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君のいない夕焼け
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その日、夕焼けがあまりに綺麗すぎて、心が少しだけ痛んだ。
僕と咲良(さくら)は小さな田舎町で育った幼なじみだった。小学校の頃から何をするにも一緒で、僕たちはまるで影と光みたいな存在だった。どちらが影でどちらが光かはわからないけれど、僕たちは互いがいなきゃ完成しない、そんな二人だった。
中学を卒業する頃、咲良は「東京の高校に行く」と決めた。それは彼女の夢だったから、僕は反対する理由なんてないはずだった。でも、別れ際に「がんばってね」と言う代わりに、僕はこう言ってしまった。
「どうして行っちゃうの?」
そのとき咲良は、一瞬だけ目を伏せて、それからいつもの笑顔でこう答えた。
「だって、この町じゃ夢は叶えられないから」
それからの3年間、咲良とはほとんど連絡を取らなかった。スマホのメッセージアプリには何度も「元気?」と打ちかけたけれど、送信ボタンを押すことはなかった。向こうからも何も来なかった。咲良の夢はきっと、僕がいなくても叶えられるものだったんだ。
高校卒業の日、僕は地元の大学に進学することを決めていた。大きな決断でもなんでもない。ただ、何かに挑戦する勇気なんて僕にはなかったから。それで十分だと思っていたんだ。
だけど、卒業式が終わったその日の夕方、咲良が町に帰ってきたと聞いた。
駅前のベンチに座る咲良は、少し大人っぽくなっていて、でもどこか昔と変わらない顔をしていた。僕は声をかけるのに少し迷ったけれど、どうしても話したくて、一歩だけ前に進んだ。
「久しぶり、咲良」
彼女は振り返り、驚いたように目を丸くして、それから笑った。
「本当に久しぶりだね、翔(しょう)」
少しの沈黙が流れた。僕たちは何を話せばいいのかわからなくて、でもその沈黙もなんだか懐かしかった。
「東京はどうだった?」
「すごく賑やかだったよ。でもね、翔、私、結局夢はまだ遠いままなんだ」
その言葉に僕は驚いた。咲良はいつだって前に進む人だと思っていたから、そんな弱気な言葉を聞くのは初めてだった。
「でも、私、ちゃんと帰ってきたよ。だって…」
彼女の言葉が途切れる。風が吹き抜けて、夕焼けが赤く空を染めていた。
「だって、君がここにいるってわかってたから」
咲良の言葉に、僕の心が少しだけざわついた。そして、僕は初めて気づいたんだ。ずっと彼女を想っていたことに。
「だったら、次は一緒に夢を追いかけよう。咲良がいるなら、俺だって頑張れる」
彼女は目を潤ませながら、小さくうなずいた。その横顔が、夕陽の中で優しく輝いていた。
そして、僕たちはまた、一歩を踏み出すことを決めた。あの日と同じ空の下で、同じ夕焼けの中で。
終わり
僕と咲良(さくら)は小さな田舎町で育った幼なじみだった。小学校の頃から何をするにも一緒で、僕たちはまるで影と光みたいな存在だった。どちらが影でどちらが光かはわからないけれど、僕たちは互いがいなきゃ完成しない、そんな二人だった。
中学を卒業する頃、咲良は「東京の高校に行く」と決めた。それは彼女の夢だったから、僕は反対する理由なんてないはずだった。でも、別れ際に「がんばってね」と言う代わりに、僕はこう言ってしまった。
「どうして行っちゃうの?」
そのとき咲良は、一瞬だけ目を伏せて、それからいつもの笑顔でこう答えた。
「だって、この町じゃ夢は叶えられないから」
それからの3年間、咲良とはほとんど連絡を取らなかった。スマホのメッセージアプリには何度も「元気?」と打ちかけたけれど、送信ボタンを押すことはなかった。向こうからも何も来なかった。咲良の夢はきっと、僕がいなくても叶えられるものだったんだ。
高校卒業の日、僕は地元の大学に進学することを決めていた。大きな決断でもなんでもない。ただ、何かに挑戦する勇気なんて僕にはなかったから。それで十分だと思っていたんだ。
だけど、卒業式が終わったその日の夕方、咲良が町に帰ってきたと聞いた。
駅前のベンチに座る咲良は、少し大人っぽくなっていて、でもどこか昔と変わらない顔をしていた。僕は声をかけるのに少し迷ったけれど、どうしても話したくて、一歩だけ前に進んだ。
「久しぶり、咲良」
彼女は振り返り、驚いたように目を丸くして、それから笑った。
「本当に久しぶりだね、翔(しょう)」
少しの沈黙が流れた。僕たちは何を話せばいいのかわからなくて、でもその沈黙もなんだか懐かしかった。
「東京はどうだった?」
「すごく賑やかだったよ。でもね、翔、私、結局夢はまだ遠いままなんだ」
その言葉に僕は驚いた。咲良はいつだって前に進む人だと思っていたから、そんな弱気な言葉を聞くのは初めてだった。
「でも、私、ちゃんと帰ってきたよ。だって…」
彼女の言葉が途切れる。風が吹き抜けて、夕焼けが赤く空を染めていた。
「だって、君がここにいるってわかってたから」
咲良の言葉に、僕の心が少しだけざわついた。そして、僕は初めて気づいたんだ。ずっと彼女を想っていたことに。
「だったら、次は一緒に夢を追いかけよう。咲良がいるなら、俺だって頑張れる」
彼女は目を潤ませながら、小さくうなずいた。その横顔が、夕陽の中で優しく輝いていた。
そして、僕たちはまた、一歩を踏み出すことを決めた。あの日と同じ空の下で、同じ夕焼けの中で。
終わり
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