくなったんだ。ずっと、そばにいてくれたのはあんただからかな」

それは不意打ちだった。祭りの喧騒の中、俺たちだけが別の世界にいるように感じた。

「……俺も、ずっと千夏が好きだった」

その言葉が口をついて出たとき、千夏が驚いた顔をした。でも次の瞬間、笑顔になって、「じゃあ、これからもそばにいてね」と呟いた。

夏の夜空に花火が咲き、俺たちの影をそっと繋いでくれた。
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