MIRAI~美少年な王子様は愛されて当然なんです~『改訂版』

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ドラマの撮影

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ドラマ顔合わせ

2013年2月18日
昼休み後の一番眠気の襲う授業。
その時間の終わりを告げる鐘が学園に響き渡る。

「じゃぁ、来週は小テストするからしっかり復習しとくように」

そう言って先生は教壇を降りて行った。

「はぁ~っ、やっと終わった。後一限で帰れる~っ」

睡魔との戦いに途中途中で負けながらも、魔の時間から解放された喜びを感じ、未来は両腕を高く上げて背伸びした。

「だな。あ、でもそういえば今日じゃなかったっけ?ドラマの顔合わせって」

未来の言う様にあと一限で学校は終わるのだが、彼のこの後の予定を思い出し琉空は言った。

「あぁ、うん。そうだよ」

未来は次の授業の教科書を、ロッカーから取り出しながら琉空の問を肯定した。

「結構有名どころが揃ってんでしょ?確か主役は井川寛也君、だっけ?」
「うん。ってか何?それもネット情報?」

誰がどんな役で出るのかまでは琉空に話してなかったにもかかわらず、彼がそれを知っていた事から未来はそんな風に投げかけた。

「はは、まぁそんなとこ。それに女子の話題でも持ちきりだし。でもお前大丈夫か?」

わざわざ検索した訳ではないが、たまたまネットニュースに上がっていたのを開き知った。
しかしその見出しに琉空は少しばかり違和感を覚えたのだ。

「ん~?何が~?」
「何がって、ちょっと目立ちすぎじゃない?」

‘ 加藤未来、復帰ドラマは如何に!?’
琉空が見た見出しの文言の一つ。
他にも未来の出るドラマ関連の記事の見出しには、必ずと言っていい程未来の名前が書かれていた。
確かに目立ち過ぎている。
未来もそれは琉空から指摘されなくとも思っていた。
そしてこんな風に主役を差し置き目立つのは、中々厄介なんだよな、と未来は軽くため息を付きながら思った。



2023年1月1日

「ちょっと年始そうそういつまで寝る気?いい加減起きてよ!」

長い髪を綺麗に巻いた歳若い女性が肩を揺さぶっているのは、ベッドで布団をすっぽりと被った20代後半の男。
黒い長めの髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、男はのっそりとした動きで徐に体を起こした。
眉間に皺を寄せ、寝起きの不快を露わにする男に女は言った。

「あけましておめでとう」



ピチピチと、鳥たちのさえずりが聞こえてきそうな麗らかなお昼時。
だがここはタワマンの高層階。
ベランダを見ても鳥の姿はない。
彼女に起こされた男は、洗面所で顔を洗い、歯を磨き、ようやく覚めた頭でリビングのダイニングチェアに腰を下ろした。
そして彼女が容れてくれたモーニングコーヒーにちびりと口をつけながら、男、こと井川寛也はテーブルに置いてあるスマホを手にした。
指紋認証でロックを解除し、画面を見るとLINEメッセージの通知が数件。
そのほとんどが新年を祝う言葉で始められ、あぁ、年が明けたのだなと寛也が実感をしていると、テーブルを挟んで寛也の前、椅子に腰を下ろした彼女がねぇねぇと声をかけた。
彼女の呼びかけに寛也が顔を上げると、何やら興味深そうにこちらを見る彼女の瞳。
そして彼女はずいと体を前のめりにし寛也に聞いた。

「知ってた?さっきニュースでやってたんだけどさ、加藤未来君、芸能活動休業するんだって」
「…は…?」

言われた言葉の意味が寛也にはすぐ理解できなかった。
だって、休業?誰が?加藤未来って、あの自分が知っている加藤未来の事なのかと、寛也は瞳を丸くしぽかりと口をあけてしばしば固まってしまった。



2013年2月18日
未来が顔合わせ会場に着くと、そこにはメディアで見知った顔ぶれが既に何人も居て、各々見知った役者やスタッフと談笑していた。
そんな彼らの中でも一際目立つオーラを放っていたのは、ベテラン俳優の谷口努。
初老と言われる歳の頃で、ダンディなおじ様な整った顔立ちではないし、頭も薄くなっているのだが、それでも醸し出すなんとも言えない佇まいが人を引き付けていた。
若手女優の秋山陽香も、TVで見る数倍綺麗な透明感のある顔立ちで、艶のある長い黒髪が清楚で可憐なイメージを強く増長させた。
そして主演の井川寛也。
TVで見かけた彼はどこにでもいそうな普通の青年に見えたが、しかし実物はとても格好よく、短く刈り上げられた黒髪が、彼の爽やかな雰囲気にとても良く似合っていた。
未来は遠巻きにそんな彼らを見て、やはり名前の通った芸能人は皆オーラがあるなぁと、一人そう感心しながら周りを観察した。
三人は別格だが、他の役者達からも勿論人並み外れた空気を感じる。
でもきっと、自分だってそこそこいけてるはず。
負けてなんかないはずだと、未来がそう自身を奮い立たせていると。

「芸能界復帰おめでとう」

ひょこりと未来の前に顔を出したのは、今しがた未来が視線を送っていた相手の一人、井川寛也だった。

「え、あっ、どうも、ありがとうございます」

まさかの彼の声がけに驚きながら、未来は深く頭を下げてお礼の言葉を述べた。

「未來君の復帰作で共演できるなんて俺ってめっちゃラッキー。これから宜しくなっ?」

にかりと人好きする笑みを浮かべて、寛也は未来に握手を求めてきた。

「あ、そんなっ。こちらこそですっ。ってか僕の方こそラッキーですよ。復帰初めての仕事で井川君主演のドラマに出させて貰えるなんて。頑張りますので宜しくお願いしますっ」

未来は寛也の手を取り握り返すと、そう意気込みを彼に伝えたのだが。

「いやいや~、もう十分頑張ってくれてるじゃん?」
「え?」

ニヤリと先程とは打って変わって、人の悪い笑みを携える寛也に、未来は思わず言葉を詰まらせた。

「不可抗力かもしんないけど、自分のお陰でこのドラマ、業界内でもすげー注目されてるらしいから~」

少し目を細めてそう言う寛也から、それが嫌味からくるものなのかどうなのか分からず、未来は返す言葉を探った。

「あ、えっと…、なんか、すみません…」
「何謝ってんだよ」
「え?」

探った結果良い言葉が思い浮かばず、とりあえず謝罪をしてみたのだが、それが不味かったのだろうか、と未来が不安に瞳を揺らしていると。

「いや~、俺的にまじ超助かってるから。番宣とかあんましなくて良さそうだしさ。俺苦手なんだよね、バラエティーって」

しかし未来の予想に反し、寛也からは全く敵意を感じられない。
が、しかしまだ油断は禁物だ。
未来は寛也の本心を探るように言葉を選んで返した。

「え…、そう、なんですか?」
「うん。だからサンキューな。話題つくってくれて」
「あ、いえ、そんな…」

なんの曇のない笑顔を浮かべている寛也だったが、未来はそれでも安心しきれないでいた。
だって嘘だろ?本気でそんな事思っているのか?
と、自分なら主役を差し置いて何注目浴びてんだよって腹が立つのにと、未来はそう思うからだ。
それなのに寛也から不の感情は見受けられない。
未来彼の事をいい人だなと分析し、ほっと胸を撫で下ろしていると。

「でもさ、期待を裏切らないようには頑張んないとな。一緒にいいドラマ作ろうな?」

そう言って、寛也は未来の頭を親しみを込めて、わしゃわしゃと撫で回した。

「はいっ。宜しくお願いしますっ」
 
未来もそんな寛也の行為を笑顔で受け止め、そして再び軽く頭を下げたのだった。
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